天官賜福
」のレビュー

天官賜福

墨香銅臭/鄭穎馨/日出的小太陽

「身は無間、心は桃源」

ネタバレ
2023年12月18日
このレビューはネタバレを含みます▼ 「天官賜福」を読んでいると、この世界の神様は危険なことや都合の悪いことは当たらず触らず、功徳をばらまかれたら奪い合って拾い集め、それどころか仲間の神官が命懸けで人々を救おうとするのを見ても協力するどころか非難し嘲る、ある意味とても人間的で奇妙な「神様」たちに描かれているのです。
「半月関事件」で昔の裴宿は虐げられていた半月を助け優しく接した少年だったのに、神官として与君山に現れた時は、無残に命を落とした小螢という少女に一瞥すらありませんでした。宣姫に対する態度よりもその方に寒々とした印象を持ちました。
「天界の神官にとって地上の人間の命など虫けら同然」と云った花城の言葉は重いです。裴宿も慕情と同じく親の問題を背負っているために、何としても自分の力で世に出たいと思っていた気持ちは理解出来なくもないし半月の云うとおり悪い人ではないにしても、彼女が妖術を修めて再会した時すでにそれを利用しようとしていた…と思われても仕方のないことかもしれません。アニメでは決戦前夜「花将軍の望みでもあったはずだ」と半月の花将軍に対する憧れの気持ちを揺さぶるようなとどめの一言を云っていましたが、そこにはその言葉で彼女は決心するだろうという確信と、一方で裴宿の花将軍への嫉妬の感情が微かに見え隠れしていたように感じられたのは思い過ごしでしょうか。花城の云う「半月が首を吊られ苦しんで死ぬ回数を何回か減らしたかったのかも」という思いが本当に裴宿の中にあったのなら、たった一人の特別な人を救い出すために全身全霊を傾けることも出来たはずなのに…。神の地位を捨てきれなかったがために彼の二百年もまた、なんと罪深く遠回りな年月であったことか…。出世と淡い恋心を天秤にかけて出世に傾かせた裴宿と、花城の殿下に対する唯一無二の誠実な恋慕だけを胸に自分の全てを賭けてのし上がって来た彼の覚悟、殿下と半月のそれぞれのやるせない思いが対比されて描かれているようでこの章は印象的でした。半月がどのような経緯で妖術を身につけたのかは謎だけれど、その心の奥には花将軍への憧憬があったに違いないし、だからこそ彼女の心までは暗闇にのみ込まれなかったのかな…。きっとそうであって欲しい…。
「身は無間、心は桃源」 花城といい半月といい、仙楽太子の御加護侮れないです。
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