このレビューはネタバレを含みます▼
「異類婚姻譚」といいつつ、肝心の「異類」の描写がいまいちな作品もある中で、本作は大蛇の描写が本当にリアルであると同時に、主人公が「ヘビと暮らす人」の心情そのもので、とても驚きました。
たとえば冒頭すぐにある、脱皮を病気じゃないかと心配するくだりは、ヘビを飼いはじめた人ならだれもが経験するものではないでしょうか。
また、主人公が「大蛇さまは火の調整にうるさいし、戸を開けっぱなしにする」といった愚痴をこぼしますが、これもヘビが自分自身では体温調整ができないことに由来しているのだと思います。
こういった主人公を「振り回す」描写が、ただの「わがまま」ではなく「ヘビの生態」に即していて、しかもそれが自然と物語と溶け合っていることに、この物語の凄みを感じます。
ヘビの生態に翻弄され、ときに嫌悪感や恐怖を抱きながらも、その強さと愛らしさ、そしてなんとも言えない冷たい肉体に惹かれてゆくという感覚は、まさに「ヘビと暮らす人」そのものです。