いけない子
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いけない子

吉田ゆうこ

物理的死ではなくならない天馬の存在

ネタバレ
2022年6月21日
このレビューはネタバレを含みます▼ 265ページ。
うまいこと考えがまとまりませんが、かなり好きな作品です。複雑な感情と椿のまっすぐな視線のコントラストが効いていました。
恋人の死を受け止めきれない、狂気と純粋の間の危うさが良かったです。少しだけ歯車のズレた、白昼夢に似た雰囲気がありました。
こういう、恋人の死から始まるのって、死んでしまったキャラが忘れられたり、もう居ないものとして整頓されてしまったりするパターンが多いと思うんですが、今作はどちらでもない。「心の中に生きている」とかではなく、椿と幹が一緒にいる限り、天馬もそこに在り続けるような。いつかあの世で仲良く三角関係になるんじゃないかと思います。
椿と天馬は似たところのある者同士の共依存的関係、そして天馬から幹に寄せる絶大な信頼、そこからはじまる椿から幹への恋心。椿は「天馬は許してくれない」って言うけれど、それは『椿が天馬に許されたくない、許さないほどに天馬が自分を好きであってほしい』という気持ちもあるのかなー、とか、同時に自分自身も天馬を好きな気持ちを減らすのは許せないのかなー、とか。真相は永遠に不明瞭ですが、少なくとも私は、許す許さないを超えて天馬は椿も幹も大切だったんじゃないかなー、と思いたい。
生前の天馬が、それぞれの立場からの記憶の中でしか出てこないのが、遺された側の物語としての切なさを引き立たせて良かったです。
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