このレビューはネタバレを含みます▼
華藤えれな先生の小説を探していて見つけました。小山田あみ先生も好きなイラストレーターなので貪るようにして読んでみました。
冒頭から義兄の潤一郎にいい感情を抱いていませんでしたが、今時の車のブレーキに果たして細工などできるのかと、疑問を覚えました。車の構造に余程詳しくないと、ブレーキを効かなくするということは無理なような気がします。そして、そんなことをすれば、車に乗っている人ばかりではなく、関係のない他人まで巻き込んでしまうことに考えが及んでいない時点で、彼はもう人間として破綻してしまっている人なのだと思います。
ベネチアは三嶋朔真と三嶋冬威にとっては懐かしく慕わしい場所なのでしょう。その場所を再生のために選んだ冬威の切ないほどの想いを感じます。果たして、朔真は無心にチェロを弾くことで自分自身の音楽と心に真摯に向き合うことになります。
ベネチアとマーラーと云えば、映画『ベニスに死す』に映画音楽として使われました。主役の美貌の少年ビョルン・アンドレセンは其の美しさと演技で有名になったのですが、当時の撮影に関わった関係者たちから男娼のような扱いを受けていたことが後に分かりました。世界中で、青少年を性的に搾取する人間はかなりの数いるということが分かります。そのことを知ってからは、痛ましくてもう名作映画として考えたり見たりすることができなくなりました。
最終的に潤一郎は、自分の行いのために破滅していく運命なのでしょう。そして、冬威は指揮者として、朔真はチェリストとして生きていくのでしょう。如何やら冬威と朔真の愛は成就したようです。
スクリャービンも好きな作曲家なので、名前と曲名が出てきて嬉しく読ませて頂きました。読む間終始クラシック音楽を聴いていました。