渇仰
」のレビュー

渇仰

宮緒葵/梨とりこ

かなり狂気でした。でも好きです。

ネタバレ
2022年7月2日
このレビューはネタバレを含みます▼ ページ数もですが、内容に厚みがありとても読み応えがありました。
ただの執着愛だと思って読むと驚きます。達幸の明良への想いが常軌を逸していて、狂気じみた執着と異常すぎる達幸のキャラクター性に引き込まれます。
本当に達幸がどうしようもないです。口では「俺は明良の犬だから」と言っていますが、犬なんて可愛いもんじゃありません。これはケダモノ。狂った獣を人間の明良がどう躾けていくかの話です。読んでいてふと、南総里見八犬伝の八房と伏姫を思い出しました。
明良は常識を持つ普通の人物かと思われますが、実はすごい人格の持ち主です。達幸の狂った世界に呑み込まれながらも執着を愛に昇華させ、身も心も捧げることによって狂犬の手綱を握ります。器が広いというレベルではなく、達幸の狂気に真正面から向き合って己の全てを献身します。側から見れば2人ともかなりヤバイです。
しかし飼い主である明良と飼い犬の達幸の主従関係は確立されますが、だんだんと明良は男の魅力あふれる達幸に籠絡され、精神的に繋ぎ止められていきます。もしかすれば本当に立場が上なのは犬である達幸の方かもしれません。
辛い過去ゆえに、世界を色づけてくれた明良からの愛に飢える達幸は痛々しく、明良への執着は不健全な愛にも感じます。ここまで病的な執着を恋愛カテゴリーに一纏めにしてしまうのは危険かとも思いますが、これこそがある意味究極の愛の形なのかもしれない、とも思いました。
俳優とマネージャーという職業らしく、芸能界ならではの描写も細かく描かれていてリアリティがありました。何より明良の犬である達幸の本性と、俳優としての外向きの顔のギャップが激しくて面白かったです。
濡れ場は多く、少し過激で独特なので好き嫌いが分かれるかもしれません。完全にファンタジーです。
達幸が明良の肉を本気で食べるシーンは2人の関係の異常性を前面に押し出していて、魅せられました。
あと、個人的には達幸の笑い方がぐふふ、なのが何とも気持ち悪くて好きでした。
苦労人の松尾さんなど他のキャラクターも素敵で、もっとエピソードを読んでみたかったです。
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