このレビューはネタバレを含みます▼
地方で就活中の大学生•伊藤晶は、家と大学とバイト先だけを回る毎日にうんざりしています。晶がカスハラやクレーマーに遭う度に助けてくれる同じバイトの東山創一は、親切な上に県内一の大学に通い、大学院に進むと言います。創一が自分とは違う世界に生きていると思う晶は、好きなバンドが被っていたことから飲み会帰りにそれほど親しくない創一のアパートに行きます。そして酔った創一のなすがままに抱かれてしまうのでした。事後に晶は落ちていた白い粉を創一が慌てて隠すのを見て、本当の創一は自分の抱いていたイメージとは違うのではないかと考え始めます。田舎で変わり映えのしない日常を繰り返す焦りの中で、晶は次第に創一との情事に嵌ってゆくのでした。創一の隠し事、開けてはいけない部屋、不吉な伏線にぞわぞわしながら、読者は晶と共に創一に引き込まれてゆきます。安定しているけれどつまらない、不安だけど刺激的、自分が何を求めているのかわからないまま二人の関係もまた愛と執着•依存の間でグラデーションを描き出します。恋の数だけ、恋人達の数だけ色も形も違うその関係をどう判断するかもまた読者に委ねられており、読後に深い余韻を残します。