このレビューはネタバレを含みます▼
笠井あゆみ先生にイラストを書いてもらえることはBL小説家の栄誉で、笠井あゆみ先生の表紙の効果で販売冊数は大幅に増えると思われます。私の手元にある紙本は初版ですが、増版された可能性があります。
ところで、大抵の小説には作品内容が発行元により書かれていますが、実際のあらすじと違っていることが多いのです。より多くの読者の気を引くためだと思われますが、この小説の場合もそれは当てはまります。
主人公の王太子エセルは、『甘やかされ』ているどころか甘やかされたことが無く、『王宮内で孤立』というよりも捨て置かれています。
また、オズワルド子爵は『エセルの唯一の味方』とは言えず、エセルに『甘い言葉』や『睦言』を掛けるどころか、適当な言葉を使ってエセルをいなしています。
21歳になるまで、エセルを愛して心を砕いてくれたのは、謀略によりエセルから離された老侍女長と侍女のアンナだけでした。彼を教え導き諭してくれる人は、一時期のオズワルドだけでした。そういう成育状態でまともな人間になるはずがありません。
ここにきて、過去からコルウス王の約定により宰相のレムレースがやってきます。王太子のエセルの意識を変え、彼が真っ当な人間に変わることで周りの人びとが変わり、延いては国に住む人々が幸せに暮らしていけるように、エセルの己の立場に対する自覚を促します。
さて、数多くの人がこの小説を読んだ後に充実感を覚えているようです。過去にも現在にも、このようにして国を治めた者がいたためしがなく、夢物語であることが分かっているからでしょう。
何処にも無い世界。けれども、何処かに在ってほしい世界。此処だけの世界。