テレプシコーラ/舞姫 第1部
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テレプシコーラ/舞姫 第1部

山岸凉子

美しいけれど過酷な世界

ネタバレ
2022年5月29日
このレビューはネタバレを含みます▼ 名作の放つオーラに圧倒されました。バレエの奥深さを感じられる作品です。凄みすら感じました。鑑賞するには美しいですが、努力だけではどうにもならない過酷な世界。喜怒哀楽の「怒」と「哀」の感情をより多く掻き立てられたような気がします。

全10巻の内、1~4巻は謎多き転校生空美ちゃんと千花ちゃん・六花(ゆき)ちゃん姉妹との生活環境のあまりの違いに「こうも違うものか」と口惜しささえ覚え落ち込みました。辛い状況下でも厳格なワガノワ・メソッドを身につけた空美ちゃんの精神力が泣けました。(空美ちゃんのことは第2部で続きがありました!)

5~10巻は千花ちゃんの脚の怪我が悲しくて悲しくて。。タイトルの『テレプシコーラ』は説明に「太陽神アポローンが率いる九人のムーサイ(ミューズ)の一人。合唱詩と舞踏をつかさどる女神」とありましたが、千花ちゃんと六花ちゃんのことかもしれませんし、バレエに携わる方々も含まれているのかもしれません。英雄が一変して堕ちる様をギリシャ神話では悲劇にカテゴライズされますが(『オイディプス王』の悲劇等)千花ちゃんの怪我は悲劇そのものです。しかも怪我による手術は病院側の落ち度で再手術を繰り返し、バレエダンサーとして再起不能となったこと…嫉妬や妬みによる中傷、嫌がらせや周囲の過度な期待…それらが招いた結果としての10巻はただただやるせなくて悔しくてウルウルが止まらずやけ酒をあおりました。

悲しい気持ちが消化できない中、六花ちゃんの天賦の才によりコリオグラファー(振付家)としての将来の姿が窺い知れたことが一筋の光が差し込んだように感じ、最後は感動の余韻に浸ることができました。

『日出処の天子』とはまた違った世界観と切り口で様々な感情を揺さぶられました。各巻の表紙もバレエの躍動感が指先まで伝わり素敵!大変面白かったです。
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