千秋
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千秋

梦溪石

ダークヒーロー×正統派ヒーローBL

2024年3月15日
私は千秋の大ファンですが、千秋は主人公たちの人格や面白いポイントが伝わりにくい作品だとも思います。ですので、これから読む方に向け全体を通しての魅力を具体的なネタバレは無しでお伝えしようと思います。

歴史知識に裏打ちされた重厚な物語はBLという枠に収まりきらない解像度とスケールで展開します。各国・各宗派の勢力争いや各人の価値観について描かれた群像劇の側面を持っていますが、それらは主人公たちの相互理解と成長を促し、最終的には二人の関係性の話に収束していきます。とても心動かされる物語です。

千秋のもう一つの魅力はキャラの濃さです。
晏無師は沈嶠のことを馴れ馴れしく阿嶠と呼んではセクハラをし、怒られると白々しくとぼけるばかりか逆に沈嶠をなじることもしばしば。面の皮の厚さがレベチです。
沈嶠は最初は晏無師にやられっぱなしですが、次第に皮肉を言ったりしてやり返すようになります。そうは言っても沈嶠は根が純粋で素直なので、晏無師のあまりの言い草につい絶句してしまったり。やり取りが毎回どう転ぶかわからず、つい吹き出してしまいます。
一見そうは見えないでしょうが、千秋はユーモアたっぷりでとても笑える小説なのです。

この二人、DVクズ攻め×儚げ美人受けに見えがちですが、本当は違います。
晏無師は他人に対しては傍若無人ながら沈嶠には優しく接するようになり、柔らかく色っぽく迫る攻めになります。彼なりの考えに基づいて行動しているだけで、根っからの悪人というわけではないのです。
沈嶠は最初は瀕死ですが次第に回復し、世間知らずだった自分を反省して精神的にも武功的にもものすごく強くなります。はっきり言って、彼は男の中の男です。
千秋はダークヒーローと正統派ヒーローが摩擦を繰り返した末、互いに無二の存在として認め合うようになるBLなのです。

二人はキスは何度もするものの、性的な要素は無しに互いに特別な存在になります。愛とは何なのか、なぜその人だけが特別なのかということが胸に迫る強烈な説得力で描かれています。
是非物語を最後まで読んで確かめていただきたいです。

千秋は硬派なのにめちゃくちゃ笑えて、笑えるのに深く心が動かされ、魅力的なキャラクターに夢中になれる最高の作品です。
翻訳も読みやすさと硬派さを両立しつつも趣があり、原作の雰囲気をよく伝えていると思います。
読書好きの方に特におすすめします。
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