わだつみの嫁取り
」のレビュー

わだつみの嫁取り

文善やよひ

自己犠牲も愛、我欲も愛。

2023年7月11日
人外も触手もおじさんも趣味じゃないけど、作者様買いです。『鴆』『極夜』と同じく、読み終えた後いつまでも心を囚われてしまうような、余韻の深い作品でした。
序盤は人魚とキヨに関する説明と、触手……という感じで、ちょっとテンポが悪いかな?と思ったけど、このあたりは後半への布石です。何気ないことにも意味がある。
中盤から、「人魚がキヨに話せずにいること」が少しずつ明らかになっていきます。真相のすべて、人魚の想いのすべてがわかったときには……言葉を失いました。キヨを娶ると決めたとき、キヨの元を去ったとき、そして再びキヨの姿を目にしたとき……その想いはどれほどのものだったか。どれほどの孤独を抱えてきたのか。真実を話せない葛藤が、どれほど苦しかったか。
大切な人のために、自分一人で重荷を背負うのも、愛。大切な人に重荷を背負わせてでも、一緒に生きたいのも、愛。
気が遠くなるような苦しい愛の話だけど、暗い雰囲気じゃないです。二人の「熟年夫婦」感が可愛い。塩対応されてもお構いなしにキヨちゃんラブの人魚と、口うるさく言いながら人魚を心配してるキヨちゃん、お似合いの夫婦です。プロローグの「待ち合わせ」のオチが素敵。
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