兄弟の定理
」のレビュー

兄弟の定理

沙野風結子/笠井あゆみ

笠井あゆみ先生の絶妙な絵と活字の配置と色

ネタバレ
2023年11月7日
このレビューはネタバレを含みます▼ 随分以前は病院で出産した際の乳児の取り違えが時々発生していたようです。其れを防ぐために出産時に直ぐ母親の手首と乳児の足首に退院時まで外れないようなプラスチックバンドを付けるようになりました。それには母親の氏名が記入されています。それで、今ではほぼ百パーセントの確率で乳児の取り違えは起こっていないようです。
要斗の兄總一郎はそういう経緯があって、別の家族の長男と取り違えられて津向家に暮らしています。其の事実が判った時には、既に相手の家族は全員死去していました。元の形に収めようにも無理な状態でしたし、相手の家族が余りにも悲惨で気の毒な死に方をしたのが推察されて、總一郎の育ての親である要斗の父と母は自分達の息子として変わらず生活していくことを選びます。
其の事実を偶々知ってしまった要斗は自分の兄總一郎に対する想いが何故異質で兄弟愛ではないのかを理解します。
要斗がスタントマンの仕事で知り合った俳優の式見槐は、人を観察して其の人の人物像を的確に把握する能力に優れています。特に自分が興味を持った対象者に対して其れは遺憾なく発揮されます。それで、要斗の思い人が兄の總一郎であることを察します。恋愛対象が両性である式見槐は要斗を気に入って手に入れたいと思うものの、要斗が總一郎を想っている限りは絶対に手に入らないのに気が付いています。そういうわけで、式見槐は要斗の恋情の成就を後押しするのです。
要斗と總一郎に血の繋がりは無くても、兄弟で暮らした年月と実績があるので、二人が恋人関係になるには何回かの段階と心の切り替えが必要なのです。試行錯誤の末にやっと乗り越えて恋人関係を結ぶことができました。今作は恋のキューピット役の式見槐でした。
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