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今月(9月1日~9月30日)

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シーモア島
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投稿レビュー
  • さくら猫と生きる 殺処分をなくすためにできること

    今西乃子/浜田一男

    2025年の猫さっ処分数は4,866頭
    2026年9月13日
    猫ボランティアの方々や行政の尽力の甲斐があって、昨年の全国の猫さっ処分数は4,866頭になりました。
    2002年には、約27万頭の猫がさっ処分されていました。
    それが、2015年には、約10万頭に減りました。
    それから十年の時を経て、漸くここまでさっ処分数を減らすことができたのです。
    これは、問題意識を持ったボランティアの方々が、それぞれの自治体に働き掛けたから実現できたのに違いありません。
    「飼い主のいない猫」という言葉は、余り聞いたことがありません。
    けれども、「地域猫」や「さくら猫」という言葉については、多くの人が知るようになりました。
    地域の人が餌をやっている「野良猫」を 、Trap (わなを仕掛けて捕まえて)、Neuter (避妊去勢手術を施して)、Return(元いた場所に戻す)という一連の流れで、数年後には「地域猫」「さくら猫」のどちらも自然にいなくなってしまうのです。
    表紙の写真の猫は、たぶん野良猫ではないでしょう。
    野良猫は、こんなにも綺麗な顔と身体をしていません。
    ケージの中に入れられて香箱座りをする程肝の座った野良猫はいないでしょう。
    うっかりつかまってしまった飼い猫のようです。
    その後自分の家に帰れたと思いたいです。
    後は、昨年一年間に交通事故に遭って死んだ22万匹もの猫を、これからどうやって減らしていけばいいかという課題について向き合わなければなりません。
  • 恋と謎解きはオペラの調べにのせて【イラストあり・電子限定ショートストーリーつき】

    はなのみやこ/kivvi

    防衛大学校の同期を助けられなかった
    ネタバレ
    2026年9月7日
    このレビューはネタバレを含みます▼ この小説の主人公の坂崎紅太は、五歳で東日本大震災に遭いました。
    地震後に独り家に取り残されて非常に心細い思いをしていた時に災害救助に当たっていた自衛隊員に見つけ出して貰います。
    このことが心に強く残ったので、将来は自衛隊に入隊してゆくゆくは最高幹部まで上り詰めるのが彼の夢になります。
    第二次世界大戦後にアメリカが戦後処理に当たる為に日本に入り、日本国憲法の制定に関わりました。
    民間の「憲法研究会」が「憲法草案要綱」をGHQと政府に提出しました。
    政府とGHQの間で何度か遣り取りがあった後、「憲法改正草案要綱」が発表されます。
    「日本国憲法」は、1946年11月3日に交付され、翌1947年5月3日から施行されることになりました。
    第9条〔戦争の放棄と戦力及び交戦権の否認〕
    日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
    2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
    それが、アメリカは日本国中に米軍基地を造り、大戦後のアメリカが関わってきた紛争の際には、そこから現地に戦闘機等を派遣しています。
    日本国中にも「自衛隊」という名の下に「陸海空自衛隊」を造り、軍隊さながらの訓練をしています。
    坂崎紅太は、それを知ってか知らずか、防衛大学校に入校します。
    友達付き合いができない坂崎を杉浦渚は庇ったりしてくれ、親友と呼べる間柄になりました。
    それなのに、最後に杉浦に会ったのは一年前ということ、何時も杉浦から連絡してきて会うけれど、自分から連絡したことがないということ、防衛省から警視庁への移動の連絡も今度でいいかとしていないという等、杉浦にとっては、坂崎は全く頼れる友人ではなかったのです。
    米軍基地の職場での窮地を知らせて相談に乗って貰う相手ではなかったということが悲し過ぎます。
    坂崎紅太は前髪を長く伸ばしているので、大事な時に周囲が見えずに銃撃されそうになります。
    前髪で顔を隠しているので、誰も30歳の大人とは見てくれずに大学生に間違えられます。
    職場の上司に「俺」で発言します。
    上司の注意を無視して何度も危ない目に遭って上司に助けて貰います。
    あり得ません。
  • 奥さんにならなきゃ

    黒崎あつし/高星麻子

    結婚しようよ
    ネタバレ
    2026年9月5日
    このレビューはネタバレを含みます▼ この小説には『奥さんにならなきゃ』という題名が付いています。
    けれども、主人公の津田颯矢は本文の中で一度もそういう言葉を言っていませんし、考えてもいません。
    また、彼の性格や人物に全く合いません。
    彼は、自分から「結婚しようよ」「家族になろうよ」という青年です。
    彼の父親は、颯矢が小学五年生の時に病気で亡くなりました。
    その時に、父親は、父親自身が色々なことを思い悩み難しく考える性格だったのが災いして自分の身体を壊してしまったので、颯矢には気持ちを明るく生きていって欲しいということを言い残してくれました。
    それから、颯矢は、努めて明るく前向きに生きてきました。
    一緒に暮らした母親や母親の再婚した夫、つまり颯矢にとっては義父にも上手く気を遣うことができます。
    また、友人や付き合った彼女たちのことも気負うことなく気遣いができます。
    気楽なように振舞っていますが、相手の気持ちを素早く感じ取って即座に対応しているのです。
    まだまだこれから父親の存在が大きいという時に父親を無くしてしまったので、父親の代わりになる人が実は欲しかったのでしょう。
    大学卒業後に、一番入りたかった会社に就職できるのですが、見た目も能力も優れた上司への憧れを恋心と勘違いしてしまう可愛いところがあります。
    そして、二年も片思い期間を過ごしたそうですが、楽しくて幸せだった筈です。
    それも、運命のようにして出逢ってしまったカメラマンの御崎(おざき)信高と奇妙に不思議な親密な時間と毎日を過ごすうちに判ってしまいます。
    上司というのは親代わりのようなものなのだということに気が付くのです。
    颯矢にとっては、正しく父親代わりの有難い得難い上司でした。
    その上司、十和田の恋人の佑樹の大学時代の友人が御崎だったのです。
    颯矢は見た目も恰好いいのですが、中身も素直で一本気で、けれども優しく裏表がありません。
    人を妬むとか恨むとかいうことは考えたこともないに違いありません。
    御崎が瞬く間に恋に落ちるのも無理はないでしょう。
    そして、御崎も見た目も中身も恰好よすぎるほどなので、当に似合いの恋人たちが出来上がる間もなく、即結婚のようです。
    実に、最短交際期間を誇ってもいい二人です。
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  • 一夜妻になれたら

    黒崎あつし/高星麻子

    夢一夜もしくは一夜限りの夢の如く
    ネタバレ
    2026年9月2日
    このレビューはネタバレを含みます▼ この小説は、黒崎あつし先生が2012年に書き上げたものです。
    その頃には、「一夜妻」などという古風な言葉が生きていたのでしょう。
    今ではこの題名に心惹かれる人はまずいないでしょう。
    万人受けする題名を考えるのは難しいと思います。
    それも、相当の年数に亘(わた)って生き残り色褪せない題名となると、時代を読む先見の明が必要になります。
    発行された当時はそれなりに読まれたと思います。
    今も、高星麻子先生の表紙絵が綺麗なので惹かれて、何人かの人は読んだはずです。
    さて、今までに一度も人を恋したことがなかった近江佑樹は、初めて会った十和田繁之を見て一目惚れをしますが、自分では全く自覚していません。
    自分で自分が思い通りにならなくて制御できないという初めての経験に戸惑います。
    何故この様な状態になるのか解らないのですが、漸くこれが人を恋するということだと気付きます。
    そして、思い切って潔く、十和田を誘うのですが、あえなく断られてしまいます。
    本当は、十和田は佑樹の願いを聞き入れたいのです。
    けれども、五百川から佑樹には手を出してはいけないと釘をさされているので、断わらざるを得ないのです。
    それでも、佑樹は思い直して最初に十和田を紹介してくれた五百川(いおかわ)経由で十和田に連絡を取ったりします。
    佑樹は、大学生の時に病死した母にも、物心ついた時から家には帰って来ない父にも慈しんで貰った記憶はありません。
    それでも、自分で自らを善い人に育ててきました。
    だから、自分の財産を目当てに頼ってきた異母弟を見捨てようとはしません。
    そういう佑樹の思い遣りの心が、十和田や五百川の心を打ち、義弟の更生への道が拓(ひら)けます。
    物語には書かれていませんが、義弟の一連の不行跡は、両親の知るところになったはずです。
    義弟の母親も父親も、今回のことで、色々と思い知ったでしょう。
    子どもが如何にして道を踏み外すようになるかということを。
    十和田の庭師の祖父と雇い主の先代との間の秘められた想いを私たちはそれとなく知らされます。
    結婚して子を生すことを強いられた時代が少し前まではありました。
    今の時代に生きる人は結婚することを強いられないだけでも幸せです。
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  • 蜜色カノン

    柊平ハルモ/高星麻子

    高星麻子先生の表紙絵に心惹かれました
    ネタバレ
    2026年9月1日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 音楽が主題となっている小説は少ないです。
    中でもピアニストが主人公の物語がほとんどです。
    バイオリニストやチェリストについて書かれた作品は稀少価値がある程少ないと思われます。
    というのも、描かれている楽器を演奏したことがある人かクラシックが好きな人が主に読むということもあるからかもしれません。
    書かれていることが理解できないと面白味が半減するという理由もあるでしょう。
    作中にパガニーニというイタリアのバイオリニストの名前が出てきます。
    この音楽家の名前と作曲した曲を知らなければ、物語を理解するのに少し差し障りがありますが、絶対に知っていなければいけないというものでもありません。
    知らなくても物語を充分に楽しめます。
    表紙絵もイラストも美しく描かれているので、物語を読む心強い道連れになってくれます。
    ただ一点非常に残念なのは、主人公の宮北彩斗(あやと)が自分のことを「俺」と言うことです。
    とても違和感があり過ぎて、物語を愉しめませんでした。
    自分で勝手に「僕」や「私」に変換して読み進めました。
    彼の性格や人物に全く相応しくありません。
    一番重要なことなので、残念ながら評価を下げざるを得ませんでした。
    それがなければ、評価はもう少し良くなっていました。
    作者も担当者も何故そのことに気が付かないのか不思議です。
    無料立ち読みを読んで、綺麗な穏やかな性格の主人公が「俺」という言葉を自分に使うことに違和感を感じた人もいた筈です。
    それで、誰もレビューを書いていないのかもしれません。
  • あの夏、二人は途方に暮れて

    神奈木智/穂波ゆきね

    夏の太陽と暑さと空気感が人に及ぼす影響
    ネタバレ
    2026年8月31日
    このレビューはネタバレを含みます▼ この小説は、2002年に雑誌の夏号に掲載されたものを、2013年夏に加筆修正されて文庫本として発行されました。
    実際に、二千年初頭頃の夏の最高気温は、32℃位が最高だったと思われるので、多くの会社員は夏でも背広姿だったのです。
    そういう背景がこの小説の表紙絵にも物語にも表れています。
    今までに会ったことがない二人の人が二度も偶然に会う確率はかなり低いと思います。
    それが起こるのは、どちらかが強い心でもう一度相手に会いたいと願ったからでしょう。
    この主人公二人の場合は、高校二年生の藤原秋光(あきみつ)が、初めて会った時から心を惹かれた会社員の高林雅彦に、もう一度会いたいと思ったからに違いありません。
    実は、二度目に秋光に会った高林の方も、秋光とこのまま別れるのは不本意だったようです。
    秋光は、親しい人に自分を飾ることなく見せることができます。
    彼は、親友の遠藤忍に、高林との出会いもその後のことも話しているのですから、それ程隠し事がない友達付き合いをしているということです。
    親にも親友にも見せていた態度は、親しくなりたいと思った高林にも向けられます。
    素直で思いやりがあるのは、育ててくれた親によって身に付けたものと言えますが、彼自身の特性でもあります。
    それで、二人が会う回数が増えたり、携帯電話でメールをしたり話したりしてお互いに馴染んでいくのです。
    魂が呼び合ったとしか思えない二人なので、この先は多少の行き違いはあってもなるようになります。
    また、高林は、交際していた女性を恋しいとか愛しいとか思ったことがなく、世間一般の人と同じように結婚して生きていくものだと思っていたようです。
    彼の涙は彼自身が自己分析しているように自己憐憫の涙だったようです。
    一つ不自然なのは、高林と高林の親友の佐々木吉行が、高林が内緒で社内恋愛していて婚約したのに婚約破棄してきた女性を、姓ではなく名前で呼び捨てにしていることです。
    姓で呼ぶのは会社だから都合が悪いのだと思うのですが、高林も佐々木もお互いに同じ相手と付き合っているのを知らなかったのに、何故美貴子という名前が二人の間で飛び交うのがわからないのです。
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  • 猫の傀儡(くぐつ)

    西條奈加

    傀儡(くぐつ)読みと傀儡(かいらい)読み
    ネタバレ
    2026年8月21日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 猫の傀儡師(くぐつし)と傀儡(くぐつ)を、それぞれ、(かいらいし)と(かいらい)と読むと、全く意味が違ったものになってしまいます。
    傀儡師(くぐつし)は、猫と人の為に、傀儡(くぐつ)を遣って、共に助け合います。
    そうすることによって、猫の利にも人の利にもなっているのです。
    猫だけが得をするのではありません。
    一方、傀儡師(かいらいし)は、猫の為に、傀儡(かいらい)を遣って、働かせます。
    そうすることで、猫は利を得ますが、人の利にもなるかと言えば、それは何とも言えません。
    傀儡師(かいらいし)の胸先三寸で、心根の良くない猫であれば、人はただ働きか、骨折り損のくたびれ儲けになるやも知れません

    そのことを念頭に置いてこの物語を読んで往けば、一匹と一人の活躍を楽しんで読めること請け合いです。
    くれぐれも、こんなにうまく往く筈がないとか有り得ないとか思わずに、肩の力を抜いて読んでみてください。
    猫には秘められた力が案外とあるのやもしれません。
    それは、私達が気が付いていないだけのような気がします。
  • 実さえ花さえ

    朝井まかて

    花も実もある米・小麦・野菜・果実、草木花
    ネタバレ
    2026年8月19日
    このレビューはネタバレを含みます▼ この時代小説は、作者のデビュー作品ですが、最新作かと思うぐらい完成されていて読みごたえがあります。
    江戸時代は火事が多かったというのは誰もが知る処です。
    大名屋敷や豪商の家屋敷以外は殆どが長屋などで、一旦火事が起これば失うものが少なくて済むように家財道具も必要最小限しか持っていないのが庶民でした。
    ですから、花や実のなるものを愛でるのが巷に流行っていたとしても、小ぶりな鉢物が好まれていたと思われます。
    この物語では、植木屋なずな屋の主人、花師の信次とおりん夫婦が冒頭から最後近くまで登場するので、主人公に当たるのだと思います。
    後は、信次の幼馴染みの留吉と元莫連(ばくれん)のお袖と三人の子どもたち、上総屋の隠居、六兵衛、その孫の辰之助、栄助に預けられたしゅん吉という名だけれど自分のことをちゅん吉というので付けられたあだ名が雀、が前半から登場してくる主な登場人物たちです。
    最初の一波乱は、隠居の六兵衛が快気祝いの席の引出物に桜草を三十鉢を依頼したことから起こります。
    つぎは、その六兵衛から、重陽の節句の九月十日に開かれる『花競べ』への出品を勧められて、また、一波乱が起こります。
    これには、信次が修業していた店が関わってきます。
    そして、この物語には、実らなかった悲しい恋の話が二つもあるのです。
    一つ目の恋の片割れの人の言葉です。
    「実さえ花さえ、その葉さえ、今生を限りと生きてこそ美しい」
    事実、私達は、植物のお蔭で生きていけるのです。
    米や小麦や野菜などを身体の栄養に摂り入れ、花々を心身の保養にするほか、街づくりに花々や木々は欠かせません。
    広大な森林が無ければ、私達が生きるのに最も重要な酸素を作り出すことさえできないのです。
  • 写楽女

    森明日香

    終生消えない恋
    ネタバレ
    2026年8月18日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 東洲斎写楽は、1794年(寛政6年)から1795年(寛政7年)までの間の内、わずか十か月間しか浮世絵を描いていない絵師です。
    出自や経歴については詳細が解っていないので、多くの人が様々に研究しています。
    中でも、阿波徳島藩主蜂須賀家お抱えの能楽者であった斎藤十郎兵衛だという説が有力なようです。
    写楽については、二十人程の作家や美術家が著作を書いています。
    森明日香先生のこの作品は、先生が同時代に交流があったと思われる絵師や戯作者の経歴を基に自由な発想で物語に書いたものです。
    物語にお駒という女性を登場させて、写楽との間の実らぬ恋を描いています。
    江戸時代にあった身分制度は誰もが越えられないものとして存在していました。
    それは、武士が自分たちに都合がいいように勝手に決めた身分制度でした。
    本来であればそれは可笑しいものと思わなければいけないのですが、誰もが処罰が怖くて破ることなど考えもしなかったのでしょう。
    お駒が女中として働いていた耕書堂の女中頭のおみちには、病により早逝した浪人の想い人がいたそうです。
    彼の世で待っていると言う言葉を胸に誰の元にも嫁がずにいると、お駒にだけ教えてくれたのでした。
    そして、お駒もまた、耕書堂の蔦屋重三郎が絵師として招き入れた写楽を何時の間にか思うようになります。
    写楽も同じ様に思ってくれているのがそこはかとなく感じられ幸せな日々を過ごします。
    けれども、写楽の本当の身分を知っている周りの人からは止められる恋だったのです。
    止められて止まるのなら、それは恋ではありません。
    二人の恋は叶うことなく、僅か十か月で途切れてしまいます。
    その後、お互いに会うことはなくても、終生思いは絶えずに続いていたでしょう。
    お駒は、子を成すことが無かった為か、関わりがあった誰よりも長生きします。
    幼い頃からも耕書堂にいた頃も年をとっても馴染みのあった鉄蔵は、大成して、葛飾北斎としてその名を轟かせます。
    そして、耕書堂で共に筆を取っていたお駒のことを『写楽女』と称してくれるのです。
    『写楽』のただ一人の女弟子、お駒改め『写楽女』と。
  • 犬やねこが消えた 戦争で命をうばわれた動物たちの物語

    井上こみち

    総ての生物が持つ死にたくないという思い
    ネタバレ
    2026年8月17日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 先の第二次世界大戦では、死にたくないと思い生きたいと願いながらも、230万人もの軍人・軍属が亡くなり、80万人もの民間人が亡くなりました。
    また、空襲で人々と共に死んでいった犬や猫も数え切れない程いたでしょう。
    更には、二度に亘る原爆の投下により同じ様にして死んでいった犬や猫も同様だった筈です。
    これらは、いわばなすすべもなく殺された数多の命でした。
    ところが、事実は、それ以外の軍の命令により供出させられ、殺された犬や猫も信じられない程の数いたのです。
    1944年には、北海道全土で、犬皮が一万五千枚、猫皮が四万五千枚集まったという報告が北海道庁公報に載っています。
    それらは、兵士の防寒着の内側に張られる為の毛皮になったのです。
    それだけではなく、単に人が食べる食糧で手一杯なので、犬猫にやるエサはないという理由で、供出させられ棒でボクサツされた犬猫の数も入れるなら、恐ろしい数になるでしょう。
    お国の為とか、名誉のセンシとか、命令に従わない者は非国民などの理不尽が罷り通っていた時代でした。
    そういう時代でも、家で飼っていた犬や猫を供出しなかった人もいたのです。
    そういう話を聞くと、救われた思いがします。
    いつの日か、理不尽を強要させられそうになったとしても、頑として受け入れないだけの信念を持つ人でありたいと思います。
    また、あらねばならぬと考えます。
  • 金の比翼は世界の彼方に

    夢乃咲実/サマミヤアカザ

    魂がお互いに結ばれている比翼連理の二人
    ネタバレ
    2026年8月15日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 多くの人が真に自分が心から求めていたと感じられる人に出逢うことなく一生涯を生きていくのだろうと思います。
    物語のように、自分の魂の片割れのような人に出逢える人は非常に稀なのだ誰もが思っています。
    この話の主人公のアルトゥもそうでした。
    それどころか、アルトゥは自分の居場所がここではないような思いを時々抱きながらも、大事な役目に励む日々を送っていました。
    ある時、自分が仕えるセルーンの『馬を並べる関係』であるこの国の王の密偵であるムラトに出会います。
    アルトゥは、ムラトを見知っていましたが、今までに話したことはありませんでした。
    王とセルーンもいるところで言葉を交わします。
    初めての出会いにもかかわらず、ムラトに自分自身を正確に見抜かれたように感じたアルトゥでした。
    この日から瞬く間に立場が悪くなっていき、生命まで危ぶまれたアルトゥですが、危機一髪のところでムラトに助けられます。
    逃避行の旅路の間に、お互いが『馬を並べる関係』以上の存在であると感じさせる不思議な感覚を同時に共有します。
    まだまだ知り合って日が浅いので、アルトゥはムラトを信じ切れません。
    信頼を裏切るようなムラトの言葉を聞いてしまって、自分が信ずるままに行動するのですが、それが幸いして国に災いをなした人物たちを捕らえることができます。
    実にムラトとアルトゥは、重要な役割を務めたようです。
    誰が見ても似合いで、深く結びついているのがわかる二人でしょう。
  • 諸説あります。

    眞村六郎/双葉はづき

    五条雪彦准教授の絵画の解釈に目から鱗
    ネタバレ
    2026年8月14日
    このレビューはネタバレを含みます▼ この小説を手に取って読んだ読者の方々は、まず表紙絵に惹かれたことを読むに至った動機として挙げると思います。
    私も同様でした。
    第一講から第四講という講義形式にして、絵画に心理学の行動分析学の観点から新解釈を付けています。
    五条雪彦准教授と彼の幼馴染みの助手の楠木雨音が、講義のテーマにした絵画について、忌憚なく話しながら今までにない見方に辿り着きます。
    この小説は、楠木雨音の語りで終始物語が進んでいきます。
    楠木雨音の年齢は24歳で、五条雪彦准教授は31歳です。
    それなのに、五条の思考としてあり得ないような設定が度々出てきます。
    恐らくは、作者の指向が無意識のうちに出てきたものでしょう。
    何度か違和感を感じつつも読みました。
    また、五条は準教授として仕事をしているのですから、幼馴染みとはいえ、楠木雨音を助手として対応するべきなのにできていません。
    幼馴染みの延長を職場に持ち込んで、「雨音」と呼ぶから、大勢の学生から雨音がやっかまれるのです。
    その呼び方や態度の所為で、雨音が仕事上の差し障りができているのに、全く気付いていません。
    また、大学側は、助手の選考にあたって、選考から漏れた人には理由を詳しく伝えるべきでした。
    そうすれば、雨音が一連の不愉快な攻撃を受けることはなかったと考えます。
    対応が不手際で、後手後手に回ってしまった感が非常にします。
    また、五条雪彦の家族や親族が両親と母方の祖母しかいないこと、また、五条雪彦の両親が自然災害で亡くなったにしても、死後に全く財産を残さなかったはずはないと思われます。
    特に五条雪彦が稀にみる程に優秀であれば尚更です。
    楠木雨音との接点を作りたかったならば、別の設定を考えた方が良かったでしょう。
    一番奇妙に感じた部分は、雨音が研究室でストーカーに襲われそうになって恐がっているのにもかかわらず、彼女の後ろから声も掛けずに近づいて体に障るという驚くべきことをするのが、五条雪彦だということです。
    思わず雨音が叫んでしまうのももっともです。
    五条雪彦は、優秀な面はあるでしょうけれど、人間的な魅力は感じられない人です。
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  • 先輩、恋していいですか

    小林典雅/南月ゆう

    現実には有り得ない願望的世界を楽しむ
    ネタバレ
    2026年8月14日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 平出光矢(ひらいでみつや)のサッカー一筋の好調な人生がある日突然に目の前に現れた車によって断たれ、別の道への変更を余儀なくされました。
    家が道路に面していることや幼い子どもに絶対に家から飛び出してはいけないことを口だけではなく身をもって思い知らしてなかったこと、光矢を車で撥ねた人が危険予測を常にしながら車を運転していなかったことなどが重なってサッカーが今までのようにはできない身体になってしまいました。
    母親は気楽に立ち直れと言うけれども、自分の身に降りかかったことでないから言えるのだと思います。
    ましてや、事故が残念という気軽な言葉で片付けています。
    そして、皆が辛い思いをしたと言うけれど、一番辛い思いをした光矢の思いを少しも解っていないのです。
    どれだけ謝っても謝り切れないことを、母親と姉と甥はしてしまったのです。
    十六年間の努力と希望を無にしてしまってよくもそんな酷いことが言えるものだと呆れてしまいます。
    取り敢えずは、大学に向かって努力を重ねてきて無事に志望大学に合格したものの、そこでまた目標を達成したことで、気力を無くしてしまいます。
    誰の目にも判るような最低な状態の光矢をどうにかしたいと思ってくれた先輩の十枝朔(とえださく)に、男子チアリーディングチームへの入部を誘って貰えて、光矢の気力が段々と上向いてきます。
    全く未知の世界だったチアリーディングという競技は、努力家の光矢の心身を見事に立ち直らせてくれます。
    併せて、十枝朔に誰にも今までに抱いたことが無いような思いを持ってしまったことで、毎日が充実して楽しくなります。
    後は、チーム内でも色々なことが起こって光矢と十枝朔の仲はあっという間に進んでいきます。
    村おこしのイベントの村祭りに演技を依頼されて行って、チームのメンバーは分かれて民泊することになります。
    光矢と十枝朔は同じ家に泊めてもらうのですが、一家揃って男同士の恋愛と結婚に理解があるという信じられない状況です。
    年配者が男同士の恋愛を許容する度量の深さを持っているのは何故なのかと不思議に思います。
    また、チアリーディングチームのメンバー達も十枝朔と光矢の恋愛に寛容です。
    二人の恋愛が余りにも障害なく進んでいくことに違和感を覚えてしまうのは可笑しいでしょうか?
    日本の世間は何時から男同士の恋愛に諸手を挙げて賛成するようになったのか?
    ファンタジー?
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  • 禁欲的じゃない

    伊祖子久美/えまる・じょん

    恋に落ちた警察官、職権を利用して近づく
    ネタバレ
    2026年8月13日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 皆藤史彦は、二十九歳の今まで何度か恋をしてきたと思います。
    けれども、小窪銀を初めて見た時に、形容できない程の美しさに雷に打たれたような衝撃を受けたのだろうと思います。
    そして、瞬く間に恋に落ちてしまったようです。
    それから二年の月日の間に募る恋心をどの様にやり過ごしたのかはわかりません。
    漸く小窪銀に度重なる職務質問をして、自分を印象付けるという目的を果たしました。
    その後は、小窪銀の職場での様々な事情もあり、彼を介抱するという降ってわいたような機会を得ます。
    ゆっくりと彼の信頼と好意を得て、心地良い友人関係を結ぶことができます。
    お互いの好意の種類が違っていることに、小窪銀は少しも気付いていません。
    とうとう、募る恋心が身の内で決壊してしまった皆藤は、箍(たが)が外れてしまうのです。
    そのことによって、皆藤も小窪も冷却期間を置いて、自分の心の中を覗き込み、これからどうしたいのかを考えます。
    今まで恋をしたことが無く恋愛経験もなかった小窪です。
    ですから、皆藤に対して持っている自分の想いを量りかねていたのです。
    遅まきながら、皆藤に恋心を抱いていることに気付きました。
    それからは、怒濤のように関係が進んでいきます。
    小窪銀のような独特な存在感のある美しい男の初めての男になれたうれしさをしみじみと嚙み締める皆藤です。
    彼らは、まさしく絵になる男たちです。
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  • はじめましてスウィート・ホーム

    碧井アオ/茶渋たむ

    眞白という名は誰がどんな思いで名付けたの
    ネタバレ
    2026年8月12日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 青柳優吾が、春名眞白に言ってくれた言葉があります。
    「君は生まれた時からいい子なんだよ」
    「出会えてよかったよ、眞白」
    眞白は、彼の言ってくれた言葉を「君は生まれてきていい子だったんだよ」と受け取ります。
    その言葉は、眞白が一番欲しかった言葉でした。
    眞白は、物心ついた時からずっと父から存在を無いものとして扱われてきました。
    そして、十二歳の時に、母の十三回忌の法要の際に親族が話していた言葉を漏れ聞きます。
    眞白の母は、眞白を出産した時に亡くなったので、眞白の母を大事に思っていた父が眞白を憎むようになったのだということを知ります。
    それ程愛していたのなら、終生二人で生きていけばよかったのです。
    たぶん、眞白の母が子どもを望んだのでしょう。
    それを認めて望みを叶えたのなら、結果がどうであれ受け止めなければなりません。
    妻がいない世界を認めずに、彼女が命と引き換えにしてこの世に生み出した子どもの存在を認めないという非道なことを眞白の父は平然と二十一年も続けてきました。
    心を持った存在である眞白の悲しみ、身も世もない辛さを解ろうとしない眞白の父です。
    自分がしてしまったことで、彼の世において、妻が嘆き悲しんでいるとは想像もしていないのでしょう。
    悔い改めよと言いたいところですが、二十年もの長きに渡って、思い直すことなく生きてきた眞白の父です。
    もう、放っておきましょう。
    こんな悲惨な境遇でも、心優しく自分を育てた眞白です。
    これからは、青柳優吾と彼の息子の伊吹と共に、お互いを想い合って暮らしていきましょう。
    長い間の淋しさや哀しさを耐え忍んできた子ども時代の眞白を慈しんで愛おしんであげましょう。
    もう、これからは寂しくないよ、愛しい人に逢えてよかったね、眞白。
  • 新装版 カイザリンSAKURA

    河合保弘

    新装になった表紙絵に、旧版の物語の内容
    ネタバレ
    2026年7月31日
    このレビューはネタバレを含みます▼ この小説は、定価が高額であるにも係わらず、無料立読みが付いていません。
    新装された表紙絵には然程惹かれませんでしたが、最後の女性天皇という一点に惹かれて購入しました。
    今、第一章の第四話まで読んで、読むのを止めました。
    プロローグに出てきた桜町サクラは、フランス語が堪能でない設定になっています。
    それなのに、見掛けたパリジェンヌ、メリア―・ドルリナーに声を掛け、瞬く間に彼女と仲良しになっています。
    実に、知り合ってすぐに名乗り合って、彼女の下宿にまで行っているのです。
    堪能でない言語で、自国の苦手な歴史のことを翻訳して話せるというサクラ。
    そして、二人で、『カイザリンSAKURA』の物語を途中部分から最後まで完成させるという荒唐無稽さです。
    日本では、『カイザリンSAKURA』は後桜町天皇という女性天皇だそうです。
    後桜町天皇は、1740年に生まれ、1818年に74歳で亡くなったと書かれています。
    また、在位は、1762年から1770年のようです。
    姉、父、弟、弟の子を順番に亡くしたとされています。
    それを知った、メリア―が、「亡くなった人たちの魂を宿して長く生きられたのかもしれないな」と言います。
    その言葉に、サクラは、「まさにそんな気がするの」と返しています。
    キリスト教を信仰しているメリア―が果たしてその様な考えを持つでしょうか?
    これに違和感を感じました。
    読んでいると、一話ごとに、登場人物の紹介と二人の会話が入ります。
    これは、劇場で観劇を見ているような設定にした物語構成なのでしょう。
    集中力が途切れ、二人の的外れな会話を何度か読まされて、すっかり読む気力が失われてしまいました。
    止めに、帝と皇后、舎子(いえこ)の会話を隠れ聞いていた帝の13歳の腹違いの妹、成子(ふさこ)内親王が、内輪に留めるべき話を彼方此方へと広めます。
    成子は、この後も色々と騒動を引き起こすらしいのですが、メリア―は、彼女のことを面白そうな存在と言うのです。
    ここに至って、すっかり読む気が失せてしまいました。
    この作品は、2022年のある新人賞の第一次通過作品だそうです。
    けれども、私の本棚ではお蔵入りにします。
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  • 九重家献立暦

    白川紺子

    塗りの重箱に入れた花見弁当を和装で味わう
    ネタバレ
    2026年7月30日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 母方の伯父、九重喜夫の口車に乗せられて、大学卒業後に実家に帰ってきた九重茜です。
    広大な屋敷である実家を独りで守ってきた大叔母の九重千代子を苦手としていた茜でした。
    そして、大人になったことで、初めて大叔母の口から彼女の来し方について知らされます。
    大叔母は、心無い二親から容貌が美しくないことを事あるごとに聞かされ続けていたようです。
    それなのに、結婚を奨められたので、かたくなに断って教職の道を選んで生計を立ててきたそうです。
    次には、独身を理由に、身内から養子を迎えるように迫られ、望んでいた男子ではなく女子を養子にすることになったようです。
    それが、茜の母の景子でした。
    自分が望まれていなかったことを知っている景子と大叔母の折り合いが良くないのは当たり前だったでしょう。
    茜が共に暮らした人は、母の景子と大叔母の千代子です。
    母とは十二年間だけで、既に会わなくなって十年の年月が過ぎているので、去る者は日日に疎しですが、忘れようと思っても忘れるのは無理でしょう。
    大叔母とは十八年間で、大学の四年間の空白期間はありましたが、再び他人を交えて暮らすようになったので、二人だけでは到底生まれなかった得難い心が通う時間をお互いに手にするようになります。
    茜の母の景子と、仁木一の父が無残に壊してしまった家族の形が、仁木一改姓十日市一によって、新生されて作られていきます。
    家族というものは、一緒に住んで、一緒に食べて、色々なことを話してお互いを知るようにして、同じ時間を共有して初めて家族になります。
    血の繋がりがあるのが家族ではないのです。
    心の繋がりがあるのが家族なのです。
    十日市一は、姓が変わって、つまり尊敬できる人を義父とできて、解ったのでしょう。
    『九重家の献立暦』は、確かに大学の卒論の素材にうってつけで、これだけのものを今の時代に、見つけることは難しいはずです。
    それを素材にして、三人で新しい家族を作っていく試みをしてみたら、思っていた通りに上手くいったというところでしょうか。
    今後は、一と茜がそれぞれの父と母に付けられた棘を抜いて、傷を癒すという手順が残っています。
  • 恋の心に黒い羽

    ヤマシタトモコ

    一瞬を切り取った表紙絵に探す物語
    2026年7月25日
    ヤマシタトモコ先生の作品の中で、一番惹かれたこの作品を読みました。
    私は、小説を主に読みます。
    小説の読み方と漫画の読み方は違っています。
    漫画で描かれている人物は、一瞬一瞬を切り取られています。
    連続して描かれていないにもかかわらず、読んでいる私達は、描かれていないものまで補って完成したものとして読み取ります。
    漫画家が意図したとおりに動きと言葉でほぼ正確に読み込んでいきます。
    ヤマシタトモコ先生の望み通りの世界に浸ります。
    『その火をこえてこい』には、B'z 若しくは稲葉浩志氏の歌『炎』が脳内再生されながら読みました。
    どの短編も自分の好きに読んでも、ある程度は赦されるのだと思います。
    読む度に目の付けどころを変えれば全く違った風にも受け取れます。
    十八年も前の作品ですが、手描きですべてを熟すので、実に味があります。
    手仕事の素晴らしさを堪能しつつ、何度も、時々、読み返そうと思います。
  • 姫様、江戸を斬る

    亜胡夜カイ/Minoru

    Minoru 先生の表紙絵が綺麗
    ネタバレ
    2026年7月25日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 江戸時代には、武家の娘だからといって表紙絵のような内掛けを羽織っていることは先ずなかったでしょう。
    けれども、娘の姿で外歩きをするならば、二刀を帯びることは先ずできません。
    せいぜい懐剣がいいところでしょう。
    それでは、不届き者が現れた時に、即刻対処ができないと考えたのもあります。
    また、気楽な恰好であちこちを食べ歩き廻りたい美弥には、娘姿は非常に窮屈なものです。
    先ず、娘姿では、伴を連れずに一人で出歩くことができません。
    それで、毎日のように、男姿で出掛けていきます。
    そして、ある時、偶然ではなく必然に、出逢ったのが二人の武士です。
    名は、若瀬と律ですが、本名ではなく、便宜上の名です。
    美弥は、娘姿でも充分に美しいのですが、若武者姿では、性別不詳の美しさがあり、多くの女性ばかりか男性までも虜にしてしまいます。
    この時、美弥は十六歳ですから、当然のこと、月のものも来ているでしょう。
    すると、全体に肉が付いてくるので、もう、男性の腰には到底見えなくなります。
    そろそろ袴でごまかせなくなっていたはずです。
    物語なので、無理矢理にその様な設定にしているのだと思われます。
    また、美弥は、師匠の道場で免許皆伝の腕前です。
    けれども、今までは、木刀での試合の経験しかなかったと思われます。
    それが、短期間のうちに、腰にしている刀で何人もの男たちと闘う破目になります。
    いささか上手く往きすぎで、帯や装束を斬られるものの、最後まで無傷という有り得ない展開です。
    美弥には、色々と思慮が浅いところも見受けられるので、最後が大団円で終わったのは少々無理があるのです。
    それでも、白けずに書かれたままの物語を楽しむのがいいのかもしれません。
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  • 青の女公

    喜咲冬子/月子

    青は理性の色、理想の色、空の色
    ネタバレ
    2026年7月24日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 主人公、リディエ・カイエンは、数え切れないほどの不幸に見舞われました。
    けれども、唯一の光明となり得た存在が身近にいました。
    それは、ルナビィア国の第一王女、スキュイラでした。
    王女は、若くして亡くなった聡明な母の教えを受けたのは間違いありませんが、元々頭脳明晰で柔軟な考えができる人物のようです。
    その王女は国を治める女王になるつもりでいます。
    それなのに、途轍もなく邪魔な夫という存在を押し付けられて困っていたのでした。
    スキュイラがリディエに言った言葉が総てを集約しています。
    「王の娘や姉ではできないことをしたいの。貴女だって必要でしょう?北部のことを真面目に考える女王が。少なくとも、この十年の残虐公の暴挙は、父上の失政でもあるわ」「私も、貴女には北部に戻ってもらいたい」
    この後も、リディエを更なる試練が襲うのですが、彼女の勇敢さや聡明さや柔軟な発想などの多くの美点に惹かれた崇拝者達が現れて危機から守ってくれるのです。
    これ以上詳しく語ってしまうと、物語を読む楽しさが半減してしまうので、このぐらいで止めて置きます。
    読み進むうちには、いささか悲惨な場面もありますが、詳細には語られていないので、さほど気分が悪くなることはないと思います。
    では、青い薔薇の女王と青い女公の物語を存分に楽しんでください。
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  • 六花城の嘘つきな客人

    白洲梓/SNC

    相手に向き合っていない二人の馴染んだ心
    ネタバレ
    2026年7月23日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 表紙絵に、二人の関係性が現れています。
    一冬を身近に居る友として過ごす内に、いつの間にかお互いが気になる存在になっていたようです。
    二十三歳の恋愛経験が豊富な男シリルと、秘めた恋心をある男性に抱いている男装の麗人ブランシュです。
    もっとも、まだ十六の麗人は、純情可憐さを秘めた自称男子です。

    シリルは、十五歳の時の初恋の女性がとんでもない女性だったので、初めての恋だと思っていたものががあっけなく悲恋に終わってしまいました。
    その経験によって女性不信に陥ったらしく、以後女性遍歴を繰り返しています。
    将校としての地位は名ばかりのものだったようで、同じ様な境遇の友と遊び賭け事に現を抜かしていました。
    ある時、賭け事で莫大な借金を作ってしまったので、ついに父に勘当されてしまうのです。
    そして、「穀潰しの怠け者」と父にも甥のシャルルにも言われてしまいます。

    そういう訳で、シリルは愛人の伯爵夫人のカティアと共に、ネージュ家の六花城に赴き、一冬を雪深い街で過ごします。
    そこで、城の人々や街の人々と様々な交流をします。
    自分の適性を気付かせて貰ったり、ブランシュと友人のように付き合います。
    ブランシュにとっては、年上の友人であったシリルです。
    けれども、ブランシュに何時の間にか恋心が芽生えていたようで、それは、シリルにとっても同様だったようです。
    長い冬を共に過ごせば色々なことがあります。
    では、これ以上詳しく語ってしまうと、折角の物語を楽しめなくなるので、この辺りで失礼します。
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  • 神ノ恋ウタ

    石和仙衣/絵歩

    絵歩先生の表紙絵が綺麗で印象的
    ネタバレ
    2026年7月23日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 余り読んだことのない漢字の読み方が次から次へと出てきます。
    それぞれを憶えるまで、何度も戻りながら読むので、中々物語に浸れません。
    そして、突如として凄惨な場面が現れるので、心拍数が上がります。
    人間と神が入り組んで、理解が追い付かなくなり迷路に踏み込んだようになります。
    旧態依然の考え方で、女性の生理を【月の障(さわ)り】として、神々の怒りを買うなどとしています。
    子宮の中で、子を育むための寝床を作っていたけれども、子が生まれるのに至らなかったので、血と共に子宮の中の寝床を外に出すのが生理です。
    人の身体の中から出てくる血が不浄で、神々が穢れを厭うというに至っては、驚いてしまいました。
    神がその様な考えを持っているのなら、人が見の内で生命を育むという当たり前のことが忌むべきことになってしまいます。
    生命が生まれることが奇跡のように喜ばしいことではなくなってしまいます。
    男性は、戦ってお互いに身体から血を流しますが、それは、忌むべきことではないという考えなのでしょう。
    人を傷つけ命を奪う行為が不浄には当たらないという摩訶不思議さです。
    女性が十月十日の間、子宮の中で育んだ尊い命を、いとも簡単に屠る行為は野蛮としか言いようがありません。
    色々と設定が悲しい方に縛られていて、読むのが辛くなりました。
    女性を貶めることをしながらも、女性を求める男性とは一体どういう存在なのか。
    人も神も物事の本質をよく見て正しい判断をする必要があるのに、できていないのが残念です。
    物語の最後は都合よく纏めていますが、読後感が全くすっきりしません。
    表紙絵だけが素的でした。
  • 恋し続けた君へ

    虹海美野/ayapii

    ayapii 先生の表紙絵が綺麗
    ネタバレ
    2026年7月22日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 表紙絵が美しいと、惹かれて読んでみたくなります。
    こんなにも綺麗な表紙絵なのに、何故か今迄に誰の目にも留まらなかったようです。
    ayapii 先生の作品は、印象的です。
    最近、先生の表紙絵に惹かれて何冊かの小説を読みました。
    レビューも書きましたので、どなたかがまた、読んでくださるでしょう。
    この物語の主人公の名は、美水奏路(みずそうじ)です。
    そして、恋した人に告げた名前は、伊糸恋(いいとこい)という女名です。
    けれども、恋した人の名前が最後まで判りません。
    好きな人が同じ様に自分を好きでいてくれる幸せは誰もが味わえるものではありません。
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  • 白銀の人狼は生贄の王子に愛を捧ぐ

    伊達きよ/ミギノヤギ

    故国滅亡の危機を救った元王子と人狼の長
    ネタバレ
    2026年7月22日
    このレビューはネタバレを含みます▼ ユーディスティー王国は、建国から数百年を経て、愚かな国王と大臣達によって運営されています。
    そして、驕慢と奢侈と契約している人狼の里に対する不敬に国の中枢が流れてしまっているのです。
    ところが、父王や母や兄弟王子等が誰一人として真面(まとも)な人間でない中、辛うじて王位継承権の一番低い王子シャニだけが思慮深く不屈の精神を持っていました。
    彼は、誰に教えられずとも、自らの力で自分の道を切り拓いていけるだけの精神力と努力と才覚がありました。
    悲しいかな、シャニにとっては、逆境こそが生きる活力だったのです。
    実に、人狼の里ザノゥサへの貢物として選ばれたことは、シャニにとって転機と言えるものになります。
    困難であればあるほどに身体の奥底から力が湧いてくるシャニです。
    早速、見事に雪山での生還を遂げて、ザノゥサの長と側近の敬意を得る事ができます。
    その後も、偉業を成し遂げたりして、長の住む里の民に受けいられていきます。
    これ以上は、語ってしまうと読む楽しみが減ってしまうので、書きません。
    どうぞ、シャニとザノゥサの長、グリトニィル、愛称ニィルの物語を楽しんでください。
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  • 王の至宝は東を目指す【特別版】

    夢乃咲実/Ciel

    表紙絵の左から射す太陽で先行きが明るい
    ネタバレ
    2026年7月21日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 見習い僧の衣は赤茶色です。
    それは、暖色系の色であり太陽の色です。
    そして、僧を見る人々の心を暖かくする色です。
    例え、見た人が憂いを心に抱えていたとしても、自ずと心に明かりをともす色でもあります。
    主人公のイーシェは、貧しさ故に出家して見習い僧になっています。
    けれども、そのお蔭で生家で暮らしていたのでは知らなかったことを師から教わることができました。
    また、イーシェは生来の賢さは充分に持っていたようです。
    更に十年間、見習い僧として深く師僧侶に関わったことで、思慮深さが加わりました。
    ところが、僧院と生家のある村が盗賊達に襲われたことで、進むべき道を変えなければならなくなりました。
    偶然にも、僧院で出会(くわ)したユトーと新たな道を目指して旅をすることになります。

    表紙絵の美丈夫のユトーですが、顔の左半分しか描かれていません。
    何かと頼りになるユトーには違いありませんが、イーシェに見せていない側面があるということを示唆しています。
    そして、そのことで、イーシェのユトーに対する疑惑は膨らんでいき、挙句の果てには共に様々な策略の手に落ちていくのです。

    終盤は怒涛の展開になります。
    題字の『王の至宝』が何を指しているかが明らかになります。
    これ以上は語ってしまうと物語を楽しめなくなるので、触れないことにします。
    では、二人の物語を心行くまで堪能してください。
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  • 遍歴の騎士と泣き虫竜~のらドラゴンのご主人さがし~

    夢乃咲実/Ciel

    妖精のような竜と壮麗な騎士の表紙絵効果
    ネタバレ
    2026年7月20日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 東洋の龍は、神のような存在で、人間と関わることはありません。
    ところが、西洋の竜は、古(いにしえ)より人間と密接に係わってきました。
    多くは、竜は倒さなければならない存在として描かれてきました。
    しかし、この小説のように共存する物語が存在してもいいのです。
    卵生の竜は、鳥のように親鳥が温めて孵化するのではないようです。
    つまり、幼少期から係るものによって性格や性質が形づくられるということになります。
    けれども、持って生まれた魂が高潔であれば、よからぬ道を選ばずに常に正しい道を歩んでいけるようです。
    そのようにして、この物語の名無しの小さな竜は、遍歴の騎士に命を救って貰い、名前を付けて貰います。
    フォンス(泉)とは、彼に相応しい名前です。
    何気なく選んだ名前のようですが、彼の本質を見事に言い表しています。
    そして、遍歴の騎士のシルヴァンは、フォンスを従者にして旅をすることになります。
    フォンスは、様々なことをシルヴァンから学び、心身ともに急速に発達していきます。
    シルヴァンにとって、その選択が究極の選択であったことを往く先々で身をもって知ります。
    高潔な騎士は、高潔な竜に出逢い、共に人と竜の世を変革するまでに至ります。
    『旅は道連れ世は情け』のような旅の道中の話も堪能できました。
    大団円の物語の終章も合わせて楽しめました。
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  • 銀狼公爵と愛しの番

    野良猫のらん/古澤エノ

    古澤エノ先生の表紙絵の銀狼が美麗
    ネタバレ
    2026年7月20日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 表紙絵が見事だと思わず手にして読みたくなります。
    銀狼のヴォルフ公爵は、寡黙さと聡明さが手に取るように判ります。
    また、人であるソリスは、謙虚さと清らかさと優しさが見た目に現れています。
    人を毛無しと呼ぶので、獣人は身体中に毛が生えているのかと思いましたが、違うようです。
    耳と尻尾だけということですが、他の動物の獣人もそうなのでしょうか。
    何れにせよ、いいとこどりの見た目を持っているのが獣人のようです。
    いつの時代も、どこの国でも、自分よりも劣るものを奴隷として扱うのは全く同じです。
    支配階級の地位にしてもそうなのでしょう。
    余りにも衣装に掛ける費用が莫大過ぎるように思います。
    そんなものに掛ける無駄は省くべきでしょう。
    何かと庶民と懸け離れすぎているのはよくありません。
    『上に立つものは質素倹約を旨とすべし』です。
    自分達に費やす金は最小限度にして、庶民が幸せに暮らせるように心を配るのが上位者の務めです。
    今回、ただの人であるソリスを番として迎え入れたので、政治的な事柄も変わっていくように思います。
    月の銀狼のヴォルフと太陽のソリスが出逢って、この国に新しい陽が射しこみ始めました。
    何事においても良い方に変わっていくのは素晴らしいことです。
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  • 86万円の初恋【特典付き】

    ロッキー

    86万円の外套は原状復帰済。返済は?
    ネタバレ
    2026年7月19日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 現在の物価を考えても、例え有名店のコートだったとしても、86万円は高額過ぎます。
    布地から手織りをして、日本の洋裁師が仕立てたのなら、ある程度高額になるのは理解できます。
    それでも、和服並の価格に、金銭感覚がついていけません。
    今は、高額所得者だけが有名洋服店で買い物ができる時代です。
    そんな高価な洋服を着て、そのあたりを歩かないで欲しいと思うのは、持てざる者の僻みでしょう。
    そして、無事にクリーニングも済んで、ほぼ元通りになったようです。
    幾ら掛かったのかは書かれていませんが、返済はまだ終了していないのでしょうか?
    如何(どう)やら、このまま有耶無耶にするつもりのようです。
    佐藤陽(はる)は、家出してきたにしては身軽です。
    衣類等を購入しつつ過ごすうちに、喜屋武真理(まさみち)の家に様々なものが増殖していった筈ですが、余り描かれていません。
    それなのに、二人で出掛けた夏祭りの夜店の金魚すくいで、黒い出目金を捕ったので、早速立派な水槽と台を購入したようです。
    実に、喜屋武真理は、髪を左右に分けて額を出して、眼鏡を外せば、美形のようです。
    前髪と眼鏡で隠していたようですが、佐藤陽に見つかってしまいました。
    性格も人物も個性的で面白味のある人間です。
    生活を共にすれば、お互いのことは大体解ってきます。
    何日か一緒にいて大丈夫だということは、お互いに馬が合うということでもあります。
    好意が恋になり、恋が愛に変わっていく彼是(あれこれ)を見せて貰って楽しい一時を過ごすことができました。
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  • 緑の風に君をひらく

    青井秋

    孤独な文筆家に語らいと翠色の光景を齎す人
    ネタバレ
    2026年7月18日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 児童文学作家の倉岡荘司の父は、荘司と同じ様な生業に就いていたようです。
    けれども、荘司の回想には父しか出てこないので、母の愛も父の愛もどちらも得ることなくこの年まで生きてきたのかもしれません。
    そうであるのなら、彼が人との関わりを避けるのも無理はないように思えます。
    実際に彼が相続したこの家を訪れるのは、出版社の担当者だけかもしれません。
    彼にとっては、いい想い出がない屋敷と庭です。
    ところが、造園業者の庭師の錦木との語らいの中で、庭に植えられた木々の様々な話を知っていきます。
    彼の父は、庭の木々について何一つ語ってくれませんでした。
    それほどに、父の心は深い悲しみに満ちていたのかもしれません。
    それでも、現実に生きている子どもの心にも目を向けて欲しかったと、今更ながら思います。
    その父から得ることのなかった優しい思い遣りの心を、折に触れて錦木から受け取ります。
    そして、彼の積年の凝り固まった悲しみは融けて、優しくやわらかな愛に包まれます。
    実に、これからの日々、二人で過ごす春夏秋冬のあれこれが楽しみでしょう。

    これは、小説と漫画が融合したような贅沢な美しい絵画の如き作品でした。
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  • 爪先に光路図

    青井秋

    植物に満ちた地球に住み植物を糧に生きる人
    ネタバレ
    2026年7月18日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 毎日のように、何らかの植物を目にして、幾つかの植物を見の内に入れて生きている私達です。
    庭に生えている雑草も道端で生き生きとしている雑草も春と夏には緑色をして、私達が気が付かないうちに心を密かに潤してくれています。
    野山の木々だけが私達の心を癒してくれるのではありません。
    食べるものが無い時代には雑草も立派な栄養源になってくれたのです。

    室田教授が女性を助手にしないのは、世間的な意味合いもありますが、やはり潜在的に男性を好む質だったからだろうと思います。
    岩井新を助手にして、数か月を共に過ごしたことで、漸く自覚したようなところがあります。
    学生の方から告白されて、その学生が未成年でないならば、交際を妨げるものはどこにもありません。
    二ヶ月もの間、不便で寂しい思いをして、やっとその気持ちに応える踏ん切りがついたようです。
    自分達の始まりの場所である山の中で静かに二人の思いが結実しました。

    人の中に魚が住んでいるという物語も珍しいです。
    想像しただけで楽しくなります。
    私の魚はなんだろう?
    何色をしているのかな?
    実際のところ、魚達は社会的な生活を送っていて、仲間意識もあり、知能も優れています。
    彼等にも感情があり、痛みも感じています。
    それを知ってから、魚を食べることができなくなりました。

    狐は日本にまだ幾らか生存しています。
    私達が彼等を恐れないからでしょう。
    寧(むし)ろ彼等に親しみさえ感じています。
    翻(ひるがえ)って、狼は日本から姿を消してしまいました。
    私達が滅ぼしてしまったのです。
    私達が彼等を恐れ憎んだからでしょう。
    同じ生きものなのに、悲しいです。
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  • 君によせるブルー

    青井秋

    空の青と海の碧と山の蒼と心のあおとブルー
    ネタバレ
    2026年7月17日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 春は青。人の人生の伸び盛りの頃を青春と言い。
    少年少女が青年へと変貌を遂げていく数年間は、音がするぐらいに目に見えて変化が現れる。
    数年後にはまるで違った人の様に変わってしまう故に、今の貴重な一瞬一瞬を忘れぬように目に焼き付け心に留めたい。
    心も体も日々揺れ動いて定まらない。
    誰かと共有したい時間と場所ができたなら、誰にも見られぬように秘密にしておきましょう。
    一緒に眺めた海の色と空と雲の色と形は絶えず変わっていき留まることを知らない。
    絶えず心の中に満ちてくる想いは淡く弾んで体から飛び出していきそうだ。
    秋と冬も二人で過ごす初めての季節。
    これから何度同じ季節が巡ってきて何度同じ時を過ごせるだろう。
    願わくば君を好きだという気持ちが果てしなく遠い日々まで続いていきますように。

    この角度で手をつないでいるのなら、きっと恋人繋ぎをしていると思われる表紙絵。
    微妙なところで見えないので、想像してみる。

    黒電話の音はどんな音だっただろう。
    人は自分の意志と考えで生きている。
    守護してくれている存在がいるとしても、不干渉で、実体を持たない存在だと思われる。
    気付きのようなものを与えてくれたり危ういところに近づかないように勘のようなものを齎してくれたりと。
    それが、こんなにも素的な男性の姿で現れたら、瞬く間に恋に落ちてしまう。
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  • 星は願いを

    桜部さく/桜之こまこ

    流れ星が願いを叶えてくれると信じている
    ネタバレ
    2026年7月17日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 世界中で、多くの人が、流れ星が人々の願いを叶えてくれるので、儚く消えてしまうまでに願い事を心の中で唱えればいいということを当たり前のように信じています。
    そして、実行しているのでしょう。
    何時、誰が、その様な迷信じみたことを言い出したのでしょうか?
    流れ星は、まさに消滅していく最中の星の欠片です。
    今死んでいこうとしている星の欠片の命運を祈ることをしないで、何故誰も彼もが自分の事ばかりを願うのでしょう?
    星の欠片にその様な力があると信じる理由は何なのでしょう?
    誰か一人でも、その消えゆく星の欠片の為に祈ってあげて欲しいと思うのは可笑しいいことでしょうか?
    願いを叶えるのは、神でも仏でも星でもなく自分自身です。
    自分が誠心誠意努力を重ねて目的に向かって邁進したからこそ、願いは叶うのです。
    この物語の主人公の高崎流星は、そのようにして願いを叶えました。
    《流星》という名を付けてくれた両親も祖父母らも誰一人として彼を顧みることが無かったのですが、彼を保護してくれた養護施設の職員の人達と同室になった小谷未来(みらい)だけが彼を心から案じてくれました。
    自分自身も僅か二歳から施設で育ったにもかかわらず、優しさを体現したような未来と共に過ごした三年間は、流星にとって生涯忘れることのできない大切な思い出だったに違いありません。
    お互いに離れていた十年間の間には、言葉にできない程に辛く悲しい事もあった筈です。
    けれども、二度と会うことがないかもしれないお互いを心の中で想いながら生きてきたからこそ、曲がりなりにも生きてこれたのは確かでしょう。
    思っていたよりも素的な大人になっていたお互いを目にして、心ときめく日々が始まりました。
    そして、離れていた十年間を埋めるように、お互いのことを再確認していくのは楽しいひと時でもありました。
    唯一、流星と父との確執が、時おり目を剝くのは、彼が乗り越えるべき試練です。
    それも、未来が的確に見抜いて、対処法を見つけることができました。
    二度と離れることのない幸せを手に入れた二人です。
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  • 溺れるほどの愛を聴かせて

    杉原朱紀/カワイチハル

    一目惚れをしてしまったら心の向く方へ進む
    ネタバレ
    2026年7月16日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 元ピアニストの伊波透琉(とおる)は、偶然入ったバーで峰岸拓真(たくま)に出逢います。
    その後、恩師の家で、度重なる偶然で、二度目の再会をするのです。
    二度同じようなことが続けば、これはもう偶然ではなく必然でしょう。
    一度目と二度目の間に、透琉は心の一番深いところにしまっていた思いを拓真に聴いて貰い、身の内までも解放して貰いました。
    おそらく、透琉は恋愛経験が皆無で、自分が男性に惹かれる質であることも知らなかったでしょう。
    それほどに、幼少期からピアノの修練と上達と研鑽に一身に励んできたのに違いありません。
    もっとも、女子は自分よりも美しい男子を観賞用として扱います。
    恋愛対象にはしません。
    むしろ、年上男性から誘われたことがあったかもしれません。
    恋に落ちてしまった拓真が、少し強引に色々と勧めていってくれなければ、後々の様々な出来事や試練は起こらなかったでしょう。
    透琉にとって、拓真は恋人ですが、恩人と言える存在で同志とも言えます。
    演劇と音楽の融合した世界を楽しめた本作です。
    ただ一つ気になるのは、透琉が、自分のことを「俺」というところです。
    美しい繊細な心を持った男性に、全く相応しくない言葉遣いです。
    何故か、ボーイズラブ関連の作品では「俺」が当然のように多用されています。
    人物に合わせて使い分けて貰いたいものです。
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  • まじない歌人の恋心【イラスト入り】

    水原とほる/Ciel

    私利私欲の為に歌を詠むべからず
    ネタバレ
    2026年7月15日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 主人公の相良雅文の先祖の歌人、相良文丸(ふみまる)は人を幸せにする「まじない歌」を詠んでいました。
    ところが、ある時、藩主の巧みな計略により、病床にあった妻を医者に診てもらうのと引き換えに「呪い歌」を詠んでしまったのです。
    実に、人を幸せにするのではなく、自らが幸せになる道を選んでしまったのです。
    医者という者は必ずしも研鑽を積んだものばかりではない時代でした。
    ですから、医者にかかればたちどころに病が癒えるとは言えなかったのです。
    案の定、医者に診てもらったにもかかわらず、妻は亡くなってしまいました。
    この時に、文丸は、誤った道を選んでしまったことに気付いたでしょう。
    後悔先に立たず。
    妻を見送った後も八十歳まで生きたそうですから、亡き妻を偲ぶには十分すぎる年月だったと思います。
    『まじない歌人の愛惜』という題の方がこの小説には相応しいように思います。
    それでも、このただ一度の文丸の過ちが巡り巡って、相良雅文と弁護士の和田瑛士が出逢う切っ掛けを作りました。
    そして、雅文が誠意を持って自分の身に降りかかった問題に向き合ったので、和田瑛士の信頼と愛を得ることができたのです。
    如何やら、この二人は、初対面の時からお互いに好感を持ったようですので、こうなるのが一番自然だったのでしょう。
    初めて目にしたCiel先生の表紙絵が余りにも蠱惑的で、怖いもの見たさで読んでみたくなりました。
    実際には怖い物語ではなかったのですが、人の念というものの方がよっぽど怖いと思わされました。
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  • 猫を処方いたします。

    石田祥

    霜田有沙先生の表紙絵効果絶大
    ネタバレ
    2026年6月7日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 私の手元にある紙本の第1巻は、2026年2月16日に、第1版第19刷で発行されています。
    相当売れた本のようですが、シーモアでは、発行から4年も過ぎているのに、一人しかレビューを書いていません。
    そして、無料立ち読みがありません。
    これでは、いくら表紙絵が可愛らしくても、購入には二の足を踏みます。
    私は、読みだしてはや一頁目で迷子になりました。
    それは、例の京都の地名を読んでしまったからです。
    「京都市中京区麩屋町通上ル六角通西入ル富小路通下ル蛸薬師通東入ル」
    次に、第一話の主人公の香川秀太が
    「会社を辞めた先輩に教えてもらったんですが、先輩の弟の奥さんのいとこが勤めている会社の取引先の、そのまた先の取引先に、こちらに通っている人がいたそうで、とてもいいクリニックだと聞きまして」
    これで、五里霧中になります。
    さらに、よく人物も家族構成も住居環境も判らない患者に保護猫を処方するに至っては、作り話だから楽しみましょうと言う話ではなくなりました。
    他の話では、ペットショップで売れ残ってしまった猫を処方したりします。
    実際に、保護猫を世話して猫の里親を見つける人たちは、猫を托す人の審査をして、猫を安心して任せられる人たちだけに手渡します。
    それなのに、この本のようなやり方では、猫がどうなろうと一切関知しないように見えて空恐ろしくなります。
    すでに第5巻まで発行されているようです。
    真面目に保護猫の世話をしている人たちや実際に猫たちと暮らしている人たちは、この物語を面白いと思うのでしょうか?
    この話を読んで猫を飼う切っ掛けにしてもらったら、猫たちには不都合です。
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  • ホテルクラシカル猫番館 横浜山手のパン職人

    小湊悠貴/井上のきあ

    毎巻の表紙絵に描かれたホテルの庭と花々
    ネタバレ
    2026年6月6日
    このレビューはネタバレを含みます▼ ホテルクラシカル猫番館は、富裕層の人々を対象としたホテルのようです。
    経営者もそうですが、働いている人達も幾人かは当てはまるようです。
    主人公の高瀬紗良は、祖父が元国会議員で、父親は国会議員です。
    紗良の兄か弟もいずれその道に進むのでしょう。
    紗良の祖父母と母は、五年前に、紗良が製菓専門学校に進みたいと行った時に反対しました。
    「あなたがそんな仕事をする必要はありませんよ」
    「いい子だから、おじい様方の言うことを聞いてちょうだい」
    「社会経験を積むのは悪くはないが、おまえがそんな苦労をすることはない」
    挙句には、就職してわずか3年で店主都合で退職になった時に、祖父は見合いをして結婚しろと言い出す始末です。
    また、紗良自身は、折角気に入って買ったお気に入りの靴を履きならすこともせずに履いて靴擦れをおこす計画性の無さです。
    まだ3年しかパン屋での仕事の経験がないのに、ホテルの厨房にという設定もいささか無理があります。
    そして、ホテルクラシカル猫番館のオーナーの本城綾乃は、「うちの厨房はいま、シェフもパティシエも男性ばかりなんだもの。むさくるしいったら」などと言います。
    「だからひとりでも女性に入ってもらえたら、厨房も華やぐと思うのよ」と続けるのです。
    二度目にここまで読んで、登場人物たちに全く興味を持てなくなりました。
    こういう設定が楽しいと感じる人は楽しめるのだろうと思います。
    けれども、私は、今時猫を庭に出している時点でもう無理だと思いました。
    ティータイムで、猫を人のように語らすのも白々しくていけません。
    もっとしっかりと無料立ち読みを読んでいたらと思っています。
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  • 庚国偽宦官物語

    鳥村居子/六七質

    誰も命を無くさない中華国物語を楽しむ
    ネタバレ
    2026年6月5日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 表題の地上の烏は、葉紅琳(ようこうりん)改め宦官の葉朋善(ようほうぜん)。
    暁天の狼は明宗。狼とはいうものの、少しも狼という感じはありません。
    朋善は、皇帝の明宗を傀儡皇帝にしない為に、有能な大道商人の柳公権(りゅうこうけん)を、宮廷の官吏にして貰います。
    次に、自分の担当する後宮の妃嬪(きひん)の阿賀(あが)を味方に引き入れます。
    そして、武官の張寅(ちょういん)までも策略を巡らして仲間にしてしまいます。
    彼らは、満月と新月の夜に、明帝も含めて、公権が紹介した居酒屋に集まって策を練るのです。
    普通だったら、陰であれこれ画策していると、反対勢力に瞬く間に亡き者にされそうなのですが、不思議とそういうことは起こりません。
    まるで、誰かに守られ成り行きを静観されているようではあります。
    身内がことごとく政争の果てに命を落としてしまった明帝は、誰の命も奪わない政策を目指します。
    読後感が清々しいのですが、国老がまだ何やら企んでいそうでいささか不安が残ります。
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  • 岩田虞檸為、東銀座の時代

    野梨原花南/鈴木康士

    鈴木康士先生の表紙絵の虞檸為の恰好良さよ
    ネタバレ
    2026年6月3日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 物語を読みながら、銀座や東銀座を思い描いていました。
    実際に、さほど銀座を知っているわけではありません。
    それでも、少し知っている場所が物語に出てくるとうれしいものなのです。
    主人公は、岩田万丈(ばんじょう)のようで、そうではない。
    戸籍上の祖母や父の若いころを追体験するような摩訶不思議な物語です。
    色々と悩める人たちが出てきます。
    万丈自身も、まだ未成年なのにもかかわらず、突然荒れ海に放り出されてしまいます。
    そして、思わぬ縁のあった身近な人の人情に触れて様々な体験をします。
    まともに学校に通っていたのでは学べなかったことを学びます。
    一足早く人生経験を積むのです。
    『時代』という題名通りの時の変遷を身をもって知ります。
    まあ、小難しいことを考えないで、こんなこともあるさと、楽しんで読んでみるのがいいでしょう。
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  • 鬼玉の王、華への誓い

    橋本悠良/絵歩

    心魅かれる表紙絵、諸刃の剣とその鞘と
    ネタバレ
    2026年6月3日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 白銀の長い髪と暗赤色の瞳の鬼玉の王と彼の剣とそれを収める鞘と華玉が、表紙に描かれています。
    物語の始まりにはそれぞれの人物の名を知らぬ私たちは、読み進むに連れて物語絵巻と人物相関図を頭の中に思い描いていきます。
    そうして、華となる人の名は、玲(れい)だとわかります。
    鬼玉の王の名は、刹那(せつな)ですが、名とは裏腹に国の行く末を懸命に案じて自身の資質の向上を怠らない傑物です。
    玲の祖母の時代から既に先々の物語はある存在によって練られていたように思われます。
    玲の祖父は名前でしか知ることができないのですが、祖母のマーガレットが終生を共にしたいと心を決めて遥々日本まで来たほどの魅力的な人物なのでしょう。
    そうして、玲と双子の珠理(じゅり)の父が生まれました。
    玲の祖父の恵一も父の晴臣も鬼玉の国とは直接関わることはありませんでした。
    けれども、玲が鬼玉村の鬼門を経て未知の世界に往ってしまったことを知って悲しんだことでしょう。
    鬼玉村の言い伝えを知っているので、二度と逢うことはないのだと解ったはずです。
    珠理のスマートフォンに送られてきた刹那と一緒の写真を視て、幸せに暮らしているのは疑わないにしても、まるで神隠しのように消えてしまった玲を思って家族は身も世もなく泣き悲しんだのは間違いないでしょう。
    一方、鞘に導かれて思わぬ世界に飛び込んだ玲と刹那や様々な登場人物たちの物語は、一度読んだだけでは理解できません。
    何度か読み込んで、物語の世界線が漸く見えてきて、話の辻褄が合ってきます。
    冒険譚に恋愛が絡んで、ページを捲る手が止まらなくなります。
    神の采配が感じられたので、落としどころはあのようになるのだと納得します。
    何人か出てきたそれぞれの州の公子と晶玉の名と容貌を想像するのも楽しいです。
    驚いたことに、蒼州の公子の名が慈雨といい、玲の祖母ぐらいの年配の女性です。
    この名は、別の小説家の先生が自作の小説の登場人物に付けています。
    そちらでは、性別は男ですので、どちらにも使える名のようです。
    漸くレビューを書くことができて安堵しています。
    異世界の物語がお好きな方は読んでみてはいかがでしょう?
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  • 小さな命を救う人々

    渡辺眞子

    仔猫仔犬だから小さな命ではないのです
    ネタバレ
    2026年6月2日
    このレビューはネタバレを含みます▼ それぞれの家庭で家族と共に幸せに暮らしている動物たちの命からみれば、明日にでも命のともし火を消されてしまう儚い仔猫や仔犬たちの命と、行政の形ばかりの動物保護施設で日々恐怖に怯えながら命を絶たれている成猫や成犬の哀れな命も含まれています。
    また、私たちの目に付かない場所や動物保護施設に持ち込んだ心無い飼い主たちに無残に捨てられてしまった成犬なども含まれています。
    それらの膨大な数の命からすれば、余りにも少なすぎる命ですが、助ける人々がいて助かる命があります。
    ある施設の発行した季刊の会報の一文です。
    アブラハム・リンカーンの言葉に、「私は、人類の権利と同様に動物の権利を支持する。それが、本来の人間の取るべき道である」
    この本は、『捨て犬を救う人々』の姉妹編の位置付けとして発行されたそうです。
    目次の「はじめに」を読んだだけで、既に涙に暮れているので、読み終えるまでにどれほどの涙を流したか。
    日本は、明治維新の際に諸外国の優れた技術や知識を取り入れました。
    けれども、なぜか動物たちの福祉については一向に顧みようとしません。
    そんなにも莫大な時間と費用が掛かるとも思えないのになぜでしょうか?
    一部の人々にとって、自分たちの都合の悪いことから目を逸らすためのものとして動物たちの命と尊厳を踏みにじっているのでしたら、人として、大いに恥じるべき行いです。
    自分で自分の行いを律することができない人々、人に言われても行いを変えることができない人々のことはもう放っておきましょう。
    私たちだけで、精一杯できるだけのことをしましょう。
    心強い先輩たちが日本全国にいます。
    いずれは、行政の一部の人たちも私たちの熱意に絆(ほだ)されて変わってくれるでしょう。
    それまで、一歩一歩亀のように進んでいくしかありません。
  • 捨て犬を救う街

    渡辺眞子

    捨てる人あり拾う人あり救う人あり
    ネタバレ
    2026年6月1日
    このレビューはネタバレを含みます▼ この本は、2000年に単行本として発行され、2002年に文庫本になりました。
    低価格だったために、多くの人に読まれたと思います。
    そして、書かれている内容に驚愕して打ちのめされ止めどない涙を流したものと思われます。
    少なからぬ人々が、この問題の解決に向けて歩み出したはずです。
    その頃から、20年近くの時が流れ、少しは捨てられた犬たちの事情は改善されたでしょうか?
    国や地方自治体の政策により、私達人間ですら生きていく権利を脅かされています。
    自分が家で飼っている動物のことは大事にしても、目に見えないところで日々悲惨な目に遭っている動物のことからは目を背けたいと思う人は多いでしょう。
    かつて、災害や戦火により、人間と共に数え切れないほどの動物たちが命を失いました。
    今の現状は、既に平和とは言えない状況に向かって突き進んでいます。
    私達でさえ、一年後、十年後の身の安全が危ぶまれています。
    一人の人の力は小さくて無力のように思いがちですが、この本の作者のように、信念と熱意を持って行動すれば開かれる道はあるのだと思います。
    人は裏表があって、容易く人を裏切り傷つけます。
    けれども、動物たちには悪意というものがありません。
    ただ、生きていたい、死にたくないという思いだけです。
    そんな動物たちに信頼される人でありたいと思うのです。
  • トラットリア代官山

    斎藤千輪

    本文の序幕のアンスリウムが表紙絵に
    ネタバレ
    2026年5月31日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 舞台の演劇を観劇するような設定になっている物語です。
    伊太利亜語で書かれたそれぞれの幕の文字と意匠の絵が、読み終えた幕と幕間と次の幕を取り持っています。
    読み手は、登場人物を自分の頭の中の劇場に描いていきます。
    表紙絵の主人公達と、次々に登場してくる関係者の容貌を思い描く楽しみを味わいながら、物語の展開を胸を躍らせながら読んでいくのです。
    全ての幕と終幕の後に、胸に満ちてくる充実感と一抹の淋しさを味わいます。
    この物語の続きを読んでみたいと思いつつも、この物語はこれで終わるのがいいのだとも思うのです。
    どこかにあって欲しいようなトラットリアです。
    けれども、この物語が発表された頃から何年かに渡って世界中を襲ったあの疾病によって、全てが一変しました。
    おそらく、全国にあったこのような店はかなりの数が閉店の憂き目に遭ったはずです。
    悲しい物語は、日本だけではなく世界中に展開していたのでしょう。
    今、再び自由に店を訪れることができるようになりましたが、失われてしまったお気に入りの場所の記憶を誰もが持っているのかもしれません。
    女支配人、大須薫と、料理長、安東(あんどう)怜の提供するワインと伊太利亜料理は、大層美味でした。
    ご馳走様でした。
  • 百年殉情~クラさんとボク~

    入深かごめ/ayapii

    桃井美倉と蔵とモモと南方圭介と
    ネタバレ
    2026年5月30日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 刀剣の付喪神の蔵(くら)は、美倉(みくら)の名を一字貰って命名されました。
    美倉が名付け親となり、主となります。
    そして、次にごみ袋の中に捨てられていた猫を蔵が見つけて連れ帰ります。
    白猫は、桃井美倉の姓から一字を貰って、モモと名づけられました。
    次に生物学上の実の兄が現れます。
    名前は、南方(みなかた)圭介です。
    彼とは、色々と訳ありです。
    圭介は、美倉を弟として考えることはできないようです。
    なぜなら、弟だと思っていた葉介(ようすけ)がいるからです。
    突然目の前に連れてこられた少年を本当の弟だと言われても、認めることができません。
    それは、当たり前でしょう。
    今時、産院で、赤ちゃんの取り違えが起こるとは誰も思いません。
    色々と入り組んだ話が絡み合って謎解きのような面白さがあります。
    終わり方がまた、唐突で、波瀾万丈が更に予想されます。
    表紙絵が綺麗だったので、思わず読みたくなりました。
    冒頭から、読めない漢字が出てきましたが、何となく意味は解ります。
    『長桑折』とは、長持(ながもち)とみなしていいのでしょうか。
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  • ハダカで恋していたいから。

    かがちはかおる/一夜人見

    桃色の表紙絵が恋心を表現していて素的です
    ネタバレ
    2026年5月30日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 表紙絵は、たぶん、二人が初めて会った時の成り行きを表現しているのでしょう。
    野中菜摘は、一目で早川翔大(しょうだい)を気に入ったようです。
    見た目も、初心で誠実な感じがするところも、菜摘が想像した通りの人物のようです。
    まだ誰とも付き合っていないようなので、早速手中に収めようと菜摘はあれこれと画策します。
    一緒にスポーツジムに通って、ゆっくりと仲良くなっていくのですが、ある時、思わぬ人物が現れて仰天します。
    実らなかった初恋の相手が、スポーツジムのインストラクター経由で菜摘を尋ねてきます。
    菜摘にとっては、それは青天の霹靂で、まさに彼は一番会いたくなかった人物に違いありません。
    今更のように、彼が過去のことを謝ってくるのですが、慌てふためいた菜摘は適当なことを言って、その場から逃げ出してしまいます。
    派手で軽い男を演じてはいますが、本当は小心者の菜摘です。
    ただ色々と強がって、自分が傷つかないようにしているだけなのです。
    そうして、毎日のように翔大を追いかけていた菜摘は、彼からしばらく距離をとります。
    その間に、翔大は、菜摘が自分にしてくれたことや言ってくれたことを考えてみるのです。
    翔大自身が長年持っていた兄や妹に対する引け目や自信の無さは、もう気にならなくなりました。
    それは、菜摘のお蔭なのです。
    一人黙々とトレーニングに励んだ翔大は、見違えるような身体を手に入れます。
    久しぶりに会った菜摘はその変りように驚かされます。
    そして、望み通り、菜摘は翔大の身も心も手に入れることができました。
    今は、まだ翔大も若くて付き合い始めたばかりなので、初々しいです。
    でも、何時まで、菜摘のことを「菜摘ちゃん」と呼ぶのでしょう?
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  • 狐の嫁取り雨

    四ノ宮慶/高星麻子

    表紙絵は、浮狐の滝で会う佐古路と拓海
    ネタバレ
    2026年5月28日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 自分を、幼いときから生家を離れて、中高一貫校に通うようになった時まで見守って慈しんでくれていた超自然的な存在があったことにようやく気付いた笠居拓海です。
    それは、神様ではありませんが、神様の眷属の狐の佐古路でした。
    拓海の過去の過ちも総て承知の上で、佐古路は、拓海の行く末を案じてくれます。
    佐古路の弟の佐俱路(さぐじ)から、色々なことを知らされた拓海は、自分にとっても、佐古路にとっても最善の道を選ぶことができます。
    一度は、佐古路に助けられた命です。
    佐古路と共に生きていく未来は、子供の頃から思っていたのとは違いますが、自分の何よりも大事な人達のために全身全霊で心を無にして奉納太鼓を奏でます。
    天守(あもり)稲荷神も眷属も町の人々や参拝していた人々をも心酔させた奉納太鼓の仕儀でした。
    これから、数年は、拓海の奉納太鼓は堪能できると思われますが、後継者も育っているようですので、先々の心配は無用のようです。
    佐古路と拓海のあまりの仲の良さに、いささか面白くない佐俱路ですが、いずれ自分の番が見つかればやっかみも減るでしょう。
    普段は、温泉旅館に泊まることはないのですが、どこかに往ってみたくなりました。
    いいね
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  • 絵になる大人になれなくても

    崎谷はるひ/ヤマダサクラコ

    如何なる理由があるにせよ信頼を裏切るな
    ネタバレ
    2026年5月27日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 高校の三年間、親密な友人関係を築いてきたのにもかかわらず、突然、連絡を絶って居場所も知らせないという仕打ちを、好意を持っている相手にしてしまえるのが井原峻之(たかゆき)という人です。
    そして、偶然のように八年ぶりに会うように画策したのに違いありません。
    坂上真弓(まゆみ)が、高校卒業後どれほど衝撃を受けて悲嘆にくれたか解らなかったはずはありません。
    よくもまあ今更のように彼の前に飄々と現れることができたものだと呆れ返ります。
    幾ら仕事面で気遣いができて優秀でも、劇団での評価が高くても、そんなことは彼のしてきたことを帳消しにできるものでは決してありません。
    井原には、『絵になる大人』どころか、見目は佳くても、人としてしてはいけないことをしてしまえる非情な人物だという評価を付けてしまいました。
    坂上は、充分『絵になる大人になれている』のです。ただし、井原が今更のように現れなかったら、『酸いも甘いも嚙み分けた大人』でいられたのにと、残念でなりません。
    次に、昔の話の小道具として、二人とも当たり前のように煙草を吸う設定になっています。
    煙草を吸う時点で、人物評価を下げざるを得ません。
    後半は、長々と性的な描写が続いて些か食傷気味で、かなりの部分を読み飛ばしてしまいました。
    坂上は、井原を赦してはいけないのです。
    彼が過去三年間に数々の友愛を見せてくれていたとしても、八年前にそれは総て無きものになってしまったのです。
    もう、あの彼は、どこにもいません。
    今ここにいる彼は、人の皮を被った人でなしです。
    彼の口車に乗せられてはいけません。
    彼は役者なので、どのようにでも自分を偽ることができるのです。
    友人ではなく、恋人として付き合うなどもっての外です。
    彼は、自分のしたことの報いを受けなければなりません。
    今から、八年間、坂上と会わない生活を送って、それでもなお気持ちが変わらなければ、もう一度、付き合ってくれるか坂上に確かめてみてください。
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  • 居場所はお前の腕の中

    蒼キるり/ayapii

    真壁朔夜は、深谷拓磨に気遣って貰えて幸せ
    ネタバレ
    2026年5月27日
    このレビューはネタバレを含みます▼ たぶん、朔夜は、高校入学と共にほぼ一人暮らしの日々になっていたと思われます。
    結婚生活が破綻した彼の両親は、彼が成人するまでは離婚しないことに決めています。
    義務教育が終わるまでは、両親は少なくとも家からそれぞれの職場に通っていた筈です。
    それが、高校に入学したのを境に生活費だけを置いておかれる生活になったようです。
    彼は、日常生活のあれこれを総て自分でしなくてはならなくなりました。
    学校に通いつつ勉強もして、家事も熟すとなったら、それ相応の知識がなければやっていけません。
    買物、炊事、洗濯、掃除、ゴミ出しなど、日々の暮らしは手を抜けないことも多々あります。
    これから、高校の三年間と大学の四年間と果てしなく長い孤独が続いていくのを覚悟して気が遠くなっていたに違いありません。
    ところが、ある時、朔夜のことが気になっていた拓磨に声を掛けて貰って、拓磨の家に行き夕食までご馳走になります。
    拓磨の家の家庭事情も教えて貰って、それからはなし崩し的に拓磨の家に入り浸ります。
    もしかすると、初めて親しくなった友人が拓磨なのかもしれません。
    毎日のように拓磨の家に行き、共に勉強し食卓を囲む日々が、両親のいない抜け殻のようなマンションに過ごす淋しさを忘れさせてくれたのに違いありません。
    そのうちに友人関係が変容して、二人は『禁じられた遊び』に嵌ってしまうのです。
    もはや友人とは言えない間柄を何と呼べばいいのかわかりません。
    それでも、心の中ではお互いに対する想いは、『友情』から『恋情』にいつの間にか変わっているのでした。
    拓磨は、朔夜と恋人の『キス』がしたくてしたくて堪らなくなって、心の内を告げるのですが、『別れ』が恐い朔夜は、思い切れないのです。
    お互いの両親の結婚が破綻しているので、次の段階に進むのが怖いのです。
    そういうわけで、朔夜は、自分の想いを母に告げて、母と決別します。
    そして、拓磨と恋人として付き合うことにするのです。
  • 身代わり同士の不都合な恋愛

    かがちはかおる/織尾おり

    表紙絵は現実ではなく、二人の願望ですね?
    ネタバレ
    2026年5月26日
    このレビューはネタバレを含みます▼ この物語の始まりで、主人公の二人が関わり合うことになった見合いには、最低でも十人の人が関わっています。
    たとえ身内が主に関わった見合い話であっても、他人の女性とその両親が関係してくる時点で、断るにしても話を進めるにしても、成り行きを気にする人がこれだけの人数がいるということです。
    実際に当人同士が婚活をする場合は、二人だけの問題で済みます。
    星川景(けい)の父親は、果たしてここまでじっくりと考えていたのでしょうか?
    この見合い話は上手くいくと勝手に思い込んでいたようです。
    実のところ、性的な志向は、母親の胎内にいる妊娠初期のうちに決まるという研究結果を読みました。
    母親が堪えられないほどのストレスを受けると、過剰なホルモンが生まれ、それが胎児にまで及ぶそうです。
    胎児の性別が男であれば、見かけは男として生まれたとしても、内面は女になるそうです。
    結婚生活というものは始めて見なければわからないことが多いのです。
    ですから、男性よりも女性は結婚してから様々な問題を抱えることになります。
    男性はどうしても仕事中心の生活を送るので、負担はほとんどが女性に掛かってきます。
    結婚後順当に出世した男性は、漏れなく仕事中心の生活を送ってきたはずです。
    そして、自分と同じ様な人生を送ることを、当たり前のように自分の子どもにも求めるのです。
    当の子どもが幾ら否定しても、聞く耳を持っていません。
    子どもの人生は子どものものであるということに考えが及ばないのでしょう。
    ところが、星川景は、父の思惑で開かれた見合いの席で運命的な出逢いをします。
    彼の父は、図らずも、恋のキューピッド役を務めてしまったのです。
    聖哉の妹は、自分の替わりに兄が見合い相手と付き合うというまさかの成り行きに驚いているはずです。
    景の父親が騙し討ちのように画策した見合い話の景の写真は、成人式のものでした。
    八年も前の写真ではなく現在の写真だったら、もしかすると、聖哉の妹は見合いをする気になったかもしれません。
    普通に暮らしていたのでは出逢えなかった聖哉と景です。
    若しくは、何かで知り合ったとしても、これほどまでに進展することはなかったでしょう。
    今回は、「終わり良ければ総て良し」としましょうか。
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  • メイドインヘヴン

    奥村柚奈/ayapii

    アンドロイドと比べて人は進歩がない
    ネタバレ
    2026年5月11日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 人の好みは千差万別だと思うのですが、橘伊織が経営する店は女性の顔と髪を持った男性アンドロイドばかりのようです。
    美しく着飾って美しい名前を付けられた色とりどりのアンドロイド達の中で、何故か、立花(りっか)だけが黒髪で平凡です。
    店主の伊織に毎日のように欠陥品などと言われていたら、自分でもそう思い込んでしまいます。
    そして、伊織の言葉遣いの影響を受けてしまったようで、立花の言葉遣いも美しくはありません。
    彼の見た目なら、自分の呼称は「私」が相応しいのに、何故か「おれ」になっています。
    最初から最後まで「おれ」を読まされ続けて、いささか食傷気味です。
    ところで、立花が『あの人』と呼んで慕っている葛原遠矢は、度々立花に似合う洋服を贈ってくれます。
    それが彼の自分に対する好意だとわかっているので、彼の姿を見るたびに立花の心が踊ります。
    それに対して、店主の伊織は立花に執着しているようなのに、立花に主人として接するばかりで一片の優しさも見せません。
    それでどうして立花が伊織に好意を持つでしょう?
    人の心がまるでわかっていない伊織は今度こそ学んだでしょう。
    なぜ自分は愛する者から愛されないのかということに、ようやく気が付いたようです。
    誰かを愛するのなら、その人に愛のある言葉を掛けて愛のある態度を見せなければいけないのに、それができていないから相手が自分から離れていくのです。
    アンドロイドは、厳密には人ではないかもしれませんが、人に似せて作った時点で人の心を持つようになります。
    人に対する倫理は、アンドロイドに対しても向けられるべきものです。
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  • お前はただのセフレだろ

    かがちはかおる/ayapii

    好きで好きで好きで、一杯一杯な想いが漸く
    ネタバレ
    2026年5月11日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 岡嶋敦博は、好きで好きでどうにもしようがない壇晃己(こうき)に対して、「なあ、俺たちなんでこんなことしてるんだろう?」などという酷い言葉を投げ掛けています。
    挙句の果てには、「俺、なんでこいつと○○○○しちゃったんだろうって」と更に追い打ちを掛けるような言葉まで言っています。
    よくもまあ、五年も同じことを繰り返しておいて、今更こんな言葉を相手に向かって言うのかと呆れてしまいます。
    怒り心頭に達した晃己に部屋から追い出されて絶交されなかったものだと思います。
    いくら始まりが友人としての付き合いだったにしろ、自分から望んでこういう関係になったのだから、もっと早く腹をくくって自分の気持ちを言って付き合い方を変えるべきでした。
    ずるずると五年も暗黙の了解のように関係してきたのは、まさに○○○でしかありません。
    相手の気持ちに乗じて気楽な関係のままここまできたのでしょう?
    お互いに相手を好きだと思っているのだったら、今までそれが態度に現れなかったのは可笑しいです。
    心の中だけで留めて置けるはずがありません。
    長すぎた春だったわけで、あの一連の思いやりのない言葉を言ってしまった瞬間に、一切の関係が終わってしまったとしても仕方がなかったでしょう。
    実際に、晃己は一気に気持ちが醒めてしまったはずです。
    何だか、出だしに違和感を感じてしまって、二人を祝福できなくなりました。
    敦博は、思いやりのない言葉をよく言ってしまうので、反省するべきだと感じます。
    言うべきことを言わないで、言わなくてもいいことを言ってしまうのはよくありません。
    それは、自分では判らないので、晃己に何度も指摘されながら直していって欲しいものです。
    仕事上ではそういう失敗はないかもしれませんが、友人や恋人と親しく付き合うのならば、言葉は選ぶべきです。
    物語は、読み込むと色々と見えてくるものがあります。
    人は気持ちで生きていますので、人の気持ちを考えないと真実味がない物語になってしまいます。
    主人公達の性格や態度に違和感がないように話を作って貰いたいと思っています。
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  • 花は咲かずに散るばかり

    かがちはかおる/ayapii

    それぞれの花は咲いて美しく咲き誇る
    ネタバレ
    2026年5月10日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 表題は、白菊と雪がいる⦅露や⦆という名の【茶屋】の遣手(やりて)の仁が言った言葉からきています。
    それは、白菊という名の色子の気性から彼の先を見通すようにして言われたものです。
    白菊と優しそうな名前を付けて貰っているのですが、彼にはまるで相応しくない名前ではあります。
    彼は、〖白菊』というよりも、〖白鷺〗などの鳥の名前が似つかわしいように感じます。
    〖白牡丹〗〖白芙蓉〗〖白木蓮〗〖白睡蓮〗など、白く気高く美しい彼を表す花ならば他に幾らでもあるでしょう。
    さて、白菊は雪を知って初めて人が愛おしいということがどういうことかわかったようです。
    それは、雪にもいえることですが、二人のおかれた境遇を思えば、先の見込みのない悲しい想いには違いありません。
    それでも、これからも生きていくための仄かに小さな心のともしびです。
    其の想いがあるからこそ、苦しみと悲しみに耐えていけるのでしょう。
    物語は、二人の行く末については一言も語っていません。
    ですから、読み手が好きなように思い巡らしていいのだと思います。
    さあ、どのような話にしましょうか。
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  • ランチ刑事の事件簿

    七尾与史

    表紙絵は國吉まどかの想像上のティファニー
    ネタバレ
    2026年4月30日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 表紙絵では、相棒でもある先輩の刑事、高橋竜太郎も國吉まどかもお洒落な洋服で決めています。
    何故なら、お洒落な〖ティファニー〗という名の食堂で昼食を食べる気分に浸りたいからです。
    実際の刑事としての仕事着は目立たない地味な背広の上下でしょう。
    こんなに派手な洋服を着ていては、目立ちすぎて仕事になりません。
    刑事としての仕事は、外回りの仕事ばかりでもなく内勤もあるでしょうけれど、身体が基本なのは当たり前です。
    当然、食事には気を配らなければなりません。
    しかし、まともに昼食や夕食を食べることができる仕事環境でないのは想像がつきます。
    それでも、國吉まどかは時間の許す限り美味しい昼食を求めて高橋竜太郎先輩と歩き並びます。
    仕事に対する気力を充実させることができるのは美味しい昼食だと常々考えているからです。
    さて、ある時、自分達の勤務している警察署の警察食堂にやむなく入ることになります。
    その食堂ティファニーとその調理人、古着屋護が、この小説では重要人物になります。
    犯罪者を落とす食事を作ることができる調理人が、期間限定ですが、刑事の仕事を補佐してくれます。
    実に味覚というものは、人によって違っています。
    美味しい店の情報は参考になりますが、自分に当てはまらないこともあるのは、誰しも経験したことがあるでしょう。
    自分が作る食事が一番自分に合っているのですが、たまには食べたことがない料理を味わってみたいと思うのが人の常。
    読んでいると自分も食べたくなるので、作ってみるか食べに行くか、悩みどころ。
    生きているうちに、あと何回食事ができるかしら?
    生きるために食べる、食べるために生きる、どちらも正解?
    味覚を刺激する美味しい小説を、どうぞ召し上がれ。
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  • 鬼はたまゆら、帝都に酔う

    古河樹/サマミヤアカザ

    孤高の軍人神宮寺彰人に青い春が来たようだ
    ネタバレ
    2026年4月29日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 神宮寺彰人は、まだ陰陽師としての何の力も持っていない時に親族諸共に怪異に襲われました。
    そして、彼を残して全ての親族が怪異に滅ぼされてしまいました。
    この時に心から誰かの助力を願ったのですが、彼を助けに来る人は一人としてなかったのでした。
    それでも、自分一人だけが生き残ることはけっして望んではいなかったでしょう。
    この時の思いが彼を怪異を討伐するための陰陽師としての並々ならぬ力量を携えるための底力となりました。
    自分の一族を全滅させた怪異を倒した後は、生きる目的を失って、家族のもとに往くだけが唯一の望みとなったのも無理からぬことでしょう。
    さて、彰人は、鬼の嵐花に、陰陽師としての能力よりも人となりを落胆されて相手にして貰えなかったわけです。
    それで、嵐花の行動をつぶさに見て色々と考えてみます。
    一体、鬼の嵐花は討たねばならぬ存在かどうかと疑問を持ち始めるのです。
    それほどに、嵐花は見るからに善良な存在で、人の方が余程悪い者の方が多いと言えます。
    そして、今度こそ嵐花によって救われて、共に強力な怪異を倒すことができた彰人は、嵐花に出逢えたことを心から喜びます。
    その後、彰人は生まれ変わったように心身共にこわばりが融けて生きている実感と喜びが湧いてきたのでしょう。
    すると、見える景色がまるで変わってくるのです。
    これからは、帝都の人々に愛されて職務を全うしていくと思われます。
    また、嵐花とは、生きる時間軸が違うので、何年も一緒の時間を過ごすことはできません。
    けれども、限られた時を惜しんで親交を温めて欲しいものです。
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  • 僕とやさしいおばけの駅

    永菜葉一/するば

    表紙絵の高梨優太君は夏服で元気溌剌六年生
    ネタバレ
    2026年4月28日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 高梨優太は、この世に血が繋がった人がお母さんしかいないという生活を十一年間送ってきました。
    もちろん、保育園や小学校に行けば、他の子ども達や先生方や職員の方がいたので、日中は寂しくはなかったでしょう。
    優太は他の子ども達のことを詳しくは知らなかったはずですが、他の子と自分は違うと常々思っていたでしょう。
    実際、保育園や学校では、それぞれの子ども達の父親や兄弟姉妹や祖父母が発表会や学習参観や運動会の時などに訪れます。
    その度に淋しい思いを何度もしたはずです。
    小学五年生ともなれば、色々なことを自分なりに考えることができます。
    転校や転勤や転職は、できればしたくないことですが、他に選べないときがあります。
    優太は、母親を思って、転校を受け入れました。
    優太は、名前通りに優しく勇気がある子どもです。
    本の中に優太の母親の名前は出てきません。
    けれども、育った家に帰ってきた母親は精神的に落ち着いたと思います。
    そして、『小竹ノ駅』がどういう駅であるかを知っていたはずですが、優太には何も言いませんでした。
    それで、優太は自分でお化け体験をします。
    また、学校で『小竹ノ駅』が『お化けノ駅』と呼ばれていると教えてもらいます。
    実際は、人とあやかしが共存する駅でした。
    この秋から冬にかけて優太は得難い経験をします。
    優太の優しさと勇気が人とあやかしの想いを繋ぐ役目をしたのです。
    自分が誰かのために何かをできるということを知り、一番身近な母親を助けたいと考えて実行します。
    強い思いが人を生かして、人をこの世に留めています。
    人の道からはずれないように自制する人も確かにいます。
    人も動物もあやかしも思いがあるから生きているのです。
    人を想う。誰かを想う。
    優しい想い出があるから生きられる。
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  • シンクロハート

    剛しいら/小山田あみ

    通常の捜査では辿り着けない場所に往く手法
    ネタバレ
    2026年4月27日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 陵(みささぎ)知義は、父親の理想の息子であろうと努力を重ね続けて現在の地位にいます。
    知的能力に恵まれていたこともあり、自分の人生の設計図通りの道を辿ってきました。
    そして、自分の人生の決定権を自分で選んだつもりでいました。
    ところが、仕事で出逢った藤丸空也を知るにつれて、その思いが揺らいできました。
    今、三十二歳の陵は、既に人生の円熟期の半分を過ごしています。
    おそらく、人を恋して眠れぬ夜を過ごした経験はないだろうと思います。
    もしあったなら、今ごろは結婚していたはずです。
    実際は勉強に忙しすぎて出会う暇がなかったか、彼の心を熱くさせる人はいなかったのかもしれません。
    ですから、たとえ仕事上の出会いでも、空也に出会えたことは大いに喜ぶべきことでした。
    二人は似た者通しなので、これからも公私共にうまくやって往けるでしょう。
    けれども、当分の間、職場では二人の関係は秘密にしておく必要があります。
    また、何時それぞれの家族に知らせるかは時機を見る必要があります。
    実は、最初は、陵に余りいい感情を抱いていませんでした。
    しかし、空也に対する態度の変化で彼を見直しました。
    これからも、空也を見守って欲しいものです。
    そして、あだ名で呼ぶのではなく、ちゃんと「空也」と呼んであげてください。
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  • ぐるぐる、和菓子

    太田忠司/せいのちさと

    単行本『和菓子迷宮をぐるぐると』を改題
    ネタバレ
    2026年4月25日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 私たちが自分の仕事について考えるのはいったい何歳ごろでしょう?
    早い人は幼少期に既に憧れの思いと共になりたい仕事を決めています。
    遅い人でも大学生になって就職活動を始めると否が応でも決めなくてはならないのだと思います。
    さて、主人公の河合涼太は、卒論を仕上げる段階になっても、大学院に進むことを決めていましたが、就職については全く考えていませんでした。
    彼は、六歳まで母独り子一人の生活を送っていました。
    多忙な母親だったこともあり、知り合いに預けられたこともあったでしょう。
    また、七歳からは叔父叔母が親代わりとなって慈しんで育ててくれました。
    この親代わりの人たちが彼の気質と性格と特性を形作ってくれたのに違いありません。
    その時の美しい母を失ってしまったという喪失体験によって、彼は美に対する観念的な想いを数学的で普遍的なものに塗り替えます。
    ある時出合った美しい和菓子は、彼にとって美の具現だったのです。
    そして、彼は、その美しい和菓子を作った職人を師と仰ぎたいと思います。
    その後和菓子職人になる為に入学した製菓学校で、四人の個性豊かな女学生たちに出逢います。
    実習で同じ班になった、遠野寿莉、堂島爽果(さやか)、田城陶子、峯崎朱音(あかね)たちとは、放課後も一緒の時間を過ごしました。
    でも、表紙絵にもどこにも登場人物たちは描かれていません。
    彼の容貌は描かれていないにしろ、母親が美人だったので、おそらく美男だと思われます。
    そして、性格が稀にみるほど良くて、話しても楽しいので、女学生にとっては興味を惹かれる対象になったはずです。
    卒業後の進路はそれぞれ違っても、生涯の友として長く付き合っていくに違いありません。
    そのうちの一人とは、親しく付き合い始めたようですので、いずれ素的な知らせが友のところに届くでしょう。
    補足ですが、この小説の元になった単行本の『和菓子迷宮をぐるぐると』の表紙絵の和菓子が芸術品のように美しいです。
    検索してご覧ください。
  • 遠の眠りの

    谷崎由依

    西野絵子は、絵よりも文字に惹かれる質
    ネタバレ
    2026年4月23日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 私達は学校教育のお蔭で、文字が読めて絵も描けるようになりました。
    それでも、文字を読むのが好きな人と、絵と文字で読むのが好きな人と、映像と話し言葉で観るのが好きな人の違いがあります。
    これは、持って生まれた性質と気質なので、本人にはどうにもしようがないものです。
    さて、西野絵子は、何よりも文字で書かれた物語を読むのが好きな子どもでした。
    そして、物事をよく見て自分で考えることができる子どもでした。
    それは、大正時代の農家の子どもとしてはまれで、親にとっては到底認めることができるものではなかったでしょう。
    ところが、不思議とその先は絵子が望むようになっていくのです。
    また、行く先々でも周りの人々をその目で観察して、その人の本質をつぶさに見て取っています。
    それでも、自分自身の能力のなさはどうにもできなくて情けない思いも散々しています。
    それが、ある時奇跡のようなソプラノの声を持った少年に出逢います。
    そして、彼が演じ歌う物語の脚本を書きます。
    けれども、どんなに素晴らしい演技と歌であっても、儚い夢と幻のようにその場限りで消えていきます。
    世の中の演芸や音楽というものは、その後の発明や発達によって記録できるようになって、初めて後世に残るものとなりました。
    題字の『遠の眠りの』は、回文の一部分です。
    『長き夜の、遠の眠りのみな目覚め、波乗り舟の、音のよきかな』
    絵子は、いつか、耳にしたことがあるような、懐かしい和歌を、舟歌として口ずさむのでした。
  • お後は笑顔がよろしいようで

    永菜葉一/榊空也

    大事な本名の他に芸名を授けられる僥倖
    ネタバレ
    2026年4月20日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 私達は己の実名を自分で付けることができません。
    生まれて最初に親や身近な人によって贈られた大事な名です。
    人が姓名を付けて呼ばれるようになった歴史はさほど昔のことではありません。
    身分の低いものは姓が無く、名だけで呼ばれていた時代がありました。
    身分が高い人だけが姓名を名乗れた時代もあったのです。
    自分で姓を自由に考えて付けた時代を経て現在に至っています。
    其の実名の他にも名前を持てる奇特な人々が現れる時代が近世になってやってきました。
    芸能の分野に携わる人々が実名では、余りにも夢がないではないかと考える人によって、《芸名》というものが誕生しました。
    芸術や芸能は、心が躍るものでなくてはなりません。
    自分では到底できないことを、持って生まれた才能とたゆまぬ努力と血のにじむような鍛錬によって身につけた人々を鑑賞し、称賛し、応援していくのです。
    さて、前置きが長くなりましたが、本作の前座、久条亭朱雲(くじょうていあけぐも)と兄弟弟子の久条亭蒼雲(くじょうていあおぐも)の名前は、師匠の久条亭慶雲が付けてくれたものです。
    この名は自分で選べる名ではありません。
    それでも、『名は体を表す』の言葉通り、芸人としての芸風と人となりを如実に表すものです。
    朱雲は、その名にふさわしく周囲を明るくします。
    いささか調子が良すぎる感も無きにしも非ずですが、芸人ならばこそ赦されるという一種不思議なきまりのようなものが存在しているかのようです。
    芸名と装束で変装しているとも言えます。
    おそらく、実名ではとうてい言えないことが、芸名なら気軽に言えるということもあるのでしょう。
    また、蒼雲ですが、彼の雰囲気からして(あおぐも)というよりも(そううん)と名付けた方が相応しいように感じます。
    実際に彼の芸名を(そううん)として何度も読みましたので、真は(あおぐも)と知って驚きました。
    雲の名前というよりも、蜘蛛の名前を想像してしまって、居心地が良くないです。
    お願いですから、改名して戴けないでしょうか?
    さて、私たちの世界は文字と言葉で成り立っています。
    言葉を大切に使って、人に優しく己に厳しく生きていくということを教えてくれるのが芸術家や芸術作品でもあるのです。
    本作は、榊 空也先生の表紙絵の見事さで、主人公達がかなり引き立てられたようです。
  • 蛍の森

    hatuka/ayapii

    再会は蛍が棲むという森への旅、宝の発掘
    ネタバレ
    2026年4月12日
    このレビューはネタバレを含みます▼ ジャック・スワロウは、その名の通り燕のように理不尽な物事を耐え忍び、自分の理想に向かって努力を重ねていくだけの強い精神力を持っています。
    それは、彼の生来の気質だと考えられますが、幼少期の生育環境と体験したことなどによるものでしょう。
    目的のために自分が我慢するという選択ができるので、同僚だったセドリック・イーグルにも一種の尊敬の意と感謝の念を持たれています。
    さて、お互いの仕事の領域で再会した二人は、絶滅危惧種の蛍を取材する二週間限定の旅に出ます。
    前作でも、ルフト・シュトラールとセドリック・イーグルが写真集の為の二週間の撮影旅行に往きました。
    自然が相手の旅は、短期間で成果を上げるのは無理です。
    二週間が妥当ですし、二週間あれば、同行者との関係はいかようにも進展します。
    セドリックは、ジャックの身体能力と自然界における経験値の高さに驚き、彼を見直します。
    また、ジャックはセドリックの一種の神秘的な力を知ることになります。
    お互いをよく知るようになった二人は、それぞれの答えを見つけ、お互いに告げます。
    前作から続いた続編の今作を持って、三人の物語は完結します。
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  • 天国はあの青い空の向こう側

    hatuka/ayapii

    サクラのように短くも美しい記憶を残し
    ネタバレ
    2026年4月12日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 主人公のセドリック・イーグルは、その名の通りに鷲(ワシ)のように勇猛果敢で、観察眼に優れています。
    物事を楽観的に見るのは、家族環境に左右されずに最善の道を選ぶことを優先してきたからでしょう。
    心身ともに健康な生活を送りたいのならば、自分も人も心地よい落としどころを常に選択するだけです。
    そのようにして、今だけを生きてきたセドリックに転機が訪れます。
    ある日、一目で心を奪われた写真家のルフト・シュトラールに出逢ってしまったのです。
    アルビノの人を今までに見たことがなかったので、ルフトの外見だけを見て、髪を脱色して薄紫色のカラーコンタクトを入れている奇矯な人だと思ったのです。
    けれども、お互いを知るうちに、セドリックはルフトに、自分の将来のことについて思い巡らしてみるように言われます。
    そして、セドリックは写真撮影の技術をルフトから教わります。
    適性も合ったのでしょうけれど、セドリックは瞬く間に写真撮影の為の様々な技術を覚えていきます。
    写真集を作るために必要な撮影旅行の二週間の期間に、師弟の時間や友人の時間を共に過ごします。
    けれども、一番欲しかったのは、恋人の時間でした。
    キリスト教では、人は死後に天国で最愛の家族や友人や愛する人に再び出会い、もう二度と離れることはないと言われています。
    でも、誰もそれが真実だと証明してくれたことがないのです。
    それでも、誰もが、愛する人を失ったならば、⦅あの青い空の向こう側にある天国⦆で何時か会う日が来るまで、悲しくて寂しくて胸が張り裂けそうなほど辛いけれど、残りの時間を精一杯生きるしかないと思うのでしょう。
    セドリックとルフトは、お互いにとても大事なものを遣り取りします。
    セドリックはこれから生きていくための指針をルフトから譲り受けました。
    ルフトは人を愛するということはどういうことか、人に愛されるということはどういうことかを知ります。
    いいね
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  • 生活部へようこそ!【特別版】

    花川戸菖蒲/梨とりこ

    生活部の部員も登場。美男子の手の内に。
    ネタバレ
    2026年4月10日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 余りにも単純な姓名の主人公の山田健太です。
    姓が「山田」というありふれたものなので、ご両親には彼にもっと似合いの名前を付けてあげて欲しかったと思うばかりです。
    高校生になってもかなり可愛いので、生まれた時は相当可愛らしかったはずです。
    見た感じでは、「健太」は彼には元気過ぎる名前で、いささか名前負けしている感があります。
    それはさておき、彼の様子から想像するに、小中時代に幼馴染みや友達がいないというのは全くもって信じられません。
    それでも、志望校を決めて猛勉強した甲斐あって希望した高校に入れたので、秘めた能力を持っているということでしょう。
    そして、運よく生徒会の副会長、楠木に「生活部」に入部するよう誘って貰えたので、運命の人に出逢うことができました。
    彼の名は白鳥史哉(ふみや)。健太が今までに会った中で一番の美男子でした。
    白鳥は、初めての出逢いの時から、健太に様々なことを教えて導いてくれます。
    健太は元々が素直なので、教えられることを驚くべき早さで吸収していきます。
    夏休みが終わる頃には身体も大きくなり精神的にも一回り大きくなったようです。
    白鳥は、過去には付き合っている彼がいたかもしれませんが、ちょうど誰とも付き合っていなかったのは幸いでした。
    また、白鳥は、顔には出していませんが、最初の出逢いの時から健太に好意を持ったようです。
    そういうわけで、純粋無垢な可愛い男の子を自分好みに育てていく楽しさを味わったように見受けられます。
    健太も潜在的に男の人に惹かれるたちだったようなので、白鳥は、かなりほくそ笑んだことでしょう。
    付き合っていくうちには色々なことが起こりますが、それも、二人の絆を深めるうえで必要なことです。
    まだ、16歳、17歳で青春真っただ中なので、これからも末永く付き合う為にはお互いをもっとよく知る必要があります。
    人が一生の内で最も輝いて美しい時に、お互いを知れて佳かった白鳥史哉と山田健太でした。
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  • 飼い犬に手を咬まれるな【SS付き電子限定版】

    夏乃穂足/笠井あゆみ

    笠井あゆみ先生の表紙絵とイラストが美麗
    ネタバレ
    2026年4月8日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 主人公の四之宮一稀(いつき)と弟の二佳(にか)は、創業者一族の御曹司として、希望というよりも呪いような名を付けられています。
    父の名は響介(きょうすけ)という親の願いが込められた素的な名前なのに、なぜ自分の子供達に(一)と(二)という絶対的な数字を付けたのでしょう?
    その所為で、一毅は自分自身を檻の中に閉じ込めてしまったような生き方しかできないのです。
    そして、自分で自分を愛することもできない歪(いびつ)な人間に成長しています。
    また、思春期に出逢った荒原猛(たけし)も父親の歪な願いによって生を受けていました。
    さらに、猛は、父の愛情を受けるどころか、母と義父のしつけによって心身の発達を阻害されていました。
    それなのに、猛の父は、猛を一毅の役に立つように育てたと豪語するのです。
    物語の冒頭から得体の知れない恐怖に襲われてしまいました。
    どうやらこの物語はただならぬ方向に向かって走り出すのではないかという予感に怯えつつ読み進まざるを得ないのです。
    主人公に魅力を感じられないという経験を久しぶりにしてしまいました。
    むしろ、荒原猛という荒ぶる姓名を付けられた人物の方がよっぽど人間味があります。
    一毅は最初から猛を犬扱いしています。
    猛は犬として飼い主の一毅を信頼し愛情を持って仕えています。
    それなのに、一毅に捨てられてしまったので、ただの捨て犬になりました。
    ですから、もう飼い犬ではありませんから、飼い主の手を咬むことはありません。
    「調教不全」とか「飼い犬の嚙み癖は矯正できるか」という目次はまるで当てはまりません。
    人間を犬として飼うという物語は面白半分で読めるものではありません。
    現実の「犬」に対しても失礼な話です。
    この物語は、本当は最初から練り直した方が良かったと思われます。
    発行されて直ぐに一度読んでいましたが、あらかたの内容を忘れていました。
    それで、今回電子書籍を購入して再読しました。
    改めてもう一度封印することにします。
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  • 恋は引く手に好手あり

    和泉桂/梨とりこ

    梨とりこ先生の恰好いい絵には桜が爛漫
    ネタバレ
    2026年4月7日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 何度目かに読み終わって、改めて表紙絵を眺めています。
    物語の中に二人で桜を見た描写が果たしてあったかと思い出しているのですが、なかったような気がします。
    そういえば、この桜は、ボーイズラブの表紙絵を美しく彩る主人公達のイメージフラワーとして描かれている花だということに気が付きました。
    真中昴が須原将馬のある言葉で彼を拒絶して距離を置くようになっていたので、確かに二人の間には長い冬があったのだということがわかります。
    それが、久しぶりに会ったにもかかわらず、将馬はまるで昨日も会っていたかのように昴に対して自然な親しい態度を示します。
    親しいどころかとんでもないスキンシップをしてくるのですが、昴は割と平然としています。
    そういうわけで、将馬はゆっくりと図に乗ってくるのですが、昴はそれを拒否しないので、昴も同じような気持ちでいることがわかってしまいます。
    まさに春が近づき桜の蕾がゆっくりと膨らみ始めたのです。
    実に真中家も須原家もどちらも美人薄命な家のようです。
    登場人物達は、小学生の女の子と幼稚園の保護者の女性以外は、ほぼ男で占められています。
    ですから、女性抜きで話しが進んでいくのももっともな感じがします。
    物語の始まりに近い部分で、主人公の真中昴も読者も、須原将馬と五歳児の春馬は親子のようだけれど、なぜ春馬は将馬を「将馬くん」と呼んでいるのだろうかと興味津々なのです。
    誰からも二人の関係性を知らされないので、勝手に想像するのですが、頭の中では疑問が渦巻いています。
    その疑問は、物語の終わりごろになってようやく事実を知らされて解決します。
    痒い所に中々手が届かない物語なのですが、二人が相思相愛だったのであれば、なるようになったのだということでしょう。
    昴を散々な目に遭わせた酷すぎる先輩はそのうちに必ず報いを受けると思います。
    けれども、彼のせいで昴が実家に帰って生活したからこそ二人に春がきたので、微妙な感じです。
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  • 君は明るい星みたいに

    ひのもとうみ/梨とりこ

    梨とりこ先生の表紙絵は満月のように明るい
    ネタバレ
    2026年4月4日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 梨とりこ先生の表紙絵に惹かれて、発売と同時に読んだことがあります。
    既に手元にないので、電子書籍で久しぶりに読んでみました。
    一度目は登場人物達の言葉遣いに違和感を感じながらも、先が気になるので、艶っぽい箇所は全て飛ばして最後まで読みました。
    今、二度目にじっくりと読みこもうとしたところですが、二頁目にきて、違和感の存在がどこにあったのか判りました。
    主人公の鈴見和斗が、同じ新入社員である自分よりも年上の拝川晃嗣に対して掛けた言葉が余りにも考えなしだからです。
    「拝川さん、そんな隅っこいないで、こっち来いよ」は、礼儀に反しています。
    社会人であるにも係わらず、初めて顔を合した人に、まるで友人に対するような言葉を投げ掛けています。
    その和斗の言葉に対する晃嗣の返事は「いや、俺はいい」です。
    社会人は、自分のことを「俺」とは言いません。
    公的には「私」で、この場合でしたら「僕」を遣う方が無難でしょう。
    また、晃嗣は、他の新入社員に対しての言葉に「お前ら」という言葉を遣っています。
    話す言葉自体も、和斗にまるで合わせたかのようにぶっきらぼうで、晃嗣という主要登場人物の人物像を物語の最初からまるで描くことができません。
    物語の冒頭から読者を途方に暮れさしてはいけません。
    実に、主要登場人物達に魅力を感じられなくなってしまったので、二度目に読むのを止めました。
    作者も担当者もこんな大事なことにどうして気が付かなかったのでしょう?
    物語の筋立ても大事ですが、人物像に綺麗に肉付けをしてから物語を創りあげてください。
    作者は自分の創りあげたものを肯定的に見がちです。
    担当者は作り手側の目線ではなく、読者目線で、色々なことを俯瞰して見てください。
    折角、梨とりこ先生という素的な先生が表紙絵やイラストを描いてくださったのですから、それに相応しいものに仕上げてください。
    そして、作家は、何よりも言葉を大事に扱ってください。
    よろしくお願いします。
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  • 主治医の采配

    水無月さらら/小山田あみ

    生への希求は、愛ある性への希求でもある
    ネタバレ
    2026年1月30日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 夏目礼一郎は、父母や両祖父母などに慈しまれて育てられた記憶がないように思えます。
    国際結婚が破綻してしまった両親は、礼一郎に継続的にも折々にでも愛情を見せることがなかったのでしょう。
    そのようにして育った人は人として些か歪になります。
    礼一郎は知性が人より優れていましたが、愛されたことがないので、人を愛することができません。
    交際の後に結婚した妻は、恋愛経験が少なく、礼一郎と似たり寄ったりなので、お互いに人生のお手本をなぞるようにに結婚したようなものだと思われます。
    妻の麻衣子は、肝心なところで、間違った言葉を言ってしまって、礼一郎は生きる気力を失っていきます。
    また、希死念慮がある人の見舞いに果物ナイフを持参するという配慮のなさにはあきれてしまいます。
    本当に相手を思っているのなら言ってはいけない言葉やしてはいけないことがあるということがまるで解っていません。
    礼一郎の人生からは早々に遠ざかって貰いたい人なので、主治医である上條晴隆の最初の采配で二人の離婚を奨めたのは良かったでしょう。
    精神科医の松本優子と彼女の夫である整形外科医の松本も、礼一郎を見誤ってしまって、もう少しで礼一郎が窓から跳び下りてしまうところでした。
    医者は完全ではないということが良く判るのですが、患者は医者だけが頼りなので、技術だけでなく人間性も磨いてもらいたいと思うのです。
    上条は、高校の同級生だった礼一郎を理解しようと努力します。自分が思っていた彼と今までの彼と今の彼と、彼の本質と彼の望みを思い遣ろうとします。
    見舞いには不向きな鉢植えの花を置いていきますが、それは未だ莟で開いていないからこそ持って行ったのでしょう。
    毎日水をやり、花が開くのを待つ日々と、開いた花を見るほのかな喜び。
    様々な人々から受けた辛い仕打ちや屈辱と決別して、再生した礼一郎はしなやかで強靭です。
    愛する人から愛されて、漸く自分の人生を手に入れます。
    そして、自分と同じように苦しんでいる人の助けとなることを決意します。
  • 海賊上がりの身代わり王女

    水無月さらら/サマミヤアカザ

    白い衣装に身を包んだ主人公達が美しい
    ネタバレ
    2026年1月28日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 漫画でも小説でも、最初に目を惹かれて読もうと思うのは、表紙が自分の美意識に合っているからです。
    人それぞれ美的感覚は違っています。
    当に十人十色なのですが、この小説のサマミヤアカザ先生の表紙絵は、十人が十人とも美しいと感じるでしょう。
    物語の冒頭からして、悲惨な場面は出てきません。
    寧ろ、海賊たちに温情と恩赦を掛けて、今後の居場所まで気遣ってやるという優しい海軍将校や近衛隊特別護衛官長です。
    実は、ある目的があってこのルシファーと呼ばれる少年を頭とする海賊を解体させてしまったのです。
    海賊をしていた若者たちも、仕方なく海賊稼業をしていたので、合法的な仕事に就けるのは願ったりだったでしょう。
    海軍なので、生命に係わる仕事ではあるのですが、海賊と比べると雲泥の差です。
    さて、ルシファーと呼ばれていた主人公は、本当の名前のデイヴィッドで呼んで貰えることになりました。
    今までは、美し過ぎることが不幸をもたらしていました。
    けれども、ローレンスに出逢ってからは、様々なことが好転していきます。
    二人とも一目で恋に落ちてしまったらしいので、後はそれをそれぞれの心の中で大切に育てていくのを待つだけです。
    現代では、十代は未成年として考えていますが、この物語の中でもやはり未成年ではあるのでしょう。
    数々の試練の後に、デイヴィッドは、失ってしまった少年時代を経験していきます。
    そして、恋しい人が心の中に何時もいて、離れている間もお互いを思う幸せを感じます。
    ローレンスにとっても同様です。
    この世で一番愛しいと思える人と出逢い、守り、慈しんで終生を共にしたいと願う。これ以上の幸せがあるでしょうか。
    自分で自分の身代わりをしたデイヴィッドですが、少年の姿のままで現れて、人々にローレンスの愛する人と思って貰っても構わないのでは?
    寧ろその方が、多くの娘たちには諦めがつくと思います。
    デイヴィッドが綺麗だからローレンスに愛されるのではなく、デイヴィッドだから愛されるということに、究極の真実があるからです。
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  • 愛だ恋だと騒ぐなよ

    久我有加/七瀬

    愛だ恋だと騒いでいるのは誰?
    ネタバレ
    2026年1月25日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 表紙絵では、題字の『愛だ恋だと騒ぐなよ』が手を変え品を変え繰り返し出てきます。
    この言葉は、堂松祐(どうまつたすく)が町央太(まちおうた)に言っているのだと思われます。
    実際に、町は映像で見た祐に好意を持ち、仕事と仕事抜きでの私的付き合いを重ねるに連れてその思いは恋に変わっていきます。
    祐自身も町との付き合いが度重なるに連れ、余りの居心地の良さに自分の今いる場所が他の人に取って代わられてしまうこともありうるのだと気付きます。
    その相手が若く美しい才能ある女性だということに嫉妬してしまうのですが、その時点で自分も町を恋しているということに、未だ気付いていないのが可愛らしいです。
    まさかの同性相手の恋愛に嵌ってしまう羽目になるとは。
    でも、自覚してからの祐は潔くて恰好いいのです。
    お互いにこれ以上はないというぐらい理想の相手に出逢ってしまえば、性別など些かの支障にもなりません。
    寧ろ公私共に高め合える得難い友人兼伴侶を得て、益々仕事に身が入るというものです。
    これは、一度目に読む面白さと二度目に読む楽しさとを味わえて、二度美味しい小説でした。
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  • 纏足探偵 天使は右肩で躍る

    小島環

    右肩の天使は微笑んでくれたでしょうか?
    ネタバレ
    2026年1月21日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 集英社e文庫は、大抵、表紙が購入代金に含まれていません。
    拡大して表紙絵を堪能しようと思ってもできません。
    今作の表紙絵は拡大して見たいと思うような魅力のある絵ではなかったので、幸いでした。
    中華国の物語は血沸き肉躍るものが多いようです。
    血も涙もない非情な物語も多々あります。
    宦官や纏足などはその一端ともいえるものです。
    布で巻かれて靴を履いて隠されていてもその異様さが判るのに、写真で目にする足の形状は余りにも無残で人間の足というよりも偶蹄目などの動物のようです。
    終生痛みに耐えて生きなければならなかった女性たちの苦しみと悲しみは如何ばかりかと思います。
    さて、今作の主人公の趙月華(ちょうげっか)は纏足を施された身分の高い娘です。
    日本でも貴族の娘は家から外に出ることはできなかったようですが、肉体的に出れない状況を強いられていた娘たちが中国にはいたということです。
    月華は生まれながらに聡明だったようですが、外の世界を見ることはできなくても、それを補って余りある洞察力に恵まれていました。
    瑠瑠(ルル)は、月華の眼となり足となることで、様々な人に出会い自分の住む街に馴染んでいきます。
    瑠瑠は、月華に操られるようにしてあちこちに出かけていくのですが、ただの操り人形では月華の手足とはなれません。
    自分自身の頭で考えて行動しないと危険な目にも遭いますし、物事を満足のいく状況に持っていけません。
    つまり月華は、初めて会った時に瑠瑠の頭の良さに気付いたので、瑠瑠を使って探らせることにしたのでしょう。
    身体の継続的な痛みが月華の頭脳と容貌を損なわなかったのは奇蹟とも言えます。
    何故なら、肉体の状態は顔に如実に表れるからです。
    歴史的な探偵物語は読んでいて辛過ぎるので、次作は、明るい話が読んでみたいものです。
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  • 魔王の帰還

    一穂ミチ/嵐山のり

    金色ではないのに金魚と名付けられた魚を
    ネタバレ
    2026年1月19日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 金魚の色は、白、黒、赤、茶、オレンジ等があります。
    中でも、オレンジ色を金色と呼び、孵化した時は黒色だったのが、段々と褪色(たいしょく)して様々な色に変化していくようです。
    夜店や祭の出店の金魚すくいを子どもの頃にしたのか大人になってしたのか記憶は定かではありません。
    幾つになっても、小さな綺麗な魚を掬(すく)うという体験は胸が躍るものでしょう。
    さて、主要登場人物の一人は、野球やサッカー等の運動競技に付き物の暴力や隠蔽や暴露の将に当事者となって辛い体験をしました。
    表沙汰になっていない同様の事件は、枚挙に暇(いとま)がないでしょう。
    また、親が離婚した子ども達の男子は父親に代わる立場の者に暴力を受けて生死が危ぶまれ、女子は、別な意味での暴力を受けて生き地獄を味わうということが数知れず起こっています。
    そして、弱い立場の子ども達が泣き寝入りを強いられています。
    ところが、ここに、泣き寝入りをしなかった心が並外れて強い女子がいます。
    その女子に、男子も男子の姉も自分の道を見つける切っ掛けを貰ったようなものです。
    表紙絵では、後ろで見守っているような潔く強い女子。
    人は人との関わりの中で成長していきます。
    青春期に得難い友に出逢った幸せを嚙み締める男子です。
    また、人は誰しもが明日が見えない中で生きています。
    自分の行動は計画して読めていても、自分の寿命は何時までとは分かっていません。
    万人に共通している当たり前のことを、普段は耳を塞(ふさ)いで聞こえないようにして、目を閉じて視ないようにして、恰(あたか)も不老不死であるかのようにように考えて生きています。
    せめて、自分に係る人達には、お互いに明日をも知れぬ命であるかのように、今日を大事に生きて往きましょう。
    自分にも人にも誠実に生きて往きましょう。
  • 鳥籠

    和泉桂/雪路凹子

    雪路凹子先生の表紙絵に魅入られて
    ネタバレ
    2026年1月18日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 何処にも無い妖しげな表紙絵を見て読み始めたものの、読み進む内に結末を知るのが怖くなり、読むのを止めて此の本をお蔵入りにしておりました。
    けれども、和泉桂先生の作品なので、主人公達を必ず明るい処に導いてくれると思いなおして読んでみました。
    まだ十六歳の盈(みちる)は、些か異常な生母に五歳まで育てられ、其の後も限られた人にだけ接するという過酷な半生を送ってきました。
    誰からも悪意というものを教わらなかったことも幸いして、純粋無垢な魂と心と見目を持つ少年に成長しました。
    本文の序に、たった四行の言葉があるのですが、それが誰のものかが解らないと、此の小説は読み解けません。
    盈(みちる)にとって、凌平は父であり、母であり、兄であり、先生であり、愛おしく思える唯一人の人です。
    鳥籠から出してくれて、世界を見せてくれた人、自分の縁(よすが)となる人なのです。
    凌平は、盈(みちる)を自分の常識と考え方の尺度に充て嵌めて考えてはいけないということをつくづく実感します。
    自分の理想の美の権化のような唯一無二の美少年を手に入れてしまったが故の苦悩。
    それでも、如何にか自ら嵌まり込んだ行き止まり道から戻って来ることができます。
    二人して、初めてのことを沢山見て聴いて味わうのでしょう。
    そして、世界は嘸(さぞ)かし綺麗なものでしょう。
    本書で、久しぶりに辞書片手に読書をしました。
    知らない言葉がまだまだあることに気付かされました。
    和泉桂先生は、博識です。
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  • 小旋風の夢絃

    小島環

    表紙絵は夢絃の持ち主、墳墓の棺に眠る女性
    ネタバレ
    2026年1月14日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 主人公の小旋風(しょうせんぷう)は、その神出鬼没さと鮮やかな立ち廻りから、小旋風(つむじかぜ)と驚異の思いを込めて呼ばれるようになりました。
    彼は、義父から強制されて王侯貴族の墳墓を盗掘し、陪葬品を売り捌(さば)く稼業に従事していました。
    けれども、逃れられない危険極まる稼業の中で、十年近くも生き延びてきたのは、彼の持って生まれた動物並みの勘の良さと経験と技術と体力の所以でしょう。
    最後の盗掘品となった五弦を元手に、己の頭脳とその明晰な頭脳から次々と生み出していく巧みな甘言によって、見事な世渡りをしていきます。
    そして、道連れとなって、危機一髪の時を何度も助けてくれた楽人の涓涓(けんけん)と共に、世の流れを変えて往くような素晴らしい働きをするのです。
    彼は、自分と関わった人や恩ある人を決して見捨てません。
    どうにかして助けようと謀(はかりごと)を巧みに巡らして往きます。
    そういう心映えがあるからこそ、彼に絆(ほだ)されて、彼を手助けしようと画策してくれる人が次々と現れるのでしょう。
    私たちは、登場人物たちがどの様な容貌をしているのかを目で知ることはできません。
    ですから、彼らについて書かれている言葉から、自分で想像しながら読み進めていくしかありません。
    そうして、自分だけの中華国物語絵巻を創る楽しさを心ゆくまで味わうのです。
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  • 墨の香

    梶よう子

    漢字一文字の意味を知りながら読む物語
    ネタバレ
    2026年1月11日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 私たちは、漢字や平仮名がそれぞれ組み合わさって初めて意味を成した言葉になると教えられました。
    学校で『仁』という一文字の漢字の意味を教えられたのかどうか憶えていません。
    そして、『仁』という字の持つ意味を説明できません。
    今回、この物語の主人公の岡島雪江が自身の指南所に来る娘たちに教えているのを読んで初めて知ったような気がします。
    また、筆と墨を使って書く毛筆は、私たちが鉛筆などで書く文字とは書き方が全く違っています。
    手を浮かせて筆で字を書く難しさは、過去に私たちも習っていたので十分過ぎるほど知っています。
    さて、雪江の家族は物語の冒頭から、弟の新之丞や母の吉瀬や名前だけで時々その動向が知らされる隠居した父の采女(うねめ)などが現れます。
    雪江を雪江たらしめている魅力的な人たちです。
    そして、主人公に感情移入しなければ、物語を愉しく読むことができません。
    雪江と共に私たちも悩み、悲しみ、憤る。
    書家になったつもりで、師匠を唸らせるような書を書く。
    暫(しば)し、空想の世界で自分以外の人になってみます。
    実は、雪江の役者のような美男の弟の新之丞は、見事な働きを見せて雪江を何度も助けてくれます。
    また、母の吉瀬は雪江が気付いていないところをそれとなく分からせてくれます。
    出戻ったお蔭で会えた人たちが沢山いて、反対に雪江のお蔭で救われた人もいます。
    人と人の出会いの妙、人と人の縁の不思議さを思います。
    それについては、私たちも現実に感じていることです。
  • 空を駆ける

    梶よう子

    人目を惹く表紙絵は読書の道標
    ネタバレ
    2026年1月9日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 実在の人物を題材に小説を書くという難題を見事に熟(こな)して、全ての登場人物に新しい息吹を吹き込んだ小説がこの本です。
    主人公たちの生涯の年表を基に、それぞれの登場人物たちが生き生きと甦りました。
    私たち自身の現在までの一生でさえ明瞭とは言えないのですから、過去に生きていた人々のある時までの一生はほとんど分かっていないとも言えます。
    ですから、それぞれの人々をどの様に描くかは、小説家の裁量に任されます。
    幼少期から成人していく過程まで、違和感なく主人公を中心とした物語の世界に浸ることができました。
    幕末から明治時代という激動の時代を生きていた人々の暮らしは今の私たちには想像もできない程大変だったでしょう。
    米国の優れた技術と生活様式の中で少女期から生活できたカシは幸せな人生を歩むことができました。
    それは、時代の流れを読んでカシの能力に応じた場所に連れて往ってくれた実父のお蔭でもあるのです。
    私たちは自分の能力や適性に中々気付かないまま成長していくことが多いのです。
    自分でいち早く気付くことができたり、周りの人に見いだして貰えたらどんなに有難いかと思います。
    素晴らしい物語を読んだ読後感は言葉で語り尽くせません。
    人それぞれ感想は違ってくると思いますが、何か目標を持って懸命に努力する人を読む楽しさが読書の醍醐味なのでしょう。
  • ことり屋おけい探鳥双紙

    梶よう子

    大竹彩奈先生の日本画の表紙絵が美しい
    ネタバレ
    2026年1月6日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 歴史小説の表紙絵は、やはり日本画が相応しいでしょう。
    小説の内容が優れて興味深いものだったとしても、表紙絵が読む人の好みでなければ、読書の面白さが半減します。
    現代では、小鳥屋は在るのでしょうか?。半世紀前までは、街角に在りましたが、今ではまず見掛けなくなりました。
    犬や猫よりも世話が大変そうなので、飼う人は少ないと思われます。
    動物園には、中型や大型の鳥はいても、小鳥は少ないように思います。
    鳥の姿を見る機会も減ったので、庭先や野山で見掛けても名前が判りません。
    今作で出てきた鳥の名前と姿を正確に思い描くのは無理です。
    この物語の主人公のおけいは、戯作者、曲亭馬琴の助言を貰いながら、出会った人々に纏(まつ)わる事件の謎解きをします。
    地頭がいいのでしょうけれど、物事をよく見ていますし、疑問に思ったことをそのままにしておきません。
    ですから、出逢った定町廻り(じょうまちまわり)の永瀬八重蔵を程よく助けることができています。
    おけい自身が一番困りごとを抱えているのですが、稼業の飼鳥屋の小鳥たちを世話することに明け暮れているので、そちらの方は眼を塞いで見ていないことにしています。
    しかし、ようやくその問題に片が付くことになります。
    おけいの望むようには解決しませんが、小鳥たちがおけいの慰めとなってくれていることは間違いありません。
    私達は家を一歩出れば、どこかしらで何らかの鳥の鳴き声を聞いています。
    無意識のうちに聞いているのですが、鳥の鳴き声がしなくなった町や世の中はさぞ味気ないことでしょう。
    けれども、わざわざ山林を訪れて聴く鳥たちの鳴き声は、心身を癒してくれます。
  • 風穴屋旋次郎

    友野詳/下村富美

    恰好いい表紙絵を見ると読まずにいられない
    ネタバレ
    2026年1月5日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 「風穴屋」という稼業は、旋次郎以外にはいなかっただろうと思われます。
    江戸では「風」はいささか嫌われものでしたが、困りごとに片を付けてくれる「旋風(つむじかぜ)」のような旋次郎はあちこちで引く手あまただったでしょう。
    幾らで請け負ってくれるのかは詳しくは書かれてはいないのですが、決まった相場はあってないようなものでしょうね。
    「風穴」と聞くと物騒なことも想像してしまうのですが、物語の後半にはやはり出てきます。
    武士の身分を捨てた旋次郎の家業に関わることでもあるからです。
    読み進むにつれて、登場人物が増えてきて話が込み入ってきます。関係性と名前と人物があやふやになってしまいました。
    登場人物相関図が欲しいところです。
    ややこしいところは置いておいて、不死身にも思える旋次郎の活躍を楽しんで読み進めるのがいいのでしょう。
  • 番付屋新次郎世直し綴り

    梶よう子

    粋な表紙絵には惹きつけられてしまう
    ネタバレ
    2026年1月4日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 番付屋新次郎の実家の薬種屋は、数年前に番付を巧みに使った何者かに陥れられて、父と兄はいわれのない罪を負い店は潰れてしまいました。
    新次郎は、その父と兄の無念をいつか晴らしたいと思って、廻り髪結いをしながら番付のねたを探して、仲間と共に番付を出しています。
    偶然にも、実家と同じようにして潰された小間物屋があったことを知ります。
    実家の騒動に関わった者に行き着くことは年数を経てしまった為に難しいかもしれませんが、この小間物屋の一件については、騒動から日も浅いため探し出すことができそうだと後々思われました。
    番付は、多くの人の益になるものであればいいのですが、選ぶ題材によっては少なくない人を窮地に陥れてしまうという些か危ういものです。
    新次郎達が選ぶ題材は、為にこそなれ害となるものでは決してないのですが、他の番付屋はそうではありません。いかにも裏で操作されたような番付を出します。
    新次郎達は、それによって引き起こされた事件を引き合いに、ある藩の者共がなした行いを馬鹿の番付として暴きました。
    町人が武家の行いを揶揄するという痛快なことを、番付を使って成し遂げたのでした。
    何時の日か、実家の事件の詳細と犯人が見つかることも必ずやあるでしょう。
    それまでは、髪結いをして多くの人に喜んで貰いながら、面白いねたを探しましょうか。
  • 色重ね

    剛しいら/高口里純

    高口里純先生の鮮烈な表紙絵に魅かれた
    ネタバレ
    2026年1月3日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 黒崎希星(きせい)は、赤間京司(きょうじ)に「俺に惚れていいぜ」と言っていたのに、京司の為に特別な蔵を作った際に「恥ずかしい話だが、どうやら本気でお前に惚れたみたいだ」と言っています。
    人に惚れることを恥ずかしいと思っている時点で、少々残念な人なのだと思ってしまうのです。
    色々と人格に難ありな人ではあるのですが、自分や相手を弱点という面からみて考察していくのは人との関わりを持つ際には有意義な発想なのでしょう。
    黒崎は京司の類まれな絵の才能に気が付いていて、彼の作品を手にしようと画策していきます。
    その過程で京司の身も心も手に入れてしまうのですが、本人は京司に心を渡そうとはしません。
    それで、京司が精神的に不安になるのです。
    いわゆる「商品に手を出すな」という業界の鉄則が存在していますが、黒崎は当たり前のように「商品に手を出し」全てを自分の思い通りにしようとしています。
    京司にとっては、黒崎は仕事の契約を締結した会社の社長なのですが、ほぼ最初から精神的にも肉体的にも依存しているので、濃密な関係です。
    公私共に離れがたい存在になってしまったので、もう生涯一緒にいるしかないのでしょう。
  • 御用絵師一丸

    あかほり悟/鳥野しの

    絵師一丸(ひとまる)の容貌と異装に興味
    ネタバレ
    2026年1月2日
    このレビューはネタバレを含みます▼ この物語の主人公の絵師一丸(ひとまる)は、武士の身分の時の名は子一郎(こいちろう)だったそうです。
    実の弟の名は上総(かずさ)なので、兄の名前としては些か軽いと思うものの、もはやその名前は広大院(こうだいいん、篤姫の高齢時の別名)だけしか口にしていません。
    武士の身分を捨て町人になった時に、見目形(みめかたち)も変えたようです。
    町人も大人であれば月代(さかやき)を剃り髷(まげ)を町人風に結いますが、一丸は自分の思い通りの姿形を選びます。
    総髪よりも短い髪を括らないでそのままにしています。
    着流しの着物の色柄も彼に似合いの自由闊達さです。白い着物の下半分に描かれた黒い染模様は、もしかすると彼が自分で描いたものかもしれません。絵師なればこそ赦される格好でしょう。
    彼は自由奔放に生きているように見えますが、唯一思い通りにならないことがあります。
    それは絵師としての生業の他に受け継いでいる家業を否が応でも継がなければならないということです。
    歴史上存在していたであろうその家業については、私達はその存在を聞いたことがありますが、どこまで真実なのかは不明です。
    詳しく語ってしまうと、物語を読む楽しさが半減してしまうので、書きません。
    飄々としたように見受けられる彼の苦悩と覚悟についても思いを馳せて読んでください。
  • 双燕の空

    子安秀明/えりちん

    えりちん先生の描く秋太と柳之介に惹かれ
    ネタバレ
    2025年12月31日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 表紙絵の秋太と柳之介の貌はそれぞれ半分と少々しか描かれていません。
    それでも、二人の性格を見事に表しています。
    この表紙絵でなかったら読んでみようとは思いませんでした。
    全てを描かなくても見る者を納得させる絵師えりちん先生の力量に感服しつつ、早三度読みました。
    読む度に新しい発見があるので、子安秀明先生も優れた作家の方なのだと思われます。
    秋太が柔であれば、柳之介は剛と言えるほどに性格や物事に対する見方や考え方が違っていますが、二親がいなくて共に育った孤児なればこそ長い月日を共に過ごして兄弟とも友とも言える間柄になったのでしょう。
    柳之介は生来の鼻が動物並みに利くという特技を持って秋太の困難を嗅ぎつけます。
    また、剣の勘に優れていた為に、剣術道場に幼いころより通っていることもあり、秋太の危機一髪には何度も駆け付けることができます。
    二人は、色々と難しい年頃に様々な困難に遭いますが、周りの人々の助けも得て生を危ぶまれるような危機も乗り越えることができました。
    また、男であるよりも女になりたいと思う美しい少年に出会った秋太と柳之介のそれぞれの少年に対する対応が納得できます。
    江戸時代の江戸は、火事や飢饉や病気や怪我などで誰にとっても死は身近なものだったはずです。
    懸命に生きようとする若い命の物語を読むのは現代の社会に生きる私達にも確かに得るものがあります。
    実在していない登場人物達をあたかも生きているかのように生き生きと描いてくださった作者の子安秀明先生に感謝致します。
  • 終活ファッションショー

    安田依央

    表紙絵の靴の中に好みの靴はありましたか?
    ネタバレ
    2025年12月25日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 終活を考えるのは、やはり六十歳以上の年齢の人でしょう。
    若しくは、不治の病に掛かっている人は年齢に関係なく自分の人生の終わりについて考えを巡らすのは当然です。
    予想がつく死であれば備えはできますが、誰にとっても死は突然にやってくるものです。
    後のことを見てもらう人の為に物を減らすにしても、普通に生活している以上は身の回りの物を減らすのは至難の業です。減らし過ぎると生活の質が落ちてしまうからです
    今作では、高齢女子達の自分の葬式の為の衣服の話からファッションショーにまで話が及んでいきます。
    生きている時もそうですが、この世での最後の衣装を気遣うのは女性ならではの視点でしょう。
    現在では、葬式の最後にお別れの場面があり、参列者は送らなければならない人とお別れの為に顔を合わすからです。
    死者は一方的にその姿形を見られます。例え高齢者であっても少しでも綺麗な姿を人目に曝したいと思うのは人情です。
    そして、自分ではどうにもできないからこそ、前以って近親者に最後の衣装について頼んでおく必要があるのです。
    誰もが慌てて平常心ではいられない葬儀の前に大事なことを思い出して貰う必要があります。死者の最後の願いを叶えて貰う為にも常日頃から繰り返し言っておくのです。
    「最後の願い」は人それぞれ違うでしょう。
    棺の中で着ている衣装などどうでもいいと考える人もいます。
    この小説の主人公は短期間の内に大勢の人々と関わり合うことで、自分が忘れていたことや眼を塞いで見ないようにしていたことなどに気付きます。
    また、主人公のお陰で早逝の最後の日々を有意義に送れた人も、不登校から立ち直れそうな子もいます。
    人と関わるのは面倒ですが、得ることも少なからずあるのです。
    何らかの気付きを得られた人もいます。
    今作は終活をしている人にも、若い人にとっても有意義な物語でした。
  • 御苑筆姫物語

    喜咲冬子/アオジマイコ

    快哉を叫びたい蒼月と叡泉の際どい国難回避
    ネタバレ
    2025年12月24日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 蒼月の亡国の亡父は、「恨みを捨てよ。足を止めるな。」という蒼月が生きていく指針ともなる言葉を遺してくれました。
    また、朱莉は話の流れによっては「殴られる前に殴れ。」と過激なことを言って、蒼月に「それを言うなら、殴られたら殴り返せ、ですよ。」と言わして何度も蒼月を笑わせてくれます。
    元々過酷な運命から逃れて数奇な人生を歩んでいる蒼月ですが、持って生まれた才気と危機一髪の絶体絶命を最善の道を見出していく度胸の良さで皇帝の叡泉を見事に補佐して亡国の危機を逃れることができました。
    あの日あの時あの場所に蒼月がいて一芝居を打たなかったなら、数多の血が流れたのは間違いないのです。
    蒼月が今までに読んだどんな物語よりも胸の空くような実話が展開していたのを多くの人は知らないでしょう。
    蒼月こそが影の立役者だったのでした。
    私達は今までに数え切れないほどの物語を読んできましたが、自分にとって生涯忘れられない程の作品は僅かです。
    多くの作品は暇つぶしに読んだようなもので、物語の成り行きや結末が気に入らないことも多いのです。
    世に名作と言われている作品も時代が違えば価値も変わります。
    人の志向は十人十色なので、それぞれの人がそれぞれの愛読書や名作を持っているのでしょう。
    この小説も人によっては受け取り方が違うでしょう。
    それでいいのです。
    読書は自由で誰憚(はばか)ることなく好きなように読めばいいのです。
  • 死神の絵の具 「僕」が愛した色彩と黒猫の選択

    長谷川馨

    「私」が愛した色彩
    ネタバレ
    2025年10月14日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 筆者の長谷川馨先生は女性の方でしょうか。
    この小説は発想と構想が能く練られているので、興味深く面白く世界観を堪能しました。
    もし、主人公の死神が自分を指す一人称を「僕」ではなく「私」にしていたら、もっと違和感なく愉しめたかと思います。
    成人した青年男性が個人的な会話にしろ公的な会話にしろ「僕」を使うのは不自然です。
    少年であればそれも納得できますが、青年であれば自立していない性格に難がある人物に感じられます。
    実際は違うので、「私」で話す設定にした方が物語に深みが出て陳腐にならなかった筈です。
    女性と違って、男性が使う一人称は「俺」「僕」「私」があります。
    大抵の物語には「俺」が多用されます。「僕」は余りありません。「私」も然程ありません。
    もっと「私」を使って貰いたいと思っています。
    一人称を替えるだけで物語が格段に変容します。
    折角味わい深い素的な物語を考えられたのですから、細部にも注意を払って欲しかったです。
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  • 肌にひそむ熱のありか

    神楽日夏/高宮東

    題名も表紙絵も魅力的過ぎる
    ネタバレ
    2025年10月12日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 以前紙本を購入して読んだことがあります。
    確かに面白かった筈なのになぜか手放してしまって手元にありません。
    内容についても朧気にしか憶えていないので、電子書籍を購入して読んでみました。
    昨年福井県の恐竜博物館を訪れたので、恐竜の骨格について興味がありました。
    表紙絵に描かれているのも本文中に出てくるのも龍であると思われるので、架空の生きものだと考えられています。
    しかし実際に見たことはなくても古今東西の文献などで龍について語られたりあたかも見たかのような絵が描かれているので、実在するものなのでしょう。
    美術の世界では、写実的なものもあれば、創造的なものもあります。
    全てが製作者の意のままですが、批評家や一般大衆など多くの人々によって評価されることによって成り立っている厳しい世界であることに違いありません。
    才能だけで通用するものではないでしょうけれど、努力だけで通用するほど甘い世界でもないのは確かです。
    この小説では、芸術家たちの葛藤に恋愛色が絡まっています。
    彫刻などの造形や絵画などの幾つかの作品が言葉で書かれているので、自分なりの想像力を持って形や絵にしながら読んでいく楽しさを味わいました。
    愛情表現の描写が美しいので、絵で表わされていなくても心の中に思い描くことができます。
    本文中のイラスト画像がないのも、自由裁量ができる楽しさがあっていいのかもしれません。
    また、主人公達の姓名が素的でした。
    佐宗遼河、三嶋倫生(ともき)など人物が目に浮かぶような姓名です。
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  • 風を紡ぐ

    あさのあつこ

    各章の模様の絵図面を観てみたい
    2025年10月12日
    針と剣 縫箔屋事件帖も早第三巻になりました。
    今作では、主人公おちえの好きな花桔梗が表紙絵に描かれています。
    殆どが機械化された現代では、縫箔のような手仕事による衣装や小物は限りなく贅沢品になるでしょう。
    もっとも、江戸時代でも縫箔を施された衣装を身に纏えるのは限られた人々だけでした。
    庶民には高嶺の花どころか一生目にすることも叶わないものでした。
    江戸時代の度重なる大火や江戸時代以降の震災や戦災によって、貴重な衣装の殆どが失われてしまったと思われますが、美術館等に保管展示されて見ることができます。
    第三巻では事件は起こりますが、凄惨な場面がないだけでも少し落ち着いて物語を愉しめます。
    人の巡り合わせの不思議さを感じさせて、物語の流れと終わり方に納得がいきました。
    既に第四巻も発行されているようですので、楽しみです。
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  • 風を結う

    あさのあつこ

    朱に交われば赤くなるという古今東西の真実
    2025年10月11日
    人には友が必要だという考えがあります。
    確かに、お互いに心の支えとなり人として成長できるような関係を築くことができるのならば必要でしょう。
    そういう間柄の友であれば、終生の友として誇れるものでしょう。
    けれども、往々にして複数の人が絡んでくると、それは最早友と呼べるものではなく、大勢の意見に釣られて自分を見失ってしまうことが多々あります。
    そして、大勢で良いことをするのならまだしも、大抵は良くないことをしてしまいがちです。
    何時の時代でもそうやって若い者は身を滅ぼしてしまうことがあり得るのです。
    何故なのでしょう?
    一人ではできないことを数人寄ればできてしまうのは。
    責任の所在が曖昧になったり、気が大きくなるからでしょうか。
    今作でも、一居の観察眼と推理力は冴えていました。
    おちえの勘と虫の知らせにも侮れないものがありました。
    悲しい物語ではあるのですが、若い真っ当な人達を見ていると心が平静になれます。
    何時ものようにおちえと母親の滝の会話に和まされました。
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  • ひとめぼれ王子さま

    柊平ハルモ/駒城ミチヲ

    駒城ミチヲ先生の表紙絵に惹かれました
    ネタバレ
    2025年10月4日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 誰もレヴューをしていなかったのですが、出だしの場面が面白そうだったので読んでみました。
    表紙絵では、主人公達は難しい色の洋服をさらりと着こなしています。
    青系の上衣は色合いの選択を間違ってしまうと野暮ったくなってしまいます。
    それを難なく着ているのは、衣装を纏う人物に魅力と雰囲気があるからでしょう。
    どうやら、初対面でお互いに相手が気になってしまったようですので、その後の展開は推して知るべしなのです。
    二人がどのようにしてお互いの距離を縮めていくのかを楽しく読みました。
    けれども、初めての濡れ場はもっと綺麗にして欲しかったので、そこは少し残念でした。
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  • 帝室宮殿の見習い女官

    小田菜摘

    想像も及ばない帝室宮殿について知れました
    2025年10月4日
    青井秋先生の表紙絵と登場人物紹介のイラストが素的なので、思わず読んでみたくなりました。
    歴史上のことは、諸先生方が平安時代について様々な興味深い物語を書いてくださっているので、大まかなことは知っていました。
    けれども、近世においてはどのような人々が如何なる仕事をしていたのかは、ほとんど知ることはありませんでした。
    今回、小田菜摘先生がこうして波瀾万丈な物語を書いてくださったので、建物や衣装や人々の人となりに思いを巡らせながら愉しく読みました。
    内容について話してしまうと読む楽しみが半減してしまうので、触れないことにします。
    まだ物語は続いて往きそうなので、しばらくの間、この世界観を楽しめそうです。
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  • 風を縫う

    あさのあつこ

    物語自体は悲惨な処は抜きにして興味深い
    ネタバレ
    2025年10月1日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 表紙絵が目に留まらず惹かれなかった所為で今まで読もうと思いませんでした。
    偶々、作者があさのあつこ先生だということに気付いて試し読みをした処興味を持ったので読んでみました。
    主人公の一人、おちえと周囲の人々との会話が面白いので、読み進めるのが楽しかったのですが、おちえが剣術の稽古を始める切っ掛けとなった凄惨な事件を知るにつけ、いささか気分が優れなくなってきました。
    確かに表題が『~事件帖』となっているので、捕り物であることは理解できます。
    それでも、余りにも次々に事件が起こると、話の筋書き上必要なのは納得できても少し手加減できないかと思ってしまうのです。
    刃物等の危険物の取り扱いは厳重注意なのです。
    歴史的に見ても、刃物の存在と発達が私達に利益だけではないものを齎してきました。
    本来は料理に使われるべきものが狩猟などに転用され、果ては戦いの道具になってしまいました。
    武士に二刀は当然のものとされたのですが、持っていれば使いたくなるのは道理でしょう。
    人品卑しい人までもが持つことに誤りがあるのでしょう。
    事件が一つ片が付いたのですが、後味が悪い幕切れで何とも救われない思いがしています。
    こんな終わり方は誰も望んでいなかったでしょう。
    やり場のない憤りをどこに持って往けばいいのか。
    なんかすっきりしません。
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  • 涅槃の月 おんな隠密闇裁き

    浅野里沙子

    実話に近い物語だとすれば武家社会は歪
    2025年9月30日
    表紙絵と試し読みに魅かれて読んでみました。
    余りにも話が入り組んできて、迷路に入り込んだようで話が視えなくなってしまいました。
    結局は、曖昧な処で話が終わってしまって、納得のいかない物語の展開になりました。
    尻切れ蜻蛉のようで、肝心なところが判らないままです。
    いえ、武家社会の人の命を何とも思わぬ非情さがまざまざと知れて怖くなってしまったのです。
    虚しい日々を送った主人公達の数年間は一体何だったのかと思わされました。
    彼らは取り敢えず、手に職は付けたものの、足元から崩れ落ちるような不如意な生き様になってしまったようでした。
    この作品を読むために支払った金額と費やした時間と行き場のない空しい思いを一体どうすればいいのでしょう。
    読書は娯楽の側面があるので、読者の意に添う作品作りをして貰いたいものです。
    充実した読後感のある作品を読みたいと切実に思っています。
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  • 黒竜の王弟殿下は孤独なオメガの王子を寵愛する

    幸崎ぱれす/笠井あゆみ

    笠井あゆみ先生の美少年と美青年、眼福です
    ネタバレ
    2025年9月29日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 近頃、笠井あゆみ先生がイラストを描かれた作品が余り発表されていないので、思わず飛びついてしまいました。
    先生がイラストを担当された作品は、漏れなく好評を博していると思われますので、この小説も多くの人に読まれたでしょう。
    次巻も発行される予定のようですが、もしかすると、ヴァレリー国王の話になるのでしょうか。
    もう、騎士団長のラルフとシオンの話は完成した感があるので、恐らくそうだと思います。
    それにしても、シオンは、六歳からの十年間、粗食と話す相手もいない生活を続けてきたのに、よくぞ精神疾患や病気にもならずに堪えてきたと思いました。
    私達がその様な目に遭わされたなら、平静ではいられずに心を病んでしまったことでしょう。
    本だけが友だったようですが、本があったから心を保てたと言えるのかもしれません。
    例え話すことはなくても、本を読んで色々と考えることで心が豊かになったのです。
    シオンにとって、ラルフは父でもあり、母でもあり、兄でもあり、友でもあり、心から愛する人でもあります。
    普通の人であれば到底耐えられなかったことを泣き言を言わずに堪えてきたから、素晴らしい人に出会えたのでしょう。
    これからは失った日々を補う程に幸せな日々を送るのでしょうね。
  • しなやかに愛を誓え

    今城けい/コウキ。

    気高さを持った野良猫に惹かれたキャリア
    2025年9月27日
    主人公の小塚利翔(こづかりしょう)を二年前に公園で見掛けた佐光匡英(さこうまさひで)でした。
    恐らくその時にも利翔のことは鮮烈な印象に残ったのでしょうけれど、その後に続いた出来事によって、彼の存在は深く心に刻まれることになったのでしょう。
    本文中に書かれてはいませんが、この二年間の間に、恐らく空き時間には自分自身で利翔の動向を探り、時間の余裕がない時には人を使って利翔の日常を把握していたのでしょう。
    そうでなければ、どうして、利翔が困った状況に陥った処に上手く出くわすことができたのでしょう?
    偶然とか縁があったとかいうものではないです。
    例え利翔の生活範囲が新宿に限られていたとしても、偶然に出逢うことはほぼ考えられません。
    実際に、現場で利翔が二人にやられているのを近くで視ていたのです。
    そうして、利翔がどのように立ち回るか観察していたのでしょう。
    その後、利翔の懐に入り込んで上手く懐くように仕向けて行ったのです。
    利翔の生い立ちを見れば解りますが、彼にとって女性は利用はしても恋愛の対象には少しもなっていません。
    身近に男性の手本となるような父親や教師等が居なかった為か見た目も中身も優れた男性に対する憧れを人一倍持っています。
    それで、初めて出会って突然に身近な存在になった佐光に惹かれることになったのでしょう。
    仕事の面では非常に習うべきことが多い佐光ですが、反面日常生活は維持管理能力が欠損しているのも愛嬌があっていいのかもしれません。
    寧ろ、日常生活は利翔の方が色々と秀でています。
    利翔は、これから様々なことを学んで魅力のある出来る男になっていくのでしょう。
    佐光にとっても利翔は育て甲斐がある漢だと思います。
    今後公私ともに離れがたい存在になっていくのだろうと思われます。
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  • 永遠を生きる皇帝の専属絵師になりました

    蒼山螢

    摩訶不思議な設定を楽しみましょう
    ネタバレ
    2025年9月26日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 例によって、アオジマイコ先生の雰囲気のある表紙絵に釣られて読んでみました。
    そして、蒼山先生の話の巧みさで、また泣かされてしまいました。
    先生の話は男女間でも恋愛色が薄くて、会話の面白さについ惹き込まれてしまいます。
    まるで友人同士の会話のようで、読むのが楽しくなるのです。
    また、男同士でもはっきりとした友情を感じさせて、恋愛めいた感情を少しも感じさせません。
    純粋に人と人のお互いを想い合う心が感じられるので、清々しい気持ちになります。
    話の筋について言及してしまうと、読書の楽しみが半減してしまうので、内容については何も触れません。
    けれども、『皇帝である圭鳳の寵愛は深く』という部分について期待してしまうと、期待外れになってしまうかと思います。
    どちらかというと絵師としての存在意義の方がこの話では重要になります。
    騙されたと思って読んでみてください。頁を捲る手が止まらなくなり、あっという間に物語の世界に嵌まり込んでいき、登場人物達と共に笑い泣きます。
    読み終えた後も、物語の中に浸り、これで完結しているのに続きが読みたくなってしまいます。
    主人公を男に替えて新しい話が始まるのもいいかもしれません。
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  • 性悪人誑しに男前わんこが溺れています【特別版】

    今城けい/兼守美行

    前作で千林に抱いていたイメージが変容
    ネタバレ
    2025年9月25日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 今作は『草食むイキモノ肉喰うケモノ』のスピンオフ作品です。
    前作では梨とりこ先生がイラストを担当されていましたが、今作では兼守美行先生に替わりました。
    それ故に、前作で千林に抱いていた人物像は、今作で新たな側面が視えてきてかなり変容しました。
    イラストレーターが替わるということは、読み手に取って大事件です。
    前作で抱いていた特定の人物に対するイメージを無理にでも変容させなければならなくなるからです。
    結局のところ、最後まで千林に共感することなく読み終えてしまいました。
    彼が思春期迄抱いていた死生観と人生観は病気の為と納得できますが、その後の後半生が酷過ぎませんか?
    折角付き合った恋人を大切にしてあげなかったばかりに後々彼に酷い目に遭わされそうになるのですから、自業自得です。
    そして、自分を護ろうとしてくれた想い人を怪我させてしまうのです。
    一歩間違えば想い人を失ってしまうところでした。
    少しも共感できなかったので、二度三度読んで深読みするのは諦めました。
    もし、梨とりこ先生がイラストを担当されていたらどの様な作品になっていたのかと少し心残りです。
    できたら、スピンオフ作品は前作と同じイラストレーターにして欲しいものです。
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  • 忌み子の姫は夜明けを請う 四ツ国黎明譚

    実緒屋おみ

    みおやおみ先生、回文好きですね
    ネタバレ
    2025年8月16日
    このレビューはネタバレを含みます▼ アオジマイコ先生の表紙絵を見た瞬間に読みたくなって、無料立ち読みを読んで、書店で購入しました。
    既に何度か読み返していますが、その度に泣かされています。
    終章の最後に【完】と明記しているので、続編は無いのでしょう。
    何時か、数え切れないほどの読者から乞われて続編を書いてくださることを夢見ています。
    ゲームをしたことがないのですが、ゲームをしたことがある人は続きを読みたくなる筈だと思います。
    主人公を替えて、全く新しい話が始まるのを読んでみたいものです。
    この本は、本だけが友だった主人公の俊耿(しゅんこう)が、久々に話した子どもの暁華(ぎょうか)から心に燈火のようなものを貰ったことから話は始まります。
  • 地獄くらやみ花もなき

    路生よる

    アオジマイコ先生の表紙絵で心臓を鷲掴みに
    ネタバレ
    2025年7月10日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 壱から捌迄のどの表紙絵も妖艶で奇怪で、恐いもの見たさで頁を捲ってみたくなって困ります。
    西條皓(しろし)と紅子(べにこ)は罪を犯したことが未だない人かもしれませんが、登場人物の誰もが大なり小なり何らかの罪を犯しています。
    遠野青児(とおのせいじ)も何か罪を犯しているようですが、彼は罪を犯した人が其の罪に相応しい化け物の姿となって見えます。
    已むに已まれぬ罪というのはあるのかもしれませんが、此の小説に出てくる罪人たちはそうではありません。犯さなくて済んだはずなのに、態々罪を犯してしまっているように見受けられます。
    現実の世でも、他の道を選択することができた筈なのに、最も最悪な選択をする人が如何に多いことかと誰しもが感じています。
    人というものは斯様に愚かなものでしょうか?一生を掛けて己の精神性を高め人間性を高めるのが本来の人としての生き方です。
    愚か者の為したことを反面教師とすればいいのでしょうか?人はともすれば楽な道を歩もうとします。楽な道は善き道かということを常々考えるべきなのでしょう。
    西條皓と遠野青児が共に歩んだ道は如何なる道か、怖いもの見たさで寄ってらっしゃい見てらっしゃい。
  • 牡丹と獅子 双雄、幻異に遭う

    翁まひろ/カズキヨネ

    カズキヨネ先生の美麗な表紙絵に惹かれて
    ネタバレ
    2025年7月10日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 漫画も小説も、表紙はとても大事なものです。読者は、表紙を一瞬のうちに見て取り、読むか読まないかを決めます。偶に漫画の表紙と中身の絵が違って感じることがありますが、取り敢えず、手に取って貰えたらこっちのものというのが出版関係者の偽ざる処でしょう。されば、中身以上に表の顔である表紙には力を注ぐ必要があります。そういう訳で、この小説は、中身が面白いので、表紙にはカズキヨネ先生を起用したのでしょう。今のところ、レビューしている人はいませんが、それなりに売れた本だと考えられます。
    さて、表題の〖牡丹と獅子〗は、見ての通り主人公の道士の丁洛宝(ていらくほう)と便利屋の劉英傑(りゅうえいけつ)を表わしています。女かと見紛うばかりな美男子の洛宝と美丈夫な英傑を対で売り出すための謳い文句が〖牡丹と獅子〗という訳です。英傑の雇い主である蔡紅倫(さいこうりん)がこれ以上はないというぐらいに最適な字(あざな)を当てました。
    論より証拠なので、無料立ち読みを読んで興味を惹かれたら読んでみてください。
    主人公達がお互いを得難い終生の友と思うようになるいきさつを見事に描いてくれています。
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  • 琥珀の瞳は瑠璃を映す

    結城かおる

    表紙絵に惹かれたのは六七質先生の絵だから
    ネタバレ
    2025年7月9日
    このレビューはネタバレを含みます▼ どうにもこうにも表紙絵が気になって、無料立ち読みを読んで購入して読んでみました。
    読み終わった後で、表紙絵を描かれたのが六七質先生だと知りました。道理で読みたくなってしまう筈です。最近、先生の表紙絵にお目に掛かってないので、漸く会えたという思いです。
    さて、結城かおる先生の小説自体も心惹かれるものでしたが、矢張り幾ら面白い本であっても、読者が興味を持ってくれなければ読んで貰うまでに至りません。そういう意味では、表紙絵は読書の切っ掛けになるとても大事なものです。書店の店頭で、或いは電子書籍で、この本の表紙を見て購入を決めた人が多かったと思われます。
    私はゲームをしたことが無いのですが、ゲームをしている人にはこの小説の設定や話の流れは心躍るものだと思います。
    王子の身分を剝奪された従神者のルスランが、神獣である竜のアルダーヴァルと共に諸国を放浪して、数多の困難を乗り越えて心身共に成長していく物語です。
    百聞は一見に如かずなので、ルスランとアルダーヴァルの物語の続きを知りたければ、どうぞ手にして物語の世界観を堪能してください。物語の後半には、とても深い内容が詰め込まれています。
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  • 草食むイキモノ 肉喰うケモノ【特別版】

    今城けい/梨とりこ

    梨とりこ先生の表紙絵に一目惚れ
    ネタバレ
    2025年7月7日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 表紙では、主人公の一人、牧野幸弥と、もう一人の主人公、関目将之の人物像を梨とりこ先生が的確に表現しています。性格からお互いを思いやる心までもが表情やしぐさに見事に表されています。彼らの後ろにいる千林は、二人の気持ちに気付いているので、陰になり日向になり二人の関係がうまく進んでいくように援助してくれます。
    二人の初めての出会いは、入社式ですが、困っていた牧野を関目がかばって助けてくれます。この時に、牧野の心の片隅にひっそりと関目への思いが燈ったのかもしれません。
    そして、五年もの長い月日を経て、その思いが心の中でゆっくりと育ってきたのでしょう。言葉で表せないほどの思いを何と名付けてよいのか牧野はわかりません。唯の信頼できる先輩というだけではないのですが、彼の存在のお蔭で牧野の日々は多少の不快な出来事をも相殺できる程になっています。
    牧野を不快にさせた上司ですが、彼の存在の所為で牧野と関目が親密になることになったので、二度と思い出したくない人ではあるのでしょうけれど、関目にとっては牧野との関係性が変わる切っ掛けを作ってくれた人物ではあるのです。
    十五歳の時、一度に家族を失って、誰とも親密な関係を築くことができなかった牧野にとって、関目との日々は何にも代えがたい大切なものだったでしょう。心が通じ合ってしまえば、彼に対する溢れる程の思いは身も心も蕩けさすほどのものになります。
    唯一つ残念なのが、牧野が自分を指す一人称が「俺」であることです。彼の人物像に相応しい一人称は、私的には「僕」で、公的には「私」です。ボーイズラブ小説では、「俺」を当然のように使いますが、それぞれの人物によって使い分けて欲しいものです。終始違和感を感じながら読み進めました。それさえなければ、この小説は完璧でした。
  • シャーク、シャーク、シャーク! 【イラスト付】

    吉沢純/湖水きよ

    湖水きよ先生の衝撃的な表紙絵に一目で虜に
    ネタバレ
    2025年6月24日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 十年近く前に読んで気に入ったこの小説の内容を忘れてしまっていたので、もう一度読んでみました。
    高速道路の工事現場で作業員が事故に遭う話は時たま耳にします。けれども、結果は重大なことが多いのに、今作の鮫島は左手の骨折だけで済みます。強運の持ち主というか、咄嗟の時の危機回避能力が高すぎるというか、鮫島という姓に相応しい男です。
    肉体労働をしている人は喫煙率と飲酒率が高いように思います。喫煙と飲酒以外は話の内容が面白くて楽しめました。
    主人公の秋山がいささか雰囲気に流されやすいところは否めませんが、鮫島に対しては以前から男として憧れるような思いを持っていたので、すんなりと親密な関係に嵌って行ったのでしょう。
    全ては唇から始まりますから、そこを赦してしまった時点でもう全てを赦しているも同然なのに、それに気が付いていない秋山が可愛いです。
    鮫島は不意を突いて急襲して、じわじわと秋山の懐に入り込んでいく策士です。男から突然好意を告げられるという、あり得ないことがあり得て戸惑う秋山は、青天の霹靂のように恋に落ちてしまったようです。
    何度読み返しても楽しい話なので、愛読書になりそうです。
  • 後宮の宝石案内人

    蒼山螢

    性別を問わず魅了する装身具、宝石然り
    ネタバレ
    2025年6月23日
    このレビューはネタバレを含みます▼ アオジマイコ先生の表紙絵を見た瞬間に物語を読んでみたくなりました。
    やはり国に皇帝という存在があり、皇子が複数人存在すると、跡目争いは起きるものです。
    後宮にも、無駄に数多くの妃が存在しています。血筋を重要視するとそういう選択になるのでしょう。
    衣服は私達の身を守り彩るものです。自分がどういう人間であるかを端的に表すものです。それと共に装身具によっても自分の付加価値を高めることができます。
    古より、権力者や裕福な者はその身を美しい稀少な宝石で飾り立てました。
    私達は、高価な宝石類には手が届かなくても手頃な価格の宝石を手にすることができる時代に生きています。
    この物語に出てくる晶華が苛酷な幼少期を生き抜いてきた人生訓には驚かされるのですが、晧月との間に芽生える友情も楽しんで読み進めることができます。
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