このレビューはネタバレを含みます▼
『錆のゆめ』上下に続くお話。妹と二人施設に暮らす無垢な少年としおさんは、妹に養親を斡旋してもらう代わりにセクサロイドとなる契約を結びます。人としての記憶を消され、性具として扱われるとしおさんと研究員の進藤との出逢いから進藤がとしおさんを引き取るところまでが『錆のゆめ』上下で、一緒に暮らし始めた二人のお話が『左』と『右』で、作者が双子と言うだけに両方読み合わせて初めて全体が見えてきます。『右』はとしおさんの心情を中心に描かれますが、『左』は全体を俯瞰した構造になっています。二人の平和な生活に、としおさんと仲良くなったご近所の幼女とその母親や、としおさんがセクサロイドとなるきっかけになった妹の現在も描かれます。記憶を消されたとしおさんには妹のことも契約の記憶も無かったのですが、妹と写った写真を偶然見つけます。幼いとしおさんの頭では理解できない当時の事情や自分の決断、思い出せないというぼんやりとした不安を進藤が静かに支えます。ふわふわと幸せに暮らしているように見えるとしおさんが人間ではない異質な存在であるという事実を読者は否応無く突きつけられます。としおさんの全てを受け入れる進藤の強い覚悟が清々しく、としおさんがセクサロイドにされたことに反発する進藤ととしおさんが、世間のいわゆる恋人関係にはならないだろうことが切なく、でも温かく心を揺さぶられます。