古書店夕海堂~色褪せないかつての楽園について~
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古書店夕海堂~色褪せないかつての楽園について~

とらのとら

セピア色に色褪せた時を刻む古書店

ネタバレ
2023年5月16日
このレビューはネタバレを含みます▼ 以前、女性が妊娠初期に過度のストレスにさらされると、胎児の男児が女性化するという話を聞いたことがあります。生物の持つ自己防衛反応なのだと考えられます。戦前戦後は正に女性にとって苛酷な時代だったでしょう。
適齢期になれば当然のように結婚をして子をなさねばならない時代はその後も続きましたが、今のように同性愛が認められるはずもなく、当事者はひた隠しにしていたでしょう。結婚をしないという選択肢は当時の人には無かったと思います。私達が思うより、多くの人が自分の心を偽って生きたのかもしれません。
夕海藤次郎と松本敏夫の間に流れた十年の幸せな記憶と距離的にも時間的にも遠く隔たって二度と会うことがなかったということ。そのことを、夕海宗一と椿小鳥は知ります。
人を恋する気持ちはゆっくりと気づけば芽生えてしまっているものです。想う相手が自分を想ってくれるという偶然は何ものにも代えがたい幸せな日々をもたらしてくれます。
しかしながら、『楽園』から夕海藤次郎は出ていかざるをえなかったというのが、副題から察せられて哀しいです。悲しい恋の物語を共感してくれそうな孫に話して晩年の心の慰みにしたのかもしれません。
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