椿
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椿

幸村佳苗

夜の匂いがする繊細な味わいの短編

ネタバレ
2023年8月13日
このレビューはネタバレを含みます▼ エロ無し30頁の短編。大学生の椿はデリのバイトで本折という男に呼ばれます。デリを利用するのは初めてだと言う本折は、行為はナシで話だけしたいと言います。本折の殺風景なアパートで、椿は本折が自らの性癖を認められなかったことや結婚に失敗したこと等を聞かされます。かつて同じ悩みを持っていた椿がデリの仕事で仲間ができて楽になったこと、だから本折にも一人で抱え込まないで何でも自分に言って欲しいと言うと、本折は「君の心を売って欲しい」と呟くのでした。たくさんの人で溢れているが故に孤独が浮き上がってくる都会で、一瞬だけ繋がった細い糸が引き寄せられるように再び繋がり、縒り合わされます。表情の一つ一つが丁寧に描かれる線の細い絵が、どことなく寂しいストーリー、優しく儚げな二人のイメージと相まって、短編ながら印象深く読了しました。
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