このレビューはネタバレを含みます▼
穏やかなようで激しい情熱があり、優しいようで悲しい想いがあり、愛があり恋があり…めくるめく青春のドラマに胸が熱くなったり、大人になった彼らにじんわり泣いたりしました。
理性と本能に翻弄されるオメガの白根。高校時代の彼を忘れられないアルファの清成。彼らの葛藤と恋愛を描いた作品です。タイトルの『52ヘルツ』については、作中で語られています。どの個体とも共鳴しないクジラの声の周波数。この作品には『身体共鳴』という、アルファとオメガが問答無用に影響しあう設定があり、それを厭う白根はそのクジラのように、誰とも共鳴したくないと思っているのです。
しかし途中、恋愛が進むにつれて「52ヘルツじゃなくてよかった」と白根が言うシーンがあります。そこでパッと膜が破れたというか、殻が割れたというか。白根が誰かと想い合い、身体共鳴でお互いを共振し合い、影響し合えることの嬉しさ、幸せを見出だしてくれて良かったと思いました。
でも『52ヘルツの共振』というタイトルを考えると、52ヘルツのクジラは一頭ではなく、ペアとなるべきもう一頭がいたのではないかと、そんなことも思いました。白根と清成がその唯一のパートナーであればいいなと。この作品には『運命の番』という言葉は出てきませんが、2人にはそんな運命を感じています。
あの、ここまで真面目に書いててなんですが、白根が発情期でシャワー浴びてるシーンで、あのムチムチの身体が色っぽくてエロくて興奮しました(笑)エッチシーンがまためちゃくちゃエロくて優しくて激しくてたまらないんです!これ絶対見どころ!!
巣作りの話もすごく良かったなぁ。文学作品のようなBLを楽しみたい方にぜひ読んでほしいです。
【2024.6.27→】久しぶりに読み返しまして、ちょっとメモ。
随所に散りばめられた言葉のエッセンスがすごく秀逸で、ほんの少し、言葉の意味を考えてしまうんですけど、それこそがこの作品の楽しみかたというか。
再会したとき、高校生のとき、好意を自覚したとき、共振のとき、初めて結ばれたとき……どんなシーンにも余白や行間のある言葉が存在しているんです。まさに文学の楽しみかた。
クジラは別に、独りでいたかったわけではないのでしょう。だからこそ52ヘルツで歌っていたんですよね、きっと。白根は孤高のクジラが理想だったけど、清成と結ばれて、孤独なクジラを想って涙したのかもしれませんね。