このレビューはネタバレを含みます▼
『花に嵐』のスピンオフ。北條と神谷の大学の友人である中村豪と、その幼馴染である高見沢幸彦とのお話。京都の大学に通う中村は、東京に住む幸彦と身体を繋げるようになります。小説家である幸彦は、その作品のように小難しい言葉を並べるので中村には幸彦の本心がわかりません。結核を病む幸彦は、中村の前で吐血して入院します。線が細く、父親もまた結核で亡くしている幸彦は自らの命の長さを測りかねて、中村に好きだと告げること無く身体だけを重ねることを選んだのでした。幸彦の気持ちがわからないままの中村ですが、次第に自分は幸彦のことが好きなのだと自覚してゆきます。昭和の学生運動という熱に浮かされたような時代背景に、限りなく脆い幸彦の命、もどかしく燃え上がる恋と、全てが真夏の蜃気楼のように脈打つ独特の世界観です。蜃気楼ゆえに全体に朦朧としているのが好き嫌いの別れるところかと思います。『花に嵐』では描かれなかった北條の逮捕の瞬間が中村の目を通して描かれています。