イノセント・デイズ(新潮文庫)
」のレビュー

イノセント・デイズ(新潮文庫)

早見和真

救いがないわけではない

ネタバレ
2023年11月10日
このレビューはネタバレを含みます▼ 結局「死刑で終わる」という話なので、冤罪が晴れること、苦しくても幸せのために生きることが正しいと思う人は「救いがない」と思うかもしれないけれど、私は死刑を執行されることで幸乃は「救われた」と思いました。彼女は自ら望んで罪をかぶったし、心の底から生きていたくないと思っていた。もし冤罪が晴れて釈放されたとしても、生きる気力を取り戻せなかったでしょう。現実に照らし合わせると袴田事件が有名ですが、死刑判決が出てから冤罪で無罪を勝ち取るには数十年の月日がかかります。冤罪ですハイ釈放というわけにはいきません。本人がそれを望んでいれば別ですが、元々生きる気力のない人が裁判で冤罪を勝ち取るまでの年月に耐えられるとは思えないのです。幸乃自身は悪い人ではなく、むしろ心が美しく純粋な良い人で、周囲の人々に愛され、ずっと必要とされていました。家族や友人、知人の描写から見るにつけ、それが感じられたのが私にとっては「救い」でした。ただ、絶望的に運が悪くて、その純粋さを利用されてしまったのだと思いました。昔からの友人である慎一や翔に再会できて話ができたことも、幸乃にとっては「救い」だったのではないでしょうか。彼女を必要とする人は最初は甘いことを言って、最後に裏切るパターンでしたが、彼らの態度は「幸乃を助ける」ということで終始一貫していたのですから。ただ、人間には愛情を受け取る器があって、幸乃は今まで信頼していた人達にその器を粉々にされたので、幼なじみからの愛情を受け取れなかったのだと思います。彼女の精神は敬介と別れた時に死んでしまっていたかもしれません。生きる気力が無いので自ら死を選びたかったけれど、聡からの言いつけを破ることになるのでそれはできない。誰か何かに自分の肉体を殺してもらわなければならない。あまりにも残酷で悲しい結末ですが、彼女は死刑を受けることで生の呪縛から解放された。生きる苦しみから救われたのです。こちらの作品は日本推理作家協会賞を受賞していますが、推理小説とかミステリー小説という目で見ると少々疑問が残ります。警察の捜査が杜撰過ぎやしないかなど、ツッコミどころもあります。けれど、この作品を読むと幼い頃の友情や家庭環境、冤罪事件、マスコミの偏向報道について、何かしら胸に去来するものがある。それを楽しむ作品だという気がしました。
いいねしたユーザ1人
レビューをシェアしよう!