オーセンティックプルーフ
」のレビュー

オーセンティックプルーフ

谷崎泉/笠井あゆみ

桃源郷を思わせるような表紙が暗示

ネタバレ
2023年5月7日
このレビューはネタバレを含みます▼ 音喜多は卓越した美貌と頭脳を持って生まれたが、肉親の情には恵まれなかった。それを己の才覚と努力で唯一無二の人生を歩み、社会的に成功している。
思春期に命にかかわる目に遭い、その立ち直りからの手助けとなった思い人を悲惨な事件で失くしている。彼の報われることのなかった思いは、その後の恋愛遍歴にも如実に表れている。
しかし、思い人に瓜二つの久嶋に出会い、彼を恋し深くかかわる日々は音喜多をゆっくりではあるが確実に変化させていく。音喜多は人を愛することがどういうことなのかを知る。
また、久嶋も天与の才に恵まれていたものの、肉親の縁が薄く、幼少期に両親を事故で失くし、養父母に引き取られてアメリカで暮らすも、彼らも事件によって久嶋から奪われてしまう。久嶋は元々の資質はあったかもしれないが、この二度の喪失経験によって人の心の機微が読めなくなったと考えられる。そのうえ、仕事の際に心身ともにかなりの痛手を負ってしまったことで、彼の人格に欠損する部分が追加されたようだ。
けれども、音喜多に出会って彼から執拗な愛着を見せられて、久嶋の心もゆっくりと変わり始める。
久嶋の異常なほどの甘味依存は、満たされない心身を埋めるための代替行為なので、音喜多の愛情で満たされて、適量をゆっくりと味わって食べることができるようになるに違いない。
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