スリーピングデッド
」のレビュー

スリーピングデッド

朝田ねむい

シュールで残酷で優しくて痛い

ネタバレ
2023年7月30日
このレビューはネタバレを含みます▼ 佐田という善良な教師が突然殺されるところから始まる。容赦なく腹を刺され、二手目を防ごうとする手や顔までボロボロに傷つけられて、絶命。目が覚めた時には両手両足を縛られた状態。そこに現れるのがマットサイエンティストの間宮である。彼から聞かされたのは自分がゾンビのような状態になっており、人肉のみ摂取可能ということ。そして彼から繰り返し受ける拷問に等しい人体実験。と、どこまでも被人道的な展開が進むが、佐田の思考は作中を通して大きく変わらなかった。善意的で、道徳観念を捨てきれず、人肉入手の為の殺人も常に躊躇いを伴っていた。変わったのは間宮の方。当初佐田の内臓を引き摺り出しても何も感じない様子だったが、徐々に愛情が芽生え始めると、箇所箇所で優しさを滲ませるようになった。家族を気にする佐田を気遣ってみたり、温泉の温度を下げてみたりと細やかな気遣いが涙ぐましい。また、ハゲチビという外見的には全く魅力を感じない彼だったが、ラスト直前には佐田と同じく可愛いという思考を抱いてしまったから不思議である。常日頃皮肉めいた口調ではあるが、照れるとそれが加速する。サイエンティストのせいか、告白まで感想文の様だったがその分素直で熱烈だった。その全てが可愛く感じさせられてしまう作中マジックが凄い。そしてラスト。佐田を失いたく無いという彼の恐怖と愛情がひたすら悲しかった。睡眠も食事もままならず、佐田を助けることだけにひたすら魂を捧げる姿が胸を抉られる感覚だった。佐田も佐田で、何となく最後を悟っているのに、間宮に「側にいてほしい」とわがままを言わないあたりに深い愛情を感じた。必死になる間宮を止めることは間宮の研究を信じないことにあたるから、と私は解釈した。それでも本当に限界が来た時には優しく諭して、自分がいなくなった後の間宮を思い、幸せに生きられる様考え抜いたことを伝える。諭す場面は恋人の様でもあり、家族の様で、教師でもあって、優しさの全てが集約されたような佐田の最後だった。残された間宮は地獄だったと思う。結局研究も手に付かず、餓死か疲労死。自分が死ぬ時のために持ち歩いている、と豪語していた注射器が手付かずだったのが全てを物語っている。人生を賭け続けた研究よりも1人の愛した男のもとに逝くほうが幸せだったのだろう。またエロ方面でいうと、挿入でベッタベタになるやつの何万倍もエロかった。生涯BLTOP10入
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