レトリック
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レトリック

山田ノノノ

現実の女性差別も隠しテーマのようだった

ネタバレ
2023年8月16日
このレビューはネタバレを含みます▼ この作者さんの作品は、これまで「評判はいいが自分に合わなくて残念」という感想を持ってきたのですが、この作品は好きでした。あらすじとしては、国内有数グループ企業の後継者となるべく育てられてきた伊達御門(だてみかど)。当然Domだと疑わずに受けた第二の性検査でSubと判明。しかしグループを実質的に支配する「お祖母様」はDom至上主義者。Subだということは隠して薬で抑制してやり過ごす日々。ある日、薬を処方してもらいに行った病院で、高校の同級生、須藤蓮(すどうれん)に会う。「俺とプレイして」と苦しげに頼んでくる須藤。ふだん学校でおどおどする須藤のイメージから、御門は「須藤はSub」と思い込み、「助けてやろう、こういうことはこれからも起きるかもしれない、自分にとってこれからの練習になる」と、善行のようでいて傲慢な発想から引き受ける。ホテルで分かったのは、須藤がDomだということ、そしてこれまで全く気づかないできた自らのSubとしての本性。この出来事から、御門のなかにただDomのふりをしていればいいというわけではないのではないか、という問いが生まれていって…というお話。御門と須藤、2人のキャラクターと関係性が抜群です。曇りなく高貴で、自らの義務をただ遂行してきた御門。「好き」という気持ちを暴走させて、期せずして御門の完璧な上辺を崩す須藤。美女と野獣、下剋上ものの変奏のように感じました。このふたりの理性と本能がぶつかり合い混ざり合うような、やがてそれぞれがバランスの取れた自分自身となっていく描写が恋愛とエロスの本質を表しているようで素敵でした。後半、御門がSub性を引き受けて、自分自身のビジョンとして「グループ初のSubのトップになり両性の平等を目指したい」とお祖母様を相手に堂々と談判してみせるところなどは、まるで現実世界の女性差別のことが重ねられているようで、思わぬ感動を覚えました。
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