氷の城壁【タテヨミ】
」のレビュー

氷の城壁【タテヨミ】

阿賀沢紅茶

神は細部に宿る

ネタバレ
2022年10月30日
このレビューはネタバレを含みます▼ 漫画でも映画でも演劇でも、リアリティのある作品が好きだ。
だからこの『氷の城壁』をこんなに好きなのはそれがあったからなんだけども、そもそもリアリティってなんだろう?って改めて思った。

漫画表現におけるリアリティを構成する大きな部分のひとつは感情の機微にあると思う。
「過去と未来とを繋ぐ時の流れの中で、このキャラクターは今この情報とこの情報を把握していて〜〜」という状況の妙の中で「その場面その場面でこう思っている」という詳細が実に細かいし、特段難しい言葉を使わずにシンプルに分かりやすく順を追って伝えてくれたので読んでいてスっと頭に入ってきた。
そういったわかり易さを用いた上で、「自分に対する怒り」「他者に対する怒り」「不安」「迷い」「苦しみ」「大好きという気持ち」「楽しい」「期待」そういった「あの頃」特有のカラフルで鮮明で眩しい気持ちを作者さんが読み手にぶつけてくれた事がとても嬉しかった。
本当にありがとう。

もうひとつは「キャラクターの表情」の表現なんだと思う。
こと漫画に於いては、当たり前だけど、実際の人間を写真や動画で撮ってそれをそのまま表現することは出来ない。仮にそれが許されたところで演者がその時の役の状態を正確に、且つ観ている人に伝わるように表現出来るかは定かでは無い。
その点、この作品のキャラクターは“ここぞ”という場面でのそれが実に表現出来ている。というか伝わってきた。
特に嬉しい時の唇を噛む感じ、溢れる涙を堪えようとしたり逆に流れる涙に全部押し流されてしまう感じ、そういった感情が爆発・噴出してしまった時の表情が「もうこの顔しかない!」と思わせられる。それと何よりその時の顔が(読者視点で)好きになる。

感情と表情、この二つの要素でこの漫画のリアリティは作られていると117巻読み進める中で改めて考えさせてもらった、というかずっと感じていられた。
だからこそ全てのキャラクターをすごく好きになれたし、ストーリーの顛末にずっと心が引っ張られ続けていた。
この何年かでこんなに自身の感情をかき乱されたことがなかったし、すごくそれが心地よかった。
それを体験させてもらえたからことを、作者さんを始めこの作品を自分の元へ届けて下さった全ての方に感謝を伝えたいです。本当にありがとうございました。
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