不埒な貴族と籠の小鳥
」のレビュー

不埒な貴族と籠の小鳥

キャロル・モーティマー/清水由貴子

「悪魔公爵と一輪のすみれ」の姉妹作だが…

2022年7月31日
まず作者キャロル・モーティマー氏は公爵が頻出。少ない爵位ながら狭い貴族社会に公爵だらけ、頁を手繰る序盤から疑問。
余りにむごい6年間とだめ押しの1年が過ぎ、晴れて自由を満喫する主人公。痛々しい。今よりもっと自立の術を持たぬ古い時代の女の哀しさを想う。更に、晴れて直ぐ憂いなくという訳にはいかず、暗黒の結婚生活がもたらした恐怖心が再三彼女をさいなむ。
悪人の暴力的支配の描写は主人公からいろいろなものを奪ったにもかかわらず、この悪人がストーリー中に読者的に胸をスカッとさせるような末期を迎える場面はない。結果をさらりと知るのみだ。
ベネディクトも過去に凄惨な事件の記憶を抱え、屈託ない半生ではなかった。
二人の、互いの愛の自覚のタイミングは古典的手法。
しかしそのルートは、ハーレクインの中でも扇情的でスキャンダラスで、ヒロインを威圧する者がちらつくスリルや、誰かに目撃されるのではという状況的な興奮を想像させる中で、セクシャルなエピソードを積み重ねる。
最早、ストーリーは、その二人の危なっかしくも、詰めにまでは及べぬ障害の発生を挟む、際どいシチュエーションを楽しんで読む、という趣向と感じる。そんな時は無理でしょ、の場面も。
何しろヒロインを脅かす存在の退散はあっけなかった。
そして、彼ベネディクトを縛り付けた殺人事件の犯人登場を、わざわざもって回って物語の転回部に置くのが不自然な犯人探しの経過を辿ってるのだ。
なにもヒロインの指摘の前に普通は、そこは調査するもので、取り立ててヒロインの閃きでもないような。その漏れは、キャリアをそこそこ積んだベネディクトには考えられない。迷宮入りになるかもしれなかった事件に、かつ長年正体がばれない、いわば「プロ」である犯人が馬脚を現すシーンは、いかにも軽率な行為であった。犯人が饒舌になるのはこの種の話につきものだが、この話の場合は、危機を何度かは経験した立場であるはずの、百戦錬磨の専門家。人払い程度も叙述見る限りプロにしては脇が甘すぎる。
つまりは、二人の関係進展の周囲に配置された事が、少々取って付け感を禁じ得ない。敵はそれぞれに居たにも関わらず、チョロいのである。
余計に、性的描写が前面に出てしまった。
直前に読んだ「マッケンジーの山」 に単純比較しても話の力が弱く物足りない。2%「そもそも彼らに噂をするだけの勇気が」の「彼らに」不明。
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