only you,only
」のレビュー

only you,only

麻生ミツ晃

only = 唯一の、たった一人の

2024年2月28日
普段 色んなジャンルを読みますが、麻生作品は私のBL魂のコアな存在。嗜好に偏り過ぎた時や 気持ちをリセットしたい時に読むと スーっと心に沁みわたってニュートラルな状態に戻してくれます。物語とは人の心を描いてこそ伝わるもの。恋心と嫉妬心、苦悩や葛藤、狡さも然り、堰を越えて溢れる想いに震えたりと、繊細な心の機微にこそ読み手は心を動かされると思うのです。きちんとした筋書きがあれば、取り立てて特別な事は要らないと改めて気付かされます。多様性や同性婚について盛んに論じられる現代ですが、本作は2013年に描かれたもので 同性愛者に対しての人々の目が今よりまだ厳しかった時代。そんな中で親の圧力や常識に抗って お互いを「only」の存在として見出だしていくお話です。いつも涼しい顔の上司 真木の別の顔を知った須藤。面白そう、あの崩れた顔が見たい、初めは興味本位からだった。身体の関係を続ける中で真木の自分への深い想いを知り「君の好奇心が一日でも長く続けばいいな…」なんて、いじらしい言葉を聞くうちに 段々と惹かれていく。本気さもありつつも、元来ノンケの身としては将来を考えた時に真木との関係に踏み出せなくて判断を委ねたりして、それで自分を納得させて別れを受け入れて。一方 須藤の将来を案じて身を引くも、初めて好きな人に抱かれる喜びを知ってしまった真木は表面上は平静を保っているが、恋しさと寂しさで心が引き裂かれそうで、須藤が残していった思い出と身体の痕跡に縋ってしまう。あんなに切ない涙は無いよ… (泣) 一度は別れた2人が再び結び付くキッカケとなった事情に同情はするけれど、須藤の都合の良さはすんなりと受け入れられないものが。でも 現実を足元から見詰めると綺麗事だけじゃ生きて行けなくて、色々と天秤に掛けた気持ちは分からなくもない。そんな自分の狡さを分かって言葉に出来る須藤を誰も責められないと思うのです。全身で須藤を欲する真木の魂の叫びや、情事後に「好きだ」と涙を流す姿を目の当たりにすると、これは周りがとやかく言う事じゃない、唯々 傍に居てあげて欲しいと思わずにいられないのは私だけでしょうか… それにやはり お互いを「唯一の存在」と確信出来たのならば、それが全てだと思います。いつの日か 2人が手を繋いで歩ける日が来る事を願って止みません。描き下ろしの何気ない視点が素敵。 遠慮無しに心を抉って揺さぶって来る作品でした。流石です✨
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