ひとつしかないもの
」のレビュー

ひとつしかないもの

櫻井ナナコ/佐々木みお

自分に価値を見出せない大学生の再生物語

ネタバレ
2023年5月7日
このレビューはネタバレを含みます▼ 内向的な晴陽は、明るく甘ったれな双子の弟•楓月にコンプレックスを抱いています。高校も大学も同じで常に周囲から比較されダメを出されてきた晴陽は、1年前から2丁目に行き色んな相手にカヅキと名乗り抱かれるようになりました。お金を貰って見知らぬ相手に弟の名で抱かれることで憎い楓月と楓月を憎む自分とを汚し損ない自分を保っていたのです。そんな晴陽が爽やかな好青年と知り合います。28歳の橘正博は20歳の晴陽に友達になろうと言ってこまめに連絡をよこすようになります。手を出してくる訳でも無く一緒にご飯を食べたり取り止めのない話をしたりする関係が、友達のいない晴陽には落ち着かず、悪い評判の男に誘われるままに着いて行き手酷い扱いを受けてしまいます。痛くて苦しいのが自分には相応しいと自嘲する晴陽を、正博は駆け回って探してくれ、優しく毅然と手当てしてくれるのでした。すぐそばにいる強烈な存在のせいで相手を通してしか自分を見られなかった晴陽が、決して見返りを求めない正博の存在で変わってゆきます。本来一つしかない場所に双子は二人でいる、その微妙な位置関係と陽と月という二人の名前が象徴的です。正博の大人な優しさがしみじみと良きでした。
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