他人様の口唇に悪戯して楽し
」のレビュー

他人様の口唇に悪戯して楽し

池部ハナコ

静かにさみしい童謡のような

2023年4月3日
155ページ。
6作入り短編集。いずれも仄暗く、抒情的。柔らかさのある和装が多く描かれており、雰囲気があってすてき。ジャンルに「ギャグ・コメディー」ってあるんですが、全くその要素は見当たりませんでした。「SF・ファンタジー」は合ってます。そこに「ヒューマンドラマ」を加えても良さそう。
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・『椿姫』空虚な人というのは哀れな魔性。姉妹の間に通う温かな情が、いっそう哀れを誘います。星4つ。
・『堕ちたる天女』人になった天女を諦めきれなかった天人の話。昔話の変形で、鋭さはないけれどなかなか良かったです。
・『美桃李』亡くなった歳の離れた姉をもつ妹の話。いろいろな真相は靄の中、桃の花におおわれて、かなしくてきれい。星4つ。
・『紅い人魚の家』錦鯉は売られた娘達の生まれ変わり、という言い伝えのある村。家には人魚が居て、共に錦鯉の養殖をする。売られた娘のささやかな願いが優しく切なく物語に溶けています。星4つ。
・『人魚太夫の夢』前の話と同一設定。私には太夫の行動や心境に同調できるものは無かったけれど、穏やかで良かったです。
・『天花』半年以上降り続ける雨と全身が硬化する死の感染症に襲われた、終末の世界。不安の中で寄り添った二人の恋。ラストのイメージはきれいだけれど、理屈屋にはついていけなかった。
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