穢れのない人【コミックス版】
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穢れのない人【コミックス版】

虫飼夏子

あなたは赦せますか?…3/28に後日譚が発売

ネタバレ
2024年3月19日
このレビューはネタバレを含みます▼ 『赦し』『救い』『使命』とは何かを考えさせられる作品。殺人事件とペドが絡む内容ですので簡単にお勧めは出来ませんが、一読の価値はあると思います。子供を犯して殺した罪を着せられて15年間服役した秋鷹を出所後に待ち構えていたのは絶望の日々。命を絶とうとした所を神父の木場に助けられて癒されて、心から信頼出来る存在を得て生きる希望を取り戻していくが… 嗚呼 木場という男への『違和感』がこう言うカタチで現れるとは。人格的に破綻を来した木場なりの背景があって、恐怖と不安の中 こんな風に揺さぶられて狡猾に手懐けられたんだろうな、こんな風に媚びて必死に養父に縋ったんだろうな、と思われる場面が秋鷹への接し方の裏側に滲んで見えて同情する面はあるけれど、犯した罪の重さを考えると肩を持つ事は出来ない。木場家の関係性と共に写真館の主人を含め、登場人物が皆 薄気味悪くて一家を取り巻く闇の深さ、業の深さが恐ろしい。その中で秋鷹の常人の域を超えた慈悲深さが際立つが、きっと理不尽な状況に身を置かれても神を信じ 神を恨まず 神との対話を絶たなかったからではないか。『使命』と言うには酷な作業だけれど、赦す事で己を救い、天命として受け入れて己の中の穢れを浄化したのではないかと思うのです。物凄い歪みと孤独を抱えたアダルトチルドレンに成長してしまった木場の中には本来の人格・破綻した人格・養父の写し鏡の人格の3つがある様に見えて、それが終盤にかけて秋鷹の慈しみの心に触れて1つ消え、2つ消え、本来の自分自身を取り戻せたと思うのです。この2人の間での相互救済はあったかも知れないし、感傷的なラストに一瞬流されなくもないけれど、違和感とモヤモヤした物が心に残るのは 木場がやった事への後悔は言葉にするけれど被害者への謝罪を言葉にしない事、秋鷹も木場を救う事に注視して被害者に思いを寄せない事にある。真に救済されるべきは被害者とその家族だと言う事を忘れてはいけないと強く思うし、聖職者の端くれとして祈りの一つでも捧げるシーンがあっても良かったし、あるべきだと思うのです。再び被害者家族に苦しみを与える事になるのだから… 本編+trust you.だけなら230P位なので一冊に纏めて表題作のみで読みたかったです。上下巻に分けるなら『仮面の…』を外して、駆け足気味だった本編をもう少し丁寧に描いて欲しかったな。ペドの短編『スケープゴート』が刺さる!総評4.5で☆5つ😊
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