華なるもの
」のレビュー

華なるもの

西つるみ

切なさが良い。

ネタバレ
2023年5月21日
このレビューはネタバレを含みます▼ ●1話に出てくる高前の主人敦満は、なんとこれ以降登場しません。2話にも高前は出てはきますがサイドストーリーという感じで、タイトルどおり舞の師弟の恋模様です。1〜3話は高前が冷酷無比に成り上がっていく様子が描かれ、あらすじの智実は4話より登場、以降ラストまでお話が続いていきます。
●1話の敦満は高前の謀によって左遷されるわけですが、その別れの場面、高前には敦満への想いがあったように読めました。3話でも、敦満のことを蔑まれてブチ切れてます。それに…4話から出てくる智実は、少し敦満に面影が似ている気がします。だから、個人的には敦満は救われたな…って思ってます。
●さて智実。高前には一目惚れだったろうと思われますが、一途に文を寄越し、高前を求めます。情などなかった高前が揺れるのは、智実が謀略など関係なく、身体ではなく、心を求められたから…かな。自分の持っていないものを生まれながらにして持つ智実への憧れもあったのかも。
●ところがこの二人が身体を繋げるのは、あらすじにある“事件”の後。おそらく二度。月明かりの下で。桜の花のそばで。“事件”は高前自身が引き起こしたものだけど、彼は他の生き方を知らなかったのか…。そのせいで二人の間に溝が作られ、互いの胸に互いの存在を深く刻み込んだ。これはもはや、愛というより執着に近い。
●その後、高前は流刑になります。初めて智実が流刑地を訪れたとき、ただ一度だけ目を合わせ手で頬に触れた、この場面好きでした…。でもそれ以降は会わぬまま、扉を隔てて同じ桜を眺めるだけ。その時間は詳しくは描かれていないですが、二人にとってとても大切な時間だったのでは。
●月と桜、太陽の使い方が上手。特に桜はお互いにとって完全に相手そのものであり、『華なるもの』のタイトルや、話の間に差し込まれる散りゆく桜の花びらにもぐっときます。ラストは結局会わないままの死別でしたが、そうとしかならなかったような気もしました。
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