このレビューはネタバレを含みます▼
読み始めて数日間、本の中の世界をリアルに体験しました。最初は主人公たちの様子を遠目から眺めていたのが、いつの間にか暁海と櫂に同化している。最後までたどり着いた時には軽い疲労感さえ覚えたほどでした。素直に作品を一読すると感動しますし、こういうわかりやすくドラマチックなストーリーが最近の読者に好まれるのでしょう。私も凪良作品のファンです。ただ、振り返った時に気になった点がいくつかありました。まず、ゲイの漫画家のパートナーが未成年者イン行で親に訴えられ、SNSで誹謗中傷に遭い…いうくだりがあるのですが、これは現実だとそこまで悲劇的にならないことのほうが多いんですよね。不倫や不正をした芸能人がやたらにネットで叩かれるということはありますが、漫画家の場合は同じことをしてもほぼ叩かれず、その後も活躍しています。現に未成年者イン行をした漫画家が見事に復活してヒット作を出し、アニメ化までしている例があるほどです。ネット民の大半は「そんなことよりも作品の続きはよ!」ですから、それが大人気作品であったらなおさら非難よりもファンからの声援のほうが大きいと思うのです。出版社は訴訟を検討していたようですが、主人公や編集者が個人的に動画やブログで反論したほうが味方は増えたと思うし、週刊誌に真実を訴える記事を載せさせる方法だってあります。やられっぱなしで何も自己発信しないって…ちょっと疑問です。それと「創作によって救われる」というテーマがあったと思うので、こういうピンチの時にこそ「創作することで逆境をはねのける」という展開にしても良かったのではないでしょうか。櫂も暁海も毒親に育てられたにしては良い子すぎるし、悲劇的かと思うとうまくいきすぎなところもあるし、すべてが作者の都合の良い舞台装置のように見えてしまうんですよね。二人とも櫂の母親からの金の無心を一切断らないのですが、それは「金銭的自立」と言えるでしょうか?北原先生も瞳子さんも味のあるキャラですが、作者が訴えたいことを全部台詞にして言わせているような説教臭さを感じます。最後に、暁美と比べて櫂の人生に救いがないのが気になりますね。恋人の死で終わると泣けますが、あのラストはすごく感動を「狙っている」あざとさを感じました。凪良先生はBLだとリアリティがあるように感じるのに、一般文芸になると一気にリアリティがなくなってしまうのが本当に不思議です。