イキガミとドナー
」のレビュー

イキガミとドナー

山中ヒコ

国の為に仕事をしてもそれは日常の中の一部

ネタバレ
2023年4月2日
このレビューはネタバレを含みます▼ 10代の私は映画やTV、本を読んだりする事で日常生活の物足りなさを埋める事をしていたなと。吉野の生徒達の様に、私は何も知らずに平和な毎日を送っていたなと。だけどそんな日常の中には国の為に仕事をしている人達が私の隣にいて、あの日も死なずに帰宅していたのだろうなと。そしてそれは今日も変わらない日常生活の一部なのかなと思うと、このイキガミとドナーのお話はファンタジーというよりは、とても身近に感じた作品でした。

それは山中先生の描き方がイキガミをスーパーマンにされる訳でもなく、生きろと過剰な戦争の描写もなく、ただ普通に職場に行く様にイキガミが前線に行く。10歳から家族と離れ、イキガミとして訓練を受け戦闘に参加し、ドナーが見つかると前線に行く。言葉にするととても重い内容なのですが、イキガミの鬼道はそれを飄々と行って帰ってくる。それが吉野と出会う事で帰るという事の意味を知り、失う恐れ、守れる事を知って強さを学び、愛を与えてもらう事で自分が何者であるかという事を知る。その過程が山中先生らしい、吉野の淋しそうな儚い笑顔と共に描かれていて、過剰過ぎず繊細で優しく、なのにハッとさせられる言葉の数々は現実的で残酷(センター長や、鬼道家の無意識に息子を1人犠牲にして末の子だけを愛する家族の在り方)。逆に吉野の言葉からは、日常生活とは何か、その重み、そしてそれを誰かと送るというがどれだけ幸せなのかを感じて、涙でした。

行ってきます。お帰りなさい。交わす言葉から生まれる感情、今感じている暖かさ寒さ、今見ているもの、今それに触れて伝わる感触…それが生きているという事なのだと。鬼道と向き合う吉野と少しずつ変わっていく鬼道から、一番大事な事を忘れていた自分に気が付きました。

不思議なのですが、ハピエンなのに鬼道と吉野の向き合う笑顔に明るい未来を感じません。そんな作者の世界観が耽美だなと。抱き合う2人を見て尊いなと。これがBLだったなと😩
続くスピンオフ「二人のイキガミ」へ。
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