夏の名残りのばら
」のレビュー

夏の名残りのばら

藤たまき

楽器と楽器職人と奏者、少年達の夢と成長

ネタバレ
2022年12月27日
このレビューはネタバレを含みます▼ エロは皆無、プラトニックがほんのり香るぐらいの内容なのでジャンル的には微妙ですが、綺麗で優しいお話です。ヴァイオリン職人の祖父と暮らす少年データは、オールドと呼ばれるストラディヴァリやガルネリに負けないヴァイオリン作りを目指しています。ある初夏の日にデータは『夏の名残りのばら』を奏でるヴァイオリンを耳にします。完璧なコンディションのガルネリを弾いていたのはデータと年の変わらないルースでした。亡くなった兄の友人アッシャと放浪しているというルースは素晴らしい演奏技術と驚くほど幼く無垢な心を持っています。やがてデータの通う芸術工芸学校に通うようになったルースは、若くして亡くなった兄が天才ヴァイオリニストであったこと、アッシャもまた将来有望な若手ヴァイオリニストだったことを知るのでした。演奏家になってアッシャに恩返ししたいと学校に通いだしたルースですが、その生まれと高い演奏力に世間が群がってきます。少年らしい夢と向上心で皆の期待に応えようと、ルースは兄がアッシャに預けたガルネリを持ち出して学校の寮に移るのですが、悲劇の天才である兄、稀代の名器ガルネリ、二つの強烈な背景に引き摺られてルースは自分の音楽を見失ってしまうのでした。ともにヴァイオリンを愛し、演奏家と楽器職人という違う形で音楽を志す二人の少年が高みを目指す情緒豊かなお話です。
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