【限定おまけ付き】 掌の檻
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【限定おまけ付き】 掌の檻

宮緒葵/座裏屋蘭丸

互いのみを糧に生きる愛

ネタバレ
2022年7月26日
このレビューはネタバレを含みます▼ 内容が濃く読み応えがあり、ずんっと内臓に響くような重みのある話です。恋愛カテゴリーに入れてしまってはいけないような、病的で不健全な執着愛。究極の愛の境地とでも言うのか、相手がいなければ生きていけない、強烈に狂った共依存の関係に圧倒されました。
心情描写が細やかで、明かされていく執着攻めの闇にハラハラしながら読み進めていきます。順風満帆な人生を何不自由なく過ごしてきた受けの数馬が、愛に狂った攻めの雪也にじりじりと搦め捕られていき、ついには肉体・精神共に籠絡され堕ちていくさまがなんとも暗く狂気的です。一見すると「外面はハイスペックなイケメンだが、好きな相手に対してのみ愛が重くサディスト」みたいなわりと女性に好まれやすいありがちな設定ですが、この作家さんの場合その狂気の度合いが異常なので、全く異なる切り口で面白く読めます。
愛情不足による母親への依存は雪也の人格形成に大きな影響を与えたと思いますが、重要だったのは生来の愛情深く内向的な気質だと思います。度重なる愛情の裏切りは元来多くの愛情を必要とする気質である雪也には耐え難く、絶望経験は心の内に闇を増殖させ、最終的に目的のためには手段を厭わないソシオパスを生み出してしまいました。しかしそれにしても、数馬がたった一度の裏切りを一生の罪とするには小さいのではないかな、とも思います。雪也の負ってきた痛みを共に背負おうとする数馬はこちらもやはり狂人で、ある意味お似合いの恋人なのでしょうか。ラストは好みが分かれるところですが、この歪な愛の形は最も彼らに相応しいと思いました。
濡れ場はそこまで過激ではないものの、やや特殊です。食べる・食べられるという比喩だったり、体液に異常な関心を見せるところだったり、ハイグロフィリアみたいな感じもして色々と常軌を逸しています。
個人的には雪也のキャラクター性や人物描写がとても好きでした。どこか退廃的な美しさを感じさせる容姿は、描写が文章に色香を漂わせています。度々出てくる「雪原の椿」という表現が、愛を欲して孤独に凍った雪也の心の永久凍土を表しているようで印象的でした。
座裏屋蘭丸先生のイラストも美しく扇状的で、物語の世界を広げてくれました。
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