ジェラールとジャック(白泉社文庫版)
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ジェラールとジャック(白泉社文庫版)

よしながふみ

好きかどうかは別としてよくできた話

ネタバレ
2023年7月23日
このレビューはネタバレを含みます▼ よくできた話だなと思った。間の取り方とか、表情の見せ方とか、余韻のもたせ方みたいなものがうまくて興味深く読めた。

ジャック(受け)のような、きれいでうぶな男が、酸いも甘いも知り尽くした年上の男(しかもけっこう年の差がある)ジェラール(攻め)に溺愛されるみたいな設定に私はあまり興奮しないから★3にしたが、ジャックとジェラールの関係の変化が時代の変化とともに丁寧にかつ無駄なく描かれてておもしろかった。
ジャックは男娼として売り飛ばされ深刻で悲惨な状況から始まるのだけど、悲惨なまま終わりはしない、というか、ジャックとジェラールのことだけに関して言えばまるでコメディみたいにすべて丸く収まってハッピーエンドだし、やり取りされる会話にユーモアがあるので、悲惨が苦手な人でも安心してたぶん、読める。

私はジャックとジェラールの関係よりも、ジェラールの元妻ナタリーと、そのナタリーの愛人アマルリックの存在にどうにもひきつけられてしまった。ナタリーもアマルリックも最低なやつらなので(私が最低と思うのは彼らの子供に対する行いで、男女関係のことではない)、決して好きではないんだけれど、ナタリーが結婚しても愛人との付き合いをやめないことをジェラールは結婚前から許してて、そしてジェラールは愛人がいてもいいから自分と結婚してくれとナタリーに言ったのだが、こんなん羨ましすぎる。浮気されるのはムカつくけど自分が夫公認で浮気できる分には最高、とかドン引きされそうなことを思いながら、自由にすることをジェラールに許してもらえたナタリーが羨ましいとも思ってしまった。
ナタリーが貴族であることにとらわれすぎなのは愚かで悲しいし、子供に対してやったことはほんとクソだから、部分的でも羨ましいなんて思いたくないのだけど、ナタリーとアマルリックは私の中にある嫌な欲望の体現みたいで、こんなやつらとは関わりたくないけど、かといって、自分からまったく遠いわけでもない最低な存在。というわけでいろいろ考えるのが楽しい作品だった。
どうでもいいがジャックの喘ぎ方はあまり好みではない。
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