Chance!
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Chance!

河井英槻

高校生のピュアな力強さと絶対的な無力さと

ネタバレ
2024年3月3日
このレビューはネタバレを含みます▼ 90年代の始め、大型モールに街の個性が塗り潰されようとしていた頃、廃業寸前のポルノ映画館の孫息子•高3の水村裕二は新入生の九条隼人と知り合います。昨年、全国中学校水泳大会をTVで観ていた水村は九条に「家を潰されない」願掛けをし、九条はその試合で圧勝したのでした。そして高校に入学した九条が校庭を走っているところに、部長の徳永に頼まれた水村が罰走を終えるように伝えに来ます。突然現れた水村の印象が強烈で、九条は水村を探し続け、自分も含めた水泳部の壮行会でやっと水村を捕まえるのでした。言葉にせずとも最初から惹かれあっていた二人に、映画館の立ち退き問題が影を投げかけます。繰り返される嫌がらせから逃げ回る水村を抱きしめる九条、夏の陽射しに煌めくプールの飛沫、電車の中でそっと重ねられる手、後夜祭のオクラホマミキサー、熱く狂おしい夏の中まるで映画を観ているように二人の恋が描かれます。九条と水村を見守る徳永が「世の中上手くいかないコトばっかりだ」と呟きますが、高校生にはどうにも出来ない不条理を、それでも相手を信じて自分も信じて乗り越える切なくピュアな名作でした。ぜひご一読下さい。
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