愛してるから嵌めさせて
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愛してるから嵌めさせて

凡乃ヌイス

読後、心理的安全性について考えた

ネタバレ
2023年10月9日
このレビューはネタバレを含みます▼ 最近芸人BLを出した凡乃先生の元々の持ち味の闇系短編として好きな作品。

どこから見ても好感度しかない、幼馴染の既婚者・商社リーマン速水の友人トモ視点で、なんの不穏さもなさそうに始まりながら、ある日その均衡が破れて明らかになる、コトの顛末…

↓ 以下、かなりネタバレしてます。ネタバレなしがおススメ。ご注意を↓

独身の頃、指に輪っか嵌めてる既婚者って、既に誰かに選ばれていて、恋愛対象にまずならない、と油断して、うっかり気を許していたら、あれ、居心地がいいな、このヒト…となって、こりゃ危ない、と思ったことがあったなあ、と読後に思い出したけれども。

最初に読者が感じる、トモが何を言っても余裕で受け止める速水のもたらす心理的安全性。これが、速水が全力をかけてトモの隣にい続けるために醸し出したものだと思うと、その執着ぶりにゾッとします。

その速水のトモといる時とそうでない時とで髪型やファッション、表情が違っているという描写の細やかさ。そんな細部にわたり、速水がトモに微塵も危うさを感じさせないようにしていることを表現する凡乃先生。素晴らしい。

速水がトモに、快楽、計略、指の輪っか…沢山のものを幾重にも嵌めて絡めとる。その発端がトモの何気なく発した一言にあることが速水にとっての免罪符になっていたんだろうと思うと、一途な執着に絡めとられたトモが可哀想なような、運命だったんだろうというほかないような。

速水がその指の輪っかをいつ、どんな気持ちで買ったのか、最後の着地点をどこに見つけるつもりだったのか。できたら長編で読んでみたい。

そして、読後、冒頭部分を振り返って、凡乃先生に自分が嵌められていたのか…と気付くザラっとした読後感が堪りません。

明るい近著を読んだ方にはそのギャップを、そうでなくても、闇系が好きな方に楽しんでいただきたい作品
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