ハッピー・オブ・ジ・エンド
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ハッピー・オブ・ジ・エンド

おげれつたなか

「普通」ってなんなんだろうな (追記)

ネタバレ
2023年10月24日
このレビューはネタバレを含みます▼ ドブの底の、さらにそこに溜まってこびりついた汚泥のような、そんな人生なんじゃないか。出会う前の二人が過ごしてきたのは。
その中でも浩然はただひたすら純粋に愛を求めて、千紘は求められ認められることを誰よりも欲してた。自分を丸ごと受け入れてもらえること、「普通」の暮らし、ぬくもりがそばにあること、そんな、誰でも少しの努力で手に入るようなことが途方もなく果てなく遠く、手にした瞬間から失う恐怖がまとわりつく。
お互いにお互いがいなければ生きていけないと思うほど愛はあるのに、好きだから一緒に生きていきたい千紘と、好きだから一緒に生きてはいけないと思う浩然。執着があるのはお互いだけで他にはなにも要らないのに、それでもうまくいかない。どうして、と思わずにいられないほど。

それまでがどんなにクソみたいな人生でもなかったことにはできないし、捨てることも忘れることもできない。
それでもなんとかして這いつくばってそんな自分に終止符を打って、浩然は千紘のために、千紘は浩然のために、たとえ今すぐ会えなくても立ち上がるしかない。積み上げるしかない。進むしかない。だからこのタイトルなんだ…とハッとした。

転々とする住まいやホテル、日常のささやかな出来事、誕生日やクリスマス、浩然の闇や傷、千紘の抱える傷、加治の人の善さ、その日暮らしの生活、2人で植えたパンジー、グッチのマフラー、お菓子に付いてたペンダント、マツキ、マヤ、その全てがたなか先生特有の世界観で描かれていて、作品全体に言い様のない美しさと切なさがあってたまりません。
ハッピーエンドなのに単にそれだけじゃない。重く、深く、残るものがある作品ばかりで、なぜこんな作品が描けるのかともうなんか不思議になります。

【追記】
浩然と同じように「千紘」の意味も『広くて大らか』なんだよね、また泣けちゃう
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