シャングリラの鳥
」のレビュー

シャングリラの鳥

座裏屋蘭丸

最新の分冊版(ACT15)まで読了!

2022年6月12日
『Coyote』の座裏屋蘭丸先生がとてつもない作家さんだと知ったのが一年半前。数々の称賛レビューに誘われ試し読みをチラ見したのですが、漫画初心者だったこともあり、漫画の域を超えたレベルの絵に圧倒され怖気づき読み進めることができなかった。あれから一年半、満を持してようやく座裏屋ワールドに踏み込んだ瞬間に陥落。漫画ではなく映画のようだとレビューされている読者さんが多くいらっしゃいますが、まさしくその通りで、高精度な絵コンテで構成された映画を観ている錯覚にとらわれます。ストーリー自体が素晴らしいのはもちろん、回想シーンの入れ方の演出とタイミング、セリフのみならず、モノローグも全て含めたシナリオ、ライティング(…いや、実写じゃないので照明さんなんていませんが)、演出(コマに描かれる絵の構図、アポロ、フィーの目、手)など全てが超漫画技巧…。そして、絵がとてつもなくお上手(という安っぽい言葉を使いたくないのですが)という。図工・美術のセンスが一ミリもない私にさえわかる「作画コストが高い」漫画なのだろう、どれだけ手間暇をかけて描いて下さっているのだろう、と座裏屋先生に心から感謝。表紙や若干のカラーページを覗いて白~黒だけで表現される漫画なのに、モノクロだけで光、影、闇を自由自在に操るライティングは圧巻で、それが二次元の絵の中で奥行きを出していることも、映画を観ている錯覚に陥るのだと。絡みのシーンでは、まずは優しく唇を重ね(シャングリラではアポロとフィーのキスは2巻最後でようやく登場でしたが!)、耳やうなじ、首筋にもゆっくりと唇を這わし、手をそっと肌に重ねて優しく滑らせて…という具合で丁寧に愛情を伝える表現を美しくこまやかに描いて下さり、繊細なライティングがそれをより官能的に仕上げて下さる。『シャングリラの鳥』では南国の湿った空気さえ如実に読み手にまで漂ってくる中で、互いに心に傷を負ったアポロとフィーがシャングリラの禁断のルールに阻まれながらも少しずつ惹かれあって行くその遅々とした展開に涙し心揺さぶられ、しかしその禁断のルールはこの物語の最大の伏線、だからこそまだまだ完結はしてほしくない、二人とも心身共に解放され、アポロの能動的情熱がフィーに届き、二人が愛を紡げるようになるまで読者をジリジリさせてほしい、少なくとも単行本5巻以上の連載であって欲しいと切に望みます。
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