このレビューはネタバレを含みます▼
◆初めての作家さんですが、画力が素晴らしいです。
艶やかで美しくて、背景も異国情緒に溢れていて、乾燥した空気や湿っぽい地下の雰囲気も伝わってきます。
主たる登場人物はどのお方も美麗です。
ストーリーも読み応えがあり、最初に感じた違和感(謎)を、過去の経緯を交えながら徐々に回収していく形で構成されています。
◆ただ、腑に落ちない点も多くあります。
まず、男性主人公カリーファは捕虜時代に、幼少期の女性主人公ライラから本や食べ物などたくさんの差入れを貰いますが、閉じ込められた部屋で本はどこにも隠しようがないのに、そこはスルーされていたこと。
ライラの双子の妹で賢く残忍なマレイカは、その同じ部屋でカリーファにお仕置きをしています。マレイカはライラのしたことだと解っていて敢えてスルーしていたとしても、従者や警備の者は気付く筈…。
マレイカがそこには触れないよう、下々に指示していたのでしょうか…?
次に、カリーファがマレイカの玩具(遊び相手)の役目が終わった後に、「王(マレイカの父)の慰み者になった」という事が言葉でしか表現されておらず、王はバイだったのか?それとも性的なことではなく奴隷のように扱われたのか?という疑問は解消されないままです。
また、その後カリーファは脱獄に成功しますが、志は高かった筈なのに、一時盗賊に身を堕とすという部分も引っ掛かりました。
幼少期のマレイカの言葉巧みな罠により、どん底に叩き落とされたものの、その後半年かけて脱獄を成功させた意志の強さに対して、生きるためとはいえ盗賊になったというのがどうしても腑に落ちませんでした。
なんとしても祖国の地に帰るべく、苦渋の決断だったというような、苦悩の過程が欲しかったです。
「盗賊時代に村を襲った」という言葉。カリーファが反乱を成功させ新たな王になった後も、その罪は混乱の世ではスルーされ、襲われた村人たちに救済がないのか…と悲しくなります。
カリーファが盗賊をやめ、反乱軍に合流して立ち上がるまでの過程もあっさりしていて、カリーファの気持ちの切替に私はついていけませんでした。
上記の部分についても丁寧に描いていただけたら、長編の感動作になったのではないかと少し残念です。
現在と過去のエピソードが入り乱れる展開なので、省かないと話が見えにくくなるという危惧があったのかもしれませんが、ぜひ細やかに描いてほしかったです。