仕事でも、仕事じゃなくても
」のレビュー

仕事でも、仕事じゃなくても

よしながふみ/山本文子

よしなが作品の解像度が上がる珠玉の1冊

2022年10月2日
白泉社の半額セールの都度、少しずつよしなが先生の作品を買い集める中「フラワー・オブ・ライフ」を読んで改めて、漫画の中のお約束を踏襲しない、柔らかなフェミニズムの薫る作風が自分の感性にあまりにもフィットすることに衝撃を受け、作品に流れる自由な雰囲気の源泉を知りたい気持ちが募り、フラフラと、作者へのインタビューで構成されるこちらの本を手にした。
そこには、1970年代に生まれ、漫画を慈しみ、漫画に救われ、自分の力で生活をして、漫画を描き続けるにはどうしたらいいか、を考え抜いて過ごした幼少期から商業デビューするまでの日々と、その頃出会った作品のキラメキ、それらが自分の創作にどのような影響を与え、結実したか…について、先生がすぐ隣でおしゃべりしているのを一緒に聞いているような世界が広がっていた。
共働きの両親の下、働き続けることを決めていたけど、ハッキリ言い出せない時代感、性別役割論に対する違和感、そして生きる上で恋愛ばかりが大切なわけではない、という感性が、自由な価値観を感じさせる作風に繋がっているのか…本人は、サラッと作品世界に反映させているが…と、合点がいくことの連続。
作品の裏話もたっぷりあり、これまで読んできた作品の解像度がグッと上がり、より一層魅力的になるありがたさ。
こんなに長くプロの漫画家として活躍しながら、語り口は謙虚で、本当に自分と地続きの世界で生きている人なんだ、と実感する一方で、売れる、売れないは気にしない、でも食える漫画家か食えない漫画家かは違う、という言葉と、食える漫画家であるために実践していることを語る口調は力強く、プロ作家としての矜持を感じると共に、同世代の働く女性の生き様を振り返るお仕事本の側面も。

これ1冊で手持ちの作品の理解が深まり、同世代の漫画好きがプロ作家になったその後の人生を追体験できるなんて、なんて贅沢な本なのだろう。
昔は漫画は大人が読むものじゃない、と言われていたけど、いい時代になった。これからは大人が読んで面白いと思える作品が増えそうだ、ということがインタビューでも語られ、楽しみが尽きない。レビューという表現の場があることも、作品を深く理解しようとするきっかけとなっていていい。

タイトルは、作者の漫画を描くことに対する意欲から。巻末のコミックス解説も作者の幅広いジャンルでの活躍を俯瞰するのに最適。
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