レンタルタマちゃん
」のレビュー

レンタルタマちゃん

らくたしょうこ

不安で不穏な朽ちゆく世界で…

ネタバレ
2023年5月13日
このレビューはネタバレを含みます▼ らくた先生は翳りのある人物を描くのが本当に上手いです。「ネガティブ」とは違って「翳り」を内包しつつ普通に生きている人。今作を読んでやっと、今までどう表現すれば良いのか判らなかった先生独自のキャラを自分なりに言語化できました。

今作は人物だけではなく、舞台までもが翳りゆく世界として描かれています。主人公を取り巻く空気は不安で不穏、ゆっくりと朽ちていくのを傍観しながらなす術もなく生を消費していくような世界です。冒頭から最後までずーっと胸が詰まるような世界で二人の物語が紡がれています。近未来SFとして(でも今現在も地球上の他の国で起こっていること)朽ちる世界を選んだことが現実味を得て、それがいっそう辛く響きました。

悲しい物語だと思います。
悪い言い方をすれば読後感はかなり悪いです。
しかし低レビューをお書きになった読者の皆さまさえ、感情を大きく揺さぶられていらっしゃるのがわかります。
商業誌でこういうお話を出され、しかも売り上げていらっしゃり、高評価レビューが多いという事実が、いよいよ今後の創作世界の転換期が来たのか?と思ったり。
もしありきたりのハピエンにそろそろ飽きたな〜と一瞬でも思われたなら今作を読んでみてはいかがかとお勧めします。

希望を見出すことがなかなかに難しい世界で、小さな温かさを頼りにする人間の弱さ。
しかしもらった温もりで最大のパワーを出力できる強さを持つのもまた人間。
喪失を悲しみ、会得に喜び、生きる。
らくた先生の描かれる定石通りには喋らない・動かないキャラクターたちに物語を読んで得る大きな愉楽をもらいました。
ハピエンとかメリバとか、カテゴライズしたくない作品でした。

***らくた先生がちょいちょい描かれる、大人の男の人が猫を見つけた瞬間「猫ちゃん!」と喜ぶところ、大好物です***
あと気になったんだけど、アオって馬につける名前だよn…
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