エゴイスト
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エゴイスト

高山真

スメルズの桐野に泣いた自分が救われた…

ネタバレ
2023年2月5日
このレビューはネタバレを含みます▼ 本作は、ゲイである作家の私小説で、地方で育ち、壮絶なイジメを受けて東京に出て出会った恋人と出会い過ごした日々がリアルに描かれている。その出だしがスメルズの三島を彷彿とさせるな、と思い引き込まれているうちに、予想もしていなかったうねりが生まれ、いつの間にか母親としての自分が号泣していた…こんなに心を動かされるとは。映画の主演の鈴木亮平の後書きがまた素晴らしかった。映画も鑑賞。パンフ小説必読作品。自分を切なくさせたスメルズとの対比という観点から、この作品をおすすめしたい。スメルズのネタバレを含むので、未読の方はご注意を。
永井三郎先生のスメルズ ライク グリーン スピリット。あの作品が他の作品と一線を画するのは、閉鎖的な社会でマイノリティであることを自覚した三島、桐野の人生の分岐点に対照的な母親の存在があり、子である桐野が母への思慕から、自分のセクシャリティを隠して結婚して子を持つ選択をしたという現実にあり得る、でもやるせない点にあるのではなかろうか。桐野は、母にカミングアウトした上で、母は苦慮しながらも現実的な選択肢を提示し桐野が母と秘密を共有しながらその後の人生を過ごすことの意味。LGBTQのことを描きながら母と子の関係を描いているところがあの作品の深さなんだと思う。
本作の主人公、浩輔は、ゲイであることを母には告げずにいるうちに母は病気で亡くなってしまう。しかし、母への思慕は強く、母の死すら揶揄する同級生に嫌気がさし、東京に身を置き、クローズドゲイとして仕事に打ち込む中、パーソナルトレーナーとして年下の龍太と出会う。社会を斜めに見ているけれど、繊細で知的な浩輔が、龍太に出会って世界が色づいていく様はリアルで、恋に堕ちる理由も魂が惹かれ合うとはこのことかと思うような深さなのである。その龍太と母親に、母を失った喪失感を抱えた浩輔が関わることで生まれる心情の変化。実体験を踏まえた説得力が半端ない。
自分は、桐野の母親が、桐野を知ろうとして読んだ本の中に、この作品が含まれていたら…と、詮ないことを思わずにいられなかった。しかしスメルズを読んで苦しかった母親としての自分がこの作品を読んで救われた。母親と子の一生途切れることのない関係をも描いた凄みがこの作品にはある。*感動を受けた作品に感謝と時間を捧げる感覚で書いたレビューで想いが伝わったと感じると無性に嬉しく励みになります。多謝
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