えにし屋春秋
」のレビュー

えにし屋春秋

あさのあつこ

金子幸代先生の手による凛々しい娘の表紙絵

ネタバレ
2023年9月5日
このレビューはネタバレを含みます▼ 江戸の浅草寺の雷門そばの仕舞屋は、看板を揚げてはいないが、えにし屋といい、約定もなく、紹介もない一見の客は受けていない。人と人の縁を結び、解き、繋ぎ、切る仕事をしている。丁寧な仕事を心掛けるために、一つの仕事に短い時で一月から三月、長い時では一年近くを掛ける。
店の主は才蔵という初老の男で、初という名の者と組んで仕事をしている。
壱話目の『花曇り』では、実の母親から自分の容貌故に邪険にされ油屋に奉公にでたおまいという娘が絡んでくる案件である。十の歳から五年近くも自分の美醜を卑下しながらも真面目に親を恨まないように心して働いてきた娘である。初は人の見た目や態度などからその人の真を見抜くすべに長けているので、おまいが如何に親の心無い言葉に縛れて人目に付かないように自信なく生きてきたかが分かってしまい、その真っ直ぐな心根を生かして、下ではなく前を向いて生きていけるように諭す。
弐話目の『夏の怪』では、一見の客であった吉野作之進の暗くて怖くて美しい眼を見てしまった初が商売の決まりを破って彼を客として迎えてしまう。そして、彼の話を聞いて、推測したことを告げるが、その所為で彼は亡き者にされてしまう。
彼を亡き者にしようとした人に、彼だけが貴女を分かってくれた人だったという言葉を告げる。自分の手を汚さずとも人を殺す依頼をした人も鬼になると告げる。
才蔵と初の過去についても色々なことが分かってくる。
才蔵が死んで地獄に行くのは自明のことだが、それまでの罪滅ぼしのようなつもりで生きているのだろう。決して許されない罪であるにしてもだ。
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