このレビューはネタバレを含みます▼
中身がとても濃い漫画で、作者の力量に感心します。
髪型衣服などの風俗や建物背景、人物の描き分けが巧みで、劇画風タッチがいい味を出しています。また主役の道真のキャラが複雑で面白い。二十歳そこそこの学生で、知的好奇心が強く、大の唐好き。魑魅魍魎怨霊あふれる世界なのに一人合理的。頭は切れるがものぐさで毒舌家、人とつるむのを好まず権力に全く関心なし。でも父や先生には弱く、情もある。その姿は、右大臣にまでなったベテラン政治家、天皇の忠臣、遣唐使停止を建言、学問の神様、日本三大怨霊など、後世の人が持つイメージとギャップがあって面白いです。また身分年齢を超えた業平との友情?相棒?関係もイイ。笑。その他の登場人物もみな個性豊かで読みごたえがあります。
ストーリー展開は秀逸。歴史的事実と事件が上手く絡み合い、読者を飽きさせません。あちこちに含みのあるセリフがあるのでじっくり読みたくなります。業平や学友知人が事件を持ち込み、道真が引きずりこまれ、文句を言いつつ鮮やかに解決するところが面白いのですが、その時の経験や人とのつながりが、道真の視野を広げ人間性を育てていると思わせます。
今後お話は、政治的ひりひり感が増す展開になるはず。権力を求める鬼たちの思惑がぶつかり合い、水面下で蠢き、数々の落とし込みや争いがおき、その先に応天門の変が待っている。世に出る前の若い道真が、どのような立ち位置で事件に遭遇し動くのか、真実を知ったあとどう葛藤し、何を胸に秘め、どう変わっていくのか興味深いです。いずれ「人を動かすには正しい行いをまず自分が見せねばならぬ」という言葉を体現するときが来るでしょう。その時が楽しみです。