逃避行じゃあるまいし【単行本版】
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逃避行じゃあるまいし【単行本版】

タクアン

表紙の印象より軽やかで面白い短編集

2022年7月9日
3CPで構成される短編集。これが週末の酒のアテにするのにいい感じに、無駄なく切り取りたい場面だけで構成されたショートムービーのようなキレのある出来栄えだった。
1つ目は、逃げ癖のついた受けと元本職の捕物帳大好き攻めの「逃避行じゃあるまいし」。受けに過去何があったのかや攻めが今何をしているのかなどは描かず読者に想像させて今の2人の心理と表情に集中させる作りだ。いわゆるストーカーは相手を支配したいという心理が行動化するのだが、この攻めは違う。しかし、受けの見つかったときの表情を見て欲しい。まさに破れ鍋に綴じ蓋。2人でどうぞお幸せにの見本のよう。
個人的に一番好きなのは、2つ目の「恋しさ募って」。幼馴染か、学生時代から知っている関西人の2人が社会人になって1人は東京へ行ってしまい、再会してお酒を呑んだ後、去りがたくなって、うっかり本音が出たり引っ込めたり、しまいにボケとツッコミの応酬になっていく様がテンポ良い台詞で綴られ、いつのまにか近所のおばちゃんになった気持ちで酒を呑みながらチャチャを入れたくなる出色の出来映え。特に名前を呼ぶときの「さん」「くん」「呼び捨て」の三段活用が、そのときの気分を偲ばせ、読んでて面白かった。この2人の会話は、関西人には100%イントネーション含めて再現できる面白さだが、関西人でなくてもちゃんと面白いと思う。最後に致すシーンも対等な関係だからこそのおかしみがある。
もう一つは、○毛フェチの皆様お待たせしました、の「そういうの早く言ってよ」。ガチムチで○毛フサフサおじさんの恥じらいと逆襲を堪能できる。単話で追いかけてきた方も、2編の書き下ろしと、店頭ペーパー特典がついてくる。
それぞれ、絵と構図が秀逸。特にリアルなタッチで描かれる普通の人の普通さがかえって新鮮で実際そのへんにいそうな存在感がリアルBL感を際立たせる。全部合わせて1冊以上の読み応えがあって満足度が高かった。2CP目の2人が可愛くって、本当に日本酒飲んでツッコミ入れながら味わいました。作品の内容と共にそんな風にして読みたいと初めて思った作品という意味でも面白かったです。
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