水の春
」のレビュー

水の春

黒沢要

優しく丁寧に紡がれてる

ネタバレ
2022年7月10日
このレビューはネタバレを含みます▼ ●表題作。1話の澄の“猫かぶり”や、澄が語る“父親”に関する狂言(作者さんまで読者を欺いてくる!)を、「あーそういうことなのかぁ…」って思えるかどうかでお好み分かれそうです。是非ここを乗り切って読み進めていただきたい…
●(ネタバレ→)父親が同性を愛して一緒に暮らしていることを隠して守ろうとしてる澄。対して吉野は、あけすけに澄へ「好きだ」と伝えてくる。澄は、なぜ、と思うと同時に羨ましくもある。
●一方で、父親たちもそうだからか、吉野の「好き」を偏見なく受け止めることはできる。父親たちのことを吉野に話して以降、吉野は澄の“本音で本当のことを話せる人”になっていくけど、返事は濁したまま…。このへんの、澄の微妙な心情の揺れが好きです。
●吉野が澄に聞かせたピアノ曲、リストの《マゼッパ》、調べて聴きましたよ…。吉野から澄へのメッセージを含む曲なのかな?とも思ったけど、多分この場面では、吉野は自分の持つ“最高の技術”を披露したんじゃないかな。その上での「全部あげる」なのだと思うと、震えます。精一杯の言葉で応える澄も素敵です。
●想いがイコールに重なる場面の二人がかわいい。これがカバー下と描き下ろし『六月来る』に繋がって…気持ちがほわっとなります。
●『花の雨』は澄の父親と基とのお話。本編の三年前かな?こちらもすごく良かった。亡き妻に重ね(られ)ているのでは…と、お互いが悩んでいた二年間。澄もしっかり関わっているのがとても良い。こうして二人+澄の今があるのだと。
●『春日和』父親、基、澄のひとコマ。『六月来る』吉野と澄の数年後(同じ大学でルームシェア)。『凌霄花』同じ頃、家に二人きりになった父親と基。カバー下は吉野と澄、高3の冬。全部通して読むと、本当に読後感が良いのです。
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