このレビューはネタバレを含みます▼
おげれつ先生の作品は絵はどれも上手いのだけど、ハマるものと、ハマらないものとがある印象で、本作も表紙で日常生活とは遠い世界の話かな、と思ってつい後回しにしてきたのだけど、今回、セール中なのとレビュー数の多さから手にしてみたら、これがやっぱりおげれつ先生、上手いなあ、と思う名作だった。
場所は夜のクラブで、パリピが集まっていそうな、自分にとっては非日常空間であるものの、表情筋硬めのホールスタッフ、緒方視点で物語が始まる構成がいい。緒方視点で見る、毎晩客として来る褐色男子サヤは、女好きの遊び人という典型的な遊び人に見える。ところが、緒方視点で読んでいるうちに、イメージと違うサヤの素直さが垣間見えるようになって、サヤが調理台に立ち、緒方に手料理を振る舞う頃には、サヤが日常生活を送っている姿に親近感を覚え、一気にサヤを見つめる緒方に感情移入。あぁ、どうやらこの子、見た目と違ってイイ子なのかなと作品世界に引き込まれて読み進めてしまう。
サヤが可愛く見えてしまい悩むノンケ緒方の心中を想像しながらも、サヤが見せる笑顔がもっと見たいと思う緒方に共感し、サヤの幸せを願う気持ちが芽生えた辺りで、緒方がサヤに迫ったくせに…なシーンがリアル…。それでも緒方は悪くない、と笑顔を見せるサヤの表情を見たら、つつー、と涙が流れて、しばし混乱。どうやらいつの間にか感情移入の対象が他人の感情を敏感に読み取るサヤに変わっていて、どうにもならないことに対する諦念が浮かぶ泣き笑いのような笑顔に自分の感情が共鳴したんだ、と気付いたとき、その巧みな構成と画力に唸ってしまった。
そこから、サヤ視点での回想が入り、緒方との出会いがサヤにとってかけがえのないものであることが綴られる展開にグッと来る。一瞬の不穏と修復と、受けのギャップに攻めの意外なテクニシャンぶり…と、解放感溢れる読後感も良き!
レビュー数の多さと高評価に納得の1冊