コートの嵐
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コートの嵐

灘しげみ

スポーツ少女漫画のルーツ的な存在

2024年5月19日
熱い。魔球が出てくる。奇妙な特訓がある。そこには理屈は一応ちゃんとある。ライバルの存在が居る。
縦ロールのロングヘアの後頭部をリボンで飾ったお嬢さまが登場、華麗なるプレイのその背中には蝶々の羽が描かれる。そして、突如彼女の前に出現した主人公の実力を認め、白目で「おそろしい人」と言うシーンがある。
後年の有名作品の幾つかを髣髴とさせる。
根性論も出てくる。蛋白質は摂りましょうとは思う。寺のお堂で養う精神統一の場面などは、どうしたって本作が元祖。
そう、灘先生作品は恐らく当時の(リアルタイムの読者ではない私にとって)スポーツ少女漫画の中では、格段にパワフルで先駆的な位置取りしていたと思わせる印象的な漫画。だからしっかりと読めるチャンスが此処にあることを、本当に嬉しく感じる。
全3巻。第1巻では守りと攻め、球のバウンド、第2巻にかけて球の回転や、縦方向と横方向の戦略、第3巻辺りではパワーテニスという新時代の主力選手としての歩みが具体化していくことなど。
そして主人公がソフトボールのキャリアを全編で活かし、ラケットの持ち手をスイッチしたり両手打ちをしたりなど繋げていて、趣向を凝らしている。
それにまた、テニスウェアはもちろん、コート外での服も可愛い。
もちろん時代性を感じない訳にはいかない全体の漫画の作りはある。それはしょうがない。漫画が貸本屋さんを主戦場とした時期からの作家であるのだから。
アマチュアリズムとプロフェッショナリズムとの相克など、今やボーダーが低くなったところにこだわりがあったり、テニスの協会や大スポンサーが存在したり。学校のクラブ活動としての矜恃、或いはテニス部に反感を持つ教師の存在など、内容が盛り沢山。
しかしその根底には、成長を続ける主人公の主体的で未来志向の明るさと、前途洋々の若さがあり、読んでいて時代の空気も吸いながら楽しめる。
コマの使い方に、試合途中の緊迫や、跳ぶ球のスピード感、選手の懸命な執着心なども窺える描き方がなされていて、のちの有名作品をインスパイアしたと思える箇所が多い。すごい存在感のあるスポ根作品。ロマンスは添え物として少しの比重。
調べたところ、単行本としては、元は昭和50年(1975)年に初版された物。1974/2/17号~10/27?号週刊少女コミック誌に連載されたのが初出。
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