カム トゥ ハンド【単行本版(シーモア限定描き下ろし付)】
世
「手」が紡ぐ優しく繊細なレースのような恋
ネタバレ
このレビューはネタバレを含みます▼
"come to hand"というタイトルから、読む前は単純に「好きだった相手が自分に落ちてくれる」みたいなお話かと想像しましたが、少し読みが甘かったな😄。高校の音楽教師の美晴はピアノを弾き、嵐はタトゥーの彫り師です。2人ともまさに「手」が命の仕事なのですが、ハンドクリーム、絆創膏、手袋といった相手の「手」を思いやる品のやり取りで、彼らの思いがゆっくりと加速していくのが何とも象徴的。嵐が最初に美晴を意識したのも、音楽の教師だったにもかかわらず嵐の「手」を見て絵が好きなのだと見抜いてくれたからだったし、結果的にそれが彫り師という仕事に繋がったのならそれも運命的です。美晴の言葉遣いは敬語が平常運転で立ち居振る舞いにも節度があり、それがこの作品をそこはかとなく品のあるものにしている。嵐も多少のヤンチャはしてきたらしき気配はあるものの、基本的には真面目で優しい。大袈裟な事態は起こらず憎まれ役も出てこず、この2人が淡々と穏やかに仲を深めていく過程の細やかな描写が、細い描線の作画とも相まって、繊細なレースが次第に編み上がっていくのを見ているような思いに捉われました。そして一巻の最後がやはり「手」で優しく締めくくられたのも印象的でした。登場人物全員が、趣きあるお天気の名前なのも何気にステキ♦。
いいね