このレビューはネタバレを含みます▼
「美しい彼」で、心理描写も言葉選びも卓越した作家さんだと感じ、他の作品も読んでみたくなって、こちらを読ませていただきましたが、BLというジャンルを超越して、もはや純文学の域ではないかと。
最後のSSは、城山三郎さんの「そうか、もう君はいないのか」を彷彿とさせ、このくだりなしには感動の度合いもかなり違ったろうと思います。映像では描けない、小説ならではの醍醐味で、それもまた善き。
事故に遭う前の自分を捨てきれずに苦しみ続けた朔太郎が、「事故がなければつぐみに会うこともなかった」と、障害を前向きに捉える場面が一番好きです。
そして、大学ノートにメモを取らなくなったきっかけは、言わずもがなですね。忘れることよりも、つぐみを失うことを恐れていた朔太郎ですから‥
小山田先生の表紙(夕暮れ時を、手を繋いで幸せそうに散歩するふたり)は、朔太郎の心象風景そのもので、読後に見返すと、より感動が深くなります。