うっかり陛下の子を妊娠してしまいました~王妃ベルタの肖像~
」のレビュー

うっかり陛下の子を妊娠してしまいました~王妃ベルタの肖像~

西野向日葵(富士見L文庫/KADOKAWA刊)/田中文

秀作です

ネタバレ
2022年11月24日
このレビューはネタバレを含みます▼ 原作は歴史書のように分析的に淡々と書かれている部分があり、中身が濃いです。絵にするとその世界が目に見え、原作とは違ったスピード感と面白さがある。これは漫画化大成功の作品でしょう。

ベルタは、差別されがちな南部の有力豪族の娘。宮廷に足がかりを作りたい父の意向で第二妃として王に嫁ぎます。婚姻の儀の後、王から顧みられることがなかったのですが、妊娠が発覚、そこから宮廷の権力争いの中に放り込まれます。

彼女は、子と自分を守るために賢く立ち回らなければなりません。王の寵愛がなく宮廷内に親族がいない身で、頼れるものは己の才覚のみ。その緊張感が、お話に色濃く出ています。物語が寵を争う安っぽい宮廷劇にならないのは、ベルタの賢さと器の大きさによるところが大きい。そこがベルタの魅力ですね。

王様も、なかなか魅力的なキャラ。惰弱ではなく王として優秀ですが、庶子という出自と、子がないせいで苦労します。ベルタとの結婚で長年望んでいた世継ぎを得たときの喜びはいかばかりか。その喜びを原動力に、新しい国造りに邁進します。旧弊を取り除き、新たな血と才能を取り込み、国家を活力あるものにかえていく。その同伴者として、ベルタほどふさわしい存在はない。後に彼は、そのことを思い知ります。でも最初は政略結婚の相手、子の父と母から始まった関係に過ぎない。ただ一人の伴侶として、ゆっくり近づきますが、それがなかなかもどかしい。笑。後の巻になりますが、二人が互いをかけがえのないものと思い、絆を深めていくところが本当に好きです。べたべたな表現はありませんが相手への想いが感じられていい。

この漫画の登場人物として忘れてはならない存在が王妃様。べルタの敵として立ちはだかりますが、とても哀しい人です。彼女は、ベルタと対照的に子がないゆえにすべてを失ってしまう。最終的に旧勢力の象徴のようになり追い込まれる展開は、緊張感溢れ、政治の残酷さを感じます。

とても出来が良い作品なので、原作一巻で終わってしまうのはもったいない。でも政治的で恋愛色少な目な原作を少女漫画にし続けるのは、やはり大変なんでしょう。残念。その分原作を何度も読んでいます。いつか紙の本も買うつもり。

後にベルタと王の間に子供が二人生まれます。妹と弟が一人ずつ。興味のある方はぜひ原作を読んでみてください。
いいねしたユーザ9人
レビューをシェアしよう!